ここ数年、自分自身と結婚式を挙げる「自分婚」が静かなトレンドになっているんだそう。「自分を幸せにすること」を誓うことで何かを決意し、気持ちに区切りをつける女性たち。彼女たちが自分婚を選択した理由とは? ジャーナリストのアビゲイル・ぺスタによるレポートを、コスモポリタン アメリカ版から。

自分婚を挙げることは大きな決断でした。

2016年春、ブルックリン(NY)のアパートの屋上でエリカ・アンダーソンさんはヴィンテージのウェディングドレスを身にまとい、ごく親しい友人たちの前に立っていました。自分自身に愛を誓うために。

「私は私自身と共にいることを誓います」――そう宣言した彼女は、ブーケトスをした後2杯のウィスキーを飲みほしました。1杯は自分のため。そしてもう1杯も自分自身のため。

彼女はこの式を何週間も掛けて準備したのだそう。招待状を送り、ドレスを探し、誓いの言葉を考えました。そしてバラの花束や美味しいバゲット、大好きなフルーツタルトも用意しました。並べられたショットグラスには"あなたと私"の文字が刻まれ、その11つに赤いバラがあしらわれていました。

「自分婚を挙げることは大きな決断でした。そのことを招待状にも書いたほどです」と語るエリカさん。「35歳の私は人生に怯えていました。誰かと一緒に落ち着いた生活をしたかったけど、アパートには私1人。でも今は違います。36歳の誕生日に、私は婚約指輪をはめて私自身に愛を誓うことを決めました。実は結婚の登記もしたんですよ。だってここはアメリカ。自由の国にいるのですからね」。

自分婚はここ数年、静かなブームになっています。自分婚を企画するウェディングプランナーが世界各地に登場し、カナダにある「マリー・ユアセルフ・バンクーバー」はコンサルタントサービスとウェディング写真の撮影を提供、京都にある旅行会社「チェルカトラベル」では素敵なウェディングドレスを着て写真撮影をすることができるパッケージを紹介していました(201610月で受付終了)。また<I Married Me>では自分婚用DIYキットを販売。50ドル(約5,600円)セットには純銀の指輪、式の説明書、誓いの言葉、結婚報告カード24枚が入っており、230ドル(約26,000円)のセットになると指輪がホワイトゴールド(14K)なるとのこと。

これは法律上の結婚ではもちろんありません。『すべての独身女性へ:未婚の女性たちと独立国家の台頭(All the Single Ladies: Unmarried Women and the Rise of an Independent Nation)』の著者であり、作家のレベッカ・トライスターさんはこの現象を「これはある意味、伝統への挑戦です」と語っています。「女性たちが経済的安定やセックスライフ、そして子供を持ちたいと願った場合、それは結婚して初めて許されるもの、という社会的プレッシャーが長きに渡り存在していました。でも私自身のように長い間独身で、その後結婚した女性の場合、結婚によって得られる"社会的認可"のようなものにはなじむことができません」。

婚姻率(自分婚ではなく、他者との結婚)は年々低下の傾向にあるようです。ピュー研究所の調べ(2011年)によると、アメリカに暮らす成人男女のうち、既婚者は51%。しかし1960年には18歳以上の72%が既婚者だったそう。これにともない初婚年齢も上昇しており、現在の平均初婚年齢は女性が26.5歳、男性は28.7歳とのこと。

このような現状にも関わらず、独身女性に対する厳しいまなざしはいまだ存在しています。レベッカさんは「出来上がってしまった結婚観や女性像が何世紀にも渡ってそのまま残り続けているのです」と説明。「子どものときに読んだ物語を思い出してみてください。ヒロインは最後に結婚し、ハッピーエンドで完結。つまり結婚が女性の究極のゴールと見なされているんです。そんな中、自分婚のような新しい結婚の形が生まれたことは嬉しいことです。自分と結婚することは『誰かと結婚しているのと同じように、自分自身の人生が意味深い』と宣言していることなのですから」。

エリカさんには結婚歴があります。元夫は学生時代の恋人でした。ミシガン州にあるカラマズー・カレッジで出会い、数年後に結婚。2人でヨーロッパに移住しました。しかし次第に2人の心は離れてしまい、30歳のときに離婚しました。

その後彼女はブルックリンに引っ越し、何人かの男性とデートしたものの長くは続かなかったそうです。そして昨年、"本を書く"という長年の夢を叶えることを決意。ずっとしまったままだったブルートパーズの婚約指輪を再び指にはめ、本を書くことに集中しました。指輪は彼女にとって、決意を忘れないためのリマインダーだったのです。そしてこの指輪が、彼女をさらに大きな決断へと導くことになりました。

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エリカさんのアパートで。「初めての私自身のアパート! ここまで来るのに時間が掛かったわ」

ある晩、バーにいると男性が声を掛けてきました。彼がエリカさんの婚約指輪に気づき、「(君と婚約している)ラッキーな男は誰なんだい?」とたずねると、彼女は冗談っぽく「(婚約しているのは)私自身よ」と答えました。でもこれが自分自身について考えるきっかけとなったのだそう。「独身だと、誰にも選ばれなかった女性だと社会に烙印をおされてしまいます。でも私は自分自身を選んだんです。自分で自分を守る、と決めたんです」とエリカさんは決意を語ります。

彼女は「他者との結婚」を選んだ人たちを否定したいわけでは決してありません。素敵な男性とデートしたいといつも思っているし、伝統的な結婚の儀式的かつ象徴的な意義を尊重しています。「今回の自分婚は、友人たちに集まってもらい、お互いに支え合っていることを確認しあう、そんな会にしたかったんです」とエリカさん。できるだけシンプルに、招待客もごく親しい友人だけの小さな式。オンラインでドレスを購入し、そのドレスに合うレトロなウェッジサンダルも買いました。加え、フランス語で「私があなたを選んだ」と書かれたカスタムメイドのブレスレットもオーダーしました。

自分婚を挙げるという決意を理解できない人たちもいます。エリカさんの父親は「本当にそんな式をあげるつもりなの?」と聞き返し、またある男性は「何だかナルシストっぽい。そんな式、意味あるの?」と言ったそう。「自分がしたいことを選択する自由は誰にでもあるはずです。自分婚はまだウェディング業界の垢にまみれていない、新しいことなんです」とエリカさんは語ります。

自分を信じ、自分を美しいと感じ、そして自身だけでなく他の人の欠点も受け入れることを誓ったんです。

女性のためのエンパワーメントコーチであるサーシャ・ケイジェンさんは、自著『奇妙な孤独:妥協のない恋愛のためのマニフェスト(Quirkyalone: A Manifesto for Uncompromising Romantics)』の中で自分婚を紹介し、自身も3年前、40歳になったことをきっかけに自分婚を挙げました。場所はブエノスアイレスにある日本庭園。「2人の親しい友人の前で自分を信じ、自分を美しいと感じ、そして自身だけでなく他の人の欠点も受け入れることを誓ったんです」とサーシャさん。首に掛けたネックレスにはチャームが2つ。1つには"愛"、もう1つには彼女の本名である"アレキサンドラ"と書かれています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

サーシャ・ケイジェンさん。

エリカさんと同じように、サーシャさんも、人生を今後ずっと1人で過ごしたいわけではありません。彼女自身、いつか自分と合う相手に出会って結婚したいと思っていますが、1人でいたくないから誰かと付き合う、ということはしないようです。「人生を台無しにしたくないですから。自分と結婚することは、自分の夢に責任を持つということなんです。実現したいけどまだできていないことがあるのなら、より真剣に人生と取り組むことを後押ししてくれるのが自分婚なんです」とサーシャさんは語っています。

ブルックリンのアパートの屋上で行われたエリカさんの自分婚は、彼女が予想した以上に意味深いものとなりました。「友人たちが出席し、サポートしてくれたことが何よりのプレゼントでした。そこにいた全員が、式を温かく見守ってくれたんです」。誓いの言葉としてインド人作家ディーパック・チョプラの名言「考えたこともないような出来事に、自分の身をゆだねなさい。そこには厳格なルールも、限界も、予想可能な結末もありません」を皆の前で読み上げ、その後全員で祝杯をあげました。

友人たちが"ギフト・レジストリー(結婚祝いの贈り物リスト。リストの中から選んで出席者が贈り物をする)"を用意してくれていたことをエリカさんは知りませんでした。贈り物はまな板、水切り用ボール、製氷用トレーなど。11つには心のこもったメッセージが添えられていました。

「エリカとエリカ、おめでとう!」

2人はベッドでの相性もバッチリのはず!」

「これって最高に平等な結婚だと思う。だってあなたたち2人、どちらも料理も掃除もしなきゃならないものね」

エリカさんの招待客の1人サミ・ラブーさんは、この日まで自分婚について聞いたことさえなかったそう。でも式が心に訴えかける、感動的なものであることに驚いたと語っています。「出席した人たち全員が、自分自身のことを振りかえったはずです。自分に優しくできていただろうか。もし自分にプロポーズされたら『はい』って言えるだろうか? 健やかなときも、病めるときも、私自身と一生添い遂げたいと思うだろうか? ――そんなことを皆が考えたはずです」。

自分婚を挙げてから数カ月がたち、エリカさんは今まで以上に自分自身と共に生きていると実感しているそうです。アパートの修理をし、旅行を楽しみ、本を書くことに情熱を注いでいます。もし「結婚してる?」とたずねられたら、エリカさんは迷いなく「結婚してるわ」と答えるはず。そして彼女のパートナーである自分自身を紹介するはずです。

「『あなたって出会い運があるのね』とよく言われていたけれど、そのとおりね。私は私と出会えたんだから

この翻訳は、抄訳です。

Translation: 宮田華子

COSMOPOLITAN US