私のウェディングフォトには、他人が見てもすぐに気づくような、ぽっかりと空いたスペースがあります。本来であればそこは、姉のジャッキーが立っているべきスペース。

ほかの姉妹、いとこや叔母、そしてあまり会わない親戚なども一緒に写っているのに、ジャッキーの姿はありません。でも、彼女のことを愛していないわけではありません。愛しているけれど、私は「結婚式に来ないでほしい」と頼んだのです。

文:ダイナ・ギャッハマン

過去20年間近く、ジャッキーはアルコール依存症で苦しんでいて、私たちは決して「良い」とはいえない関係でした。そして2021年、結果的にこの病は彼女の命を奪ってしまうのです。

彼女に関する不安の以外に、結婚式の5週間前、私の母がステージ4の大腸がんと診断されました。ジャッキーはその数週間前にやっと再び禁酒を始めたばかりでした。このような心苦しい決断した、もしくはしなければならなかった人は、私以外にもたくさんいます。

難しいけれど、必要な決断

アメリカでは、2022年の1年間だけでも約260万の結婚式が行われています。幸せに溢れるイベントの中、家族や身近な人への招待を避けなければいけなかった人もたくさんいたはず。

その多くは意地悪などではなく、虐待、メンタルヘルス、過去の暴力的な行動、価値観の違いが原因で、当日の緊張状態を避けるためです。

同じような経験をしたことがない人からしたら、家族や身近な人を大事なイベントに招待しないなんて、冷酷で薄情な人だと思われるかもしれません。しかし、専門家によれば、このようなケースは珍しくないそうです。

「どの家族にもありえること」とアリソン・モイア・スミスさん。スミスさんは、心理学者で、結婚の悩みに特化した会社エモーショナリー・エンゲイジドを創業し、結婚式が近づく人々のメンタルヘルスを専門としています。結婚式が近づくと、独身として過ごす最後の日々に感傷的になったり、人間関係の“整理”をしたり、身近な人を招待しないことへのプレッシャーなどがあるそうです。

私は今でも、ジャッキーに電話をしたときのことを覚えています。できるだけ穏やかに、なぜ来ないでほしいのかを説明しました。またストップが効かなくなって、飲みすぎて、会場から追い出される姿を見たくなかったのです(過去に実際に目の当たりにした光景です)。人生の一大イベントですでに緊張していたし、さらに、抗がん治療を始めたばかりの母親の心配もしながら姉の面倒も見ることは無理だと思いました。

私の不安と理由を伝えると姉は「そうだよね、わかった。素敵な日にしてほしいから。また別で祝おうね」と言ってくれました。そんな姉の優しさと理解が、招待しなかった罪悪感を助長しました。

友人や母を招待しないと決め…

ニューヨーク・マンハッタン在住のライター、ブレイク・タークさんは、友人を招待しないという決断をしましたが、“冷静”にそれについて会話をすることができませんでした。

友人のRさんとは数年来の関係でしたが、婚約から結婚式までの一年間で関係が悪化したと言います。Rさんの不安定な態度といびり、虐げが原因だとタークさん。結婚式には招待しましたが、仲の良い友達で開催するバチェロレッテ・パーティーには招待しないことを決めたそう。

「今考えてみれば、いざこざなく上手くいくわけがないのですが、なぜかそういう決断をしました」とタークさんは振り返ります。そして、バチェロレッテに招待されていないことを知ったRさんは、結婚式を欠席することに。結婚式のわずか数日前に、怒りのメッセージが届きました。

結婚式で嫌悪な空気になることは避けられたので結果オーライなのかもしれませんが、タークさんは違う対処の仕方があったのではないかと後悔をしています。

「きちんと2人で面と向かって話すべきだったのかもしれません。自分の身を守りたくてそれを避けていたのだと思います」

「心の境界線」は不可欠

テキサス州・オースティンを拠点とするマーケティング役員のオリヴィア・オージエさんは、ハワイはマウイ島での挙式に母親を招待しなかったと言います。

母親はアルコールとドラッグの依存症に苦しめられていて、疎遠になっていました。長年の経験から、母親の発言で飲んでいるかどうかを鋭く判断できるようにもなっていたのだといいます。

「母を呼ぶということは、彼女が何をしでかすのか、私に何か言いがかりをつけてくるのか、式中ずっと不安でいなければならないということだった」

人間関係が、不安やトラウマの原因やトリガーになることは珍しくありません。「家族問題から距離をおく決断をすることは、弱った筋肉を鍛えるようなもの」とブルックリンを拠点とする公認臨床心理士のヘザー・コールマンさんは言います。

「家族や友人とヘルシーな心の境界線を引くことがなかなかできない、『ノー』と言うことが難しい場合、心理的なサポートをしてくれる専門家に相談することもおすすめです」

オージエさんは誰がなんと言おうとも、二人の関係に(母を結婚式には呼ばないという)境界線を引くことを決めました。親戚からの質問や罪悪感の押し付けもありましたが、自分の健康を考えて決定。最後まで、決断を変えることはありませんでした。「結婚式当日、他のことに気を取られず、楽しむことができた」とオージエさんは振り返ります。

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Bogdan Kurylo//Getty Images

「自分を優先していい」と気づき

母を招待しないと決めてから、結婚式を行うまでの数週間は「つらかった」とオージエさん。ドレス選びや式の準備を、母と一緒にすることをずっと想像してきたからです。しかし、当日、自分の決断に迷いはありませんでした。

「罪悪感にさいなまれたり、後悔するのではないかという不安はありました。でも、自分のことよりも他人のことを心配しているようではいけません。自分を優先して良いのです」

“問題”の多い人から距離を置くことは、心理学的にはとても健全なこと」とベストセラー作家で研究者のダニエル・ピンクさんは言います。

ピンクさんは『後悔の力――過去を振り返ることが、いかに私たちを前進させるか(仮題、日本語訳版刊行予定)』の中で、“後悔”のポジティブな面について言及。「長い目で見ると、人間が後悔するのは、何をしたかではなくて、何をしなかったかであることが多い」と言います。

ピンクさんは、大切に思う誰かを一大イベントに招待しないことを「勇敢な行動」と評価しています。その瞬間はそんな気持ちにならないかもしれませんが、その後、不安が減り、幸せな気持ちになった時に、行動を起こして良かったと思うようになるでしょう。

“気まずい”会話をする際に、覚えておきたいポイント

もし既に疎遠になっている場合、何で招待しないのかの理由を伝える気まずい会話をあえてする必要はないかもしれません。しかし、私と姉のような(日ごろから交流がある)場合は、対面か電話できちんとコミュニケーションをとることが大事です。

専門家の二人は、伝えづらさを感じるようなトピックを話すときに大事なこととして、以下のようにアドバイス。

  • お互いのことを思っての決断であると伝えること
  • 直感的に話を始めず、その人がイベントに来た場合と来なかった場合を、きちんと頭の中でシミュレーションしてから話すこと

話しづらいと思っても、家族や友達と一緒に伝えることは避けた方がいいと言われています。それは、集団で攻撃をしているように思われてしまうから。最初から緊張感のある会話になるだろうと想定することで、対処もしやすくなるはず。

「会話がヒートアップしてしまったら、休憩を挟むように。また、数日の間に、考えて再度話し合うことをすすめています。一度で話をまとめる必要はありません(スミスさん)」

もし、最終的にイベントに招待することになった場合は、その日のことをきちんと計画しましょう。問題の行動を起こし始めたら誰が対処するのか、当人からのスピーチはなしなどのルール等も決めておくと良いかもしれません。

心の境界線は、メンタルヘルスにとても重要」だとオージエさんは言います。

私は結婚式の当日、姉のことを頻繁に思い浮かべていました。彼女には来てほしかった。この世界が完璧なら、彼女はそこにいたはずでした。でも、自分の決断には後悔していません。彼女がいないということは、私が結婚式を存分に楽しむことができるということ。

夫、友達と家族、そして自分にフォーカスをすることができ、とても素敵な結婚式になりました。

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:佐立武士
GOOD HOUSEKEEPING