映画『アシスタント』で#MeToo運動を題材とする、映画業界の性差別的な構造を淡々と描いて多くの人に衝撃を与えた、キティ・グリーン監督。新作でもまん延する性差別に切り込んでいるそうですが、性的暴力を含むシーンは描いていないと言います。そしてそこには自身の大きな意図があるのだそう。

11月3日(現地時間)にイギリスで上映が開始された、グリーン監督が手がける新作映画『The Royal Hotel(原題)』。

同作はオーストラリアの旅の途中で資金が尽きたバックパーカーの女性二人が、田舎町のパブでバイトを始めるというストーリー。そこで彼女たちが受ける、常習的なセクハラや性差別、そして数えきれないマイクロアグレッション(見過ごされやすい差別的な言動)を描きます。

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THE ROYAL HOTEL - Official Trailer
THE ROYAL HOTEL - Official Trailer thumnail
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ガーディアン>紙での最新のインタビューでグリーン監督は、同作でハラスメントの実態を多く表現しているものの、レイプや殺害を含む性的暴行のシーンを描いていない理由について、次のようにコメント。

「...一線をこえないようにすることが大事だと思ったのです。そうしないと男性の観客が『わたしたちはここまでひどくない。あんな風にはならない。(映画の中の彼らは)悪者だけど、私たちは違う』と言う可能性があるから」

しかしそういったシーンがなかったことに対し、資金調達の段階で何人かの支援者から、“何かが足りない”と指摘されたことも明らかに。また鑑賞した人の一部からも、「ぐつぐつ煮えているが、沸騰点には達しない」といった反応があることを確認しているというグリーン監督。

「レイプであれ何であれ、あからさまな暴力行為を求めているのだと思います。(中略)彼らが期待するだけでなく、もはや望んていたシーンは何だったのだろうと考えると、恐ろしくなります。もうすでに映画では、たくさん描かれています。あのシーンは絶対に必要ないのです」
the imdb studio at acura festival village on location at the 2020 sundance film festival – day 3
Rich Polk//Getty Images
『アシスタント』でも主人公を演じたジュリア・ガーナー(左)と、キティ・グリーン監督。2人は新作でもタッグを組んだ

『The Royal Hotel』は、二人のフィンランド人バックパッカーの体験談を基に、2016年に公開となったドキュメンタリー作品から、インスピレーションを得て制作を決定したのだそう。

それは、ミソジニー(女性蔑視)がまん延する環境に置かれた二人が、それでも「ノー」と言い続け、自分たちなりにあらがう姿勢に引かれたのがきっかけなのだとか。そして同作でも、女性には「ノー」と言う力があることを描きたかったと言います

日本での公開日はまだ決まっていないという、グリーン監督の『The Royal Hotel』。彼女が問いかけるフェミニズムは、多くの人の心を動かすかもしれません。