自分が育ててきた子供は、実の娘ではなかった――。「赤ちゃんの取り違え」という衝撃的な出来事に直面しながらも、娘たちの幸せを守るべく、新たな絆の構築に挑んだ2組の家族の軌跡を、英『タイムズ』や『デイリー・メール』紙が報じています。

産着が変わっていることに気づくも…

ことの始まりは、1998年の大晦日。

イタリアのシチリア州に暮らすマリネッラ・アラーニャさんジセラ・フォデラさんは、同じ日に同じ病院で女の子を出産しました。しかし退院の日、彼女たちは小さな違和感を覚えます。病室に運ばれてきた赤ちゃんが着ていた産着が、事前に預けていたものと違ったのです。

これについて看護師に尋ねたところ、「他の子の“服”と入れ違ってしまった」と説明されたため、それ以上の疑念を抱くことはなかったそう。その後、マリネッラさんの娘はメリッサ、ジセラさんの娘はカテリーナと名づけられ、家族の愛情を受けながらすくすくと成長していきました。

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保育園での衝撃的な再会

事実が明らかになったのは、それから3年後のある日。メリッサちゃんを保育園に迎えに行った際、マリネッラさんの全身に大きな衝撃が走ります。その理由は、同じ保育園で見かけたカテリーナちゃんの容姿が、メリッサちゃんの姉たちにあまりにもそっくりだったから――。

そしてカテリーナちゃんの母親がジセラさんだと知ったとき、産着の件が脳裏をよぎり、“赤ちゃんの取り違え”という可能性が、彼女の中で現実味を帯びたのです。

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赤ちゃんのときに取り違えられた、メリッサさん(左)とカテリーナさん(右)。

「同じ産科病棟に居たので、ジセラ・フォデラさんには見覚えがありました。そこで、私たちは15日後にDNA鑑定を行ったんです。結果を見て、頭が真っ白になりました。こんなこと、あってはならないって…」と、当時を振り返るマリネッラさん。

ジセラさんもその時の心境について、次のように語っています。

「手違いがあったからといって、3年間も育ててきた娘を手放せる人はいないでしょう?」

二つの家族で共同生活を開始

生物学的親子関係が明らかになった以上、娘を交換するべきなのか――苦渋の選択を迫られた両家は協議を重ね、マリネッラさんとジセラさんは最終的に、同じ決断に辿り着きます。それは、“2組の家族が共に暮らし、協力して娘たちを育てていく”という方法でした。

家族みんなの気持ち、そして何より娘たちの幸せを壊さないためにも、ゆっくりと絆を育んでいくのが最善だと考えたのです。こうしてメリッサちゃんとカテリーナちゃんは、4人の両親と8人の祖父母に囲まれながら、一つ屋根の下での生活を始めました。

2家族の共同生活は非常に上手くいっていましたが、またもや新たな試練が訪れます。専門家から「子供が生物学上の家族と、新たな生活環境に馴染めるよう、少なくとも6カ月間は各々の家族で暮らしてみるべき」と提案され、程なくして共同生活を中断することになったのです。

3年間育ててきた娘と離れて暮らす――これは、マリネッラさんにとっても、ジセラさんにとっても、とてつもなく辛い時間でした。2人は来る日も来る日も、泣きながら電話で連絡を取り合ったそう。そして3カ月が経過した頃、ついに心が限界に達します。

両家は専門家のアドバイスに従うのを止め、以前のような交流を再開することに決めたのです。

「それからは、毎日メリッサと会いました。会わないなんて、耐えられるわけがありません。私があの子に母乳を飲ませ、言葉を教えたのですから。その後の人生も全部共有したかったのです」と、マリネッラさん。

その後、両家は空いた時間や週末を共に過ごし、娘たちの誕生日をはじめとするイベントは、必ず一緒に祝うスタイルを貫きました。メリッサちゃんとカテリーナちゃんは学校でも同じクラスで、本当の姉妹のように仲が良かったことも、親たちにとって大きな励みになったそうです。

娘たちが8歳の時にカミングアウト

こうした家族の愛情と懸命な努力により、娘たちが8歳のときに真実を打ち明けた際も、彼女たちはそれを自然に受け入れ、その後の生活が変わることはありませんでした。

取り違えが発覚してから20年。現在23歳になり、大人の女性に成長した2人は、今も仲良く幸せな日々を送っているそう。自分たちの子供時代について、メリッサさんは次のように述べています。

「(2家族での生活は)まるでゲームをしているような感覚でした。私もカテリーナも、今や3歳以前の記憶がないんです。私の成長過程において、(3歳まで育ててくれた)マリネッラはいつも、“もう1人のママ”として傍に居てくれる存在でした。それは今も変わりません」

さらに今年、放送作家のマウロ・カポリッツォ氏が、両家の話をベースにした脚本『Sorelle per sempre(永遠の姉妹)』を執筆し、テレビ映画化されることに。作品は現地時間の9月16日に放映され、大きな反響を呼びました。

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テレビ映画放映にあたり、現地メディアに大きく取り上げられた母子たち。左から、ジセラさん、メリッサさん、カテリーナさん、マリネッラさん。

カポリッツォ氏は、メリッサさんとカテリーナさんの関係について、こうコメントしています。

「彼女たちは今や、姉妹を通り越して、まるで双子のようです。そこにある愛が、2つの家族を結びつけているのでしょう」