嫉妬も束縛もなく、心に正直に複数の人を愛する――。
それは可能なこと? コスモポリタンでも何度か取り上げてきた「ポリアモリー(複数恋愛)」。2人の間にルールが定められているからこそ、浮気ではない。そして相手に飽きることなく、いろんな人と恋愛を謳歌することができるとしたら…?
「アムール(愛)」の先進国フランス在住のライターが、恋愛の専門家への取材、ポリアムール(フランス語で「ポリアモリー」の意味)のイベント参加を通して、多様な「愛のカタチ」をリアルな目線でお届け!
恋愛の専門家が指南する「多様な愛のカタチ」
今回お話を伺った先生
ファビアンヌ・クレメ先生
南仏アルル近郊在住。スカイプで在外フランス人を対象に、精神分析家として悩みをコンサルティング。恋愛についての本を多数執筆する。著書に、『 Solo, no solo, quel avenir pour l'amour?』 、『 21 clés pour l'amour slow』など。
「複数の人」を「同時進行」で愛する、ポリアムール
―ポリアムール志向の人の特徴を教えてください。
私の見解では、ポリアムールには2種のタイプがいます。
1つ目は、誰かが去ってしまって、1人になるのが怖い人。複数の人と恋愛関係にあることは、1人だけと付き合うよりも、傷つくリスクが少ないので。2つ目の可能性としては、嫉妬をあまり感じない人です。嫉妬と所有欲は、密接な関係にあります。特にモノが溢れる現代では所有欲が強く、嫉妬の感情を抱きやすいので、後者のケースは珍しいですね。
―女性の生涯において、「ポリアムール」を考えてしまう状況とは?
20代、30代で子供がいる女性は、これらの考えが生まれやすいかもしれません。
恋愛や性への欲も旺盛な時期。今のパートナーと、一生このまま同じ日々を過ごすことへの不安を抱き、『家族のために結婚生活は続けるけど、外の世界も経験したい』と思いはじめる…。そこで、単調な日々から逃れるために、夫婦の関係を続けながら外でも公認で恋愛するという、ポリアムールに興味をもちやすいんです。
特に現代はマッチングアプリに見られるように、選択肢が「無限大」な時代。100%、この機会を楽しまないといけないと多くの人が思う傾向もあります。
いざ、「ポリアムール」のマッチング・イベントに潜入!
参加者が全員ポリアムールの、ホームパーティー風マッチング・イベント。
インターネットで検索していると、ポリアムール専用のマッチング・イベントを発見! とりあえず開催予定の、パリ11区のカフェに行ってみることに。
パートナーがいる私は、「新たなパートナーを探している」と言うと嘘を取り繕うのに必死になりそうだし、堂々と「取材に来ました」とも言えない。結局、「ポリアモリーに興味があって来ました」というニュートラルな姿勢で挑むことに。
予定場所の老舗カフェに着いたものの、一般客がテラスでパリの午後を楽しんでいる風景が広がり、それらしきグループが見当たらない。イベントの主催者にメッセージを送ってみると、2階の個室にいるとのことで、「おいで」の一言が。
「個室⁉ ハーレムのようなことがおこなわれていたら…」と膨らむ想像と不安を振り払って階段を上ると、ソファーが並ぶコージーな室内に20人ほどの男女(男6人、女14人)を発見。大半が20代から30代、アフリカ系やアラブ系のフランス人、イギリス人など人種も様々。3つのグループに分かれ、1組目はボードゲームで大盛り上がり、2組目は真剣に「愛」について語り、3組目は女性だけでトランプをしている。とりあえず、3組目に混ざってみることに。
想像していたような「真剣にパートナー探しに来る場」という感じではなく、みんな「ポリアムール」の考えを共有するだけで、友達同士でホームパーティーをしているような雰囲気に肩の力が抜ける。
※写真はイメージです
現在5人と恋愛中の28歳女子
① 妻のいる男性 、②独身男性、③遠距離恋愛、 ④バイセクシャルとの恋愛、⑤近所の男性との情事を同時進行中…
トランプが盛り上がる中、隣の席に座っている、笑顔が人懐っこい28歳のバイセクシャルのレアに話しかけてみることに。
「初めて彼氏ができてから今まで、ずっとポリアムールだったわ。でも、友達にも、保守的な両親にも理解してもらえないのが怖くて、なかなか言えないのが悩み。このイベントでは自分の本音を他のポリアムールの人たちと自由に意見交換ができるから、心が解放されるの」
こう語る彼女は現在、このイベントの主催者であるフランソワとポリアムールの関係にあり(抱き合い、見つめ合って微笑むなど、恋人の空気感を醸し出していた)、同時にこのイベントに参加中の他の男性、そしてポルトガルに住む男性、ノルウェーに住む女性、同じアパートに住む近所の男性の計5人と現在恋愛関係を同時進行中だそう。それぞれとの関係を、愛情を込めた表情で語る彼女が、自身の経験を教えてくれた。
「人間はみんなそれぞれ違うでしょ。1人ずつに対して違う種類の純粋な愛があるのに、“恋人”とか“友人”とかの『枠』を作って、大切な人との関係の可能性を制限する理由が私にはわからないだけ」
「自分の中のルールとして、付き合うときに『私は実はポリアムールなの』と説明して、合意してくれる人と付き合っているわ。それでも失敗はたくさん。承諾してくれたのに、結局ポリアムールが性に合わずに別れたり、初めは無理と言ってた人が最後には彼までポリアムールになったりしたこともあったわ」
※写真はイメージです
イベントは子どもも参加OK
前述のレアの彼氏の1人で、このイベントの主催者であるフランソワは、眼鏡に黒髪のロングヘアが似合う、中性的な雰囲気の35歳。彼の妻もポリアモリー主義者で、フランソワ自身、現在付き合っている人が3人いるという。
「僕にはポリアムールは性に合っていて、おかげですべての関係が円滑に回っているよ。でも、フランスでは宗教や社会的な理由で声にできずに、思いを封じ込めて周囲に馴染めない人もいる。そんな人たちが交流して、楽しめる場所を作りたかったんだ。このイベントには子連れや家族で来る人もいるから、ゲームやお絵かき道具も用意しているよ」
と、優しそうな口調で語ってくれた。
「SMもポリアモリーも、根底は共通しているんだ!」40代男性の哲学
まだまだ調査を進めるために、近くにいた40代の眼鏡をかけた「真面目」な雰囲気のマチューさんに声をかけてみることに。挨拶をすると、なんと彼は日本語がペラペラ。なぜ日本語を習ったのか聞いてみると、「ヘンタイを勉強するため」という答えが! 「タイヘン」の間違いかと思い、会話を進めて職業を聞くと「SHIBARI(縛り)」という回答が。予感的中、彼は、日本のSMの世界に惚れ込み、緊縛師のもとで修行をするため6カ月間来日、そこで得た技術を活かし、フランスのアンダーグラウンドでこっそり調教しているんだとか(このイベントの常連という彼は、他の参加者にも「SMの人」と認識されている)。
20分ほど「人それぞれ感じ方が違って、だからSMの世界は奥深い」という哲学を、熱心に語るマチューさんの会話の後、なぜポリアムールのイベントに参加したのか聞いてみた。
すると、急に白い紙とペンを取り出し、交差する三つの輪を描き出した!
「SM、そして縛りは相手の『快』を理解しようとする行為。ソフトなことが好きな人もいれば、ハードなことが必要な人もいる。だから、より多くの人と実践していくことが大切なんだ。ポリアムールも同じ。違うパートナーを理解し、相手を喜ばせる過程で、お互いが成長していく」
彼は現在、パートナーがいるという。マチューさんのSMへの情熱を理解しているという彼女は、ポリアモリーを承諾済みなよう。
会話が複雑な方向に行きすぎたので(そしてターゲットになる前に…)、この日は場を去ることに。