肥満や低体重の判定に用いられる「BMI(ボディマス指数)」。「現代の医療において、BMIは健康的かどうかを判断するための一つの“規範的な”指標とされています」と説明するのは、摂食障がいの専門家であるマリア・C・モンジュ医師。

その一方で、多くの研究者が「BMIは健康状態をそのまま表したものではない」と警鐘を鳴らしてもいるのだとか。本記事では、BMIが招く誤解や見落とされがちな注意点、危険性について医師の解説を<プリベンション>からお届けします。

※「厚生労働省e-ヘルスネット」より
※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はオリジナル記事によるものです。

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BMI(ボディマス指数)とは

BMI(ボディマス指数)は体重と身長の比率を表す数値で、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割って算出される指標のこと。

しかし、BMIを「健康」という尺度に当てはめると、まったく違う意味合いを帯びてきます。たとえばアメリカ疾病予防管理センターでは、BMIの数値によって以下のように肥満度を分類しています。

  • BMIが18.5以下:痩せすぎ(Underweight)
  • 18.5~24.9:正常(Normal)
  • 25-29.9:やや肥満(Overweight)
  • 30以上:肥満(Obesity)

アメリカ国立心肺血液研究所は、BMIとは「体脂肪の推定値」であるとし、その数値が高すぎる場合は心臓病や高血圧、2型糖尿病、特定のがんなどのリスクが大きくなると説明しています。

しかし、摂食障がいを抱える人にメンタルヘルスケアを提供するイーティング・リカバリー・センターのエリザベス・ワッセナー医師は、「このような単純化された説明は、多くの医療従事者に『体脂肪が多い=病気と相関関係がある』ではなく『体脂肪が多い=病気の直接的な原因である』と思わせてしまいます」と指摘。

つまり、BMIが高いからといって必ずしも“健康状態が悪い”わけではなく、体重や体脂肪量とは別の要因で病気になるケースもありうるということ。

「人間は、計算や数値の羅列よりずっと複雑な存在です。また、健康/不健康の生理学も、同様に非常に複雑です」(ワッセナー医師)
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andreswd//Getty Images

BMIが“健康状態を表す指標”と言えない理由

ここでは、医師が説明するBMIが“健康の指標”と言えない理由と、健康に関するアドバイスをご紹介します。

BMIは健康を測るためのものではない

「BMIの計算式は、1832年にベルギーの数学者アドルフ・ケトレーが考案したものですが、当初彼は医学的に使用されることは意図していませんでした」と説明するのは、『自分を受け入れる:体重減少の誤解を生涯の健康に変えるためのガイド(原題訳)』の著者、シルビア・ゴンザン=ボリー医師。

ケトレーは、ヨーロッパの男性の平均的な体格を把握するためにBMIを発案したんだそう。

「BMIは個人の評価ではなく、集団に基づいた評価としてつくられたものです。言い換えれば、BMIチャートはある集団における一般的な体重を反映したものであり、個人が目指すべき体重ではないということです」(ゴンザン=ボリー医師)

しかし、1985年にアメリカ国立衛生研究所が、個人の健康診断におけるBMIの使用を開始。以来、“手軽な健康確認ツール”のように思われてきたBMIですが、現在アメリカ疾病予防管理センターは「個人の体脂肪率や健康状態をBMIで診断することはできない 」と明示しています。

BMIと健康の間に、明確な関係性はない

“過体重や肥満は不健康だ”という考えに、疑問を投げかける研究が存在します。

たとえば、カリフォルニア大学の研究者が4万人以上のデータを分析した結果、BMIで“やや肥満”と分類された人の約半数、“肥満”と分類された人の4分の1以上は、心臓病や糖尿病を発症する兆候の一つである脂質とブドウ糖の血中濃度が健康値であることが明らかに。その一方で、BMIが“正常”だった人の30%は、これらの指標が不健康であることを示すレベルの数値でした。

また、2016年に発表されたセルフレポートによる研究は、BMIが高いからといって必ずしも心臓発作のリスクが高まるわけではないことを報告。4046組の一卵性双生児を対象に12年にわたる追跡調査が行われた結果、BMIが高い双子のグループでは203件の心臓発作と550件の死亡が確認されたのに対して、BMIが低い双子のグループでは209件の心臓発作と633件の死亡が確認されました。また、双子のBMI値が30以上(分類上は“肥満”)だったとしても、心臓発作のリスクは増加しなかったと言います。

体への尊敬(原題訳)』の共著者であるリンドー・ベーコン博士は、YouTubeに投稿した動画で「ほとんどの研究によって、肥満の人、および軽度・中等度の肥満の人も、普通の体重の人と同じかそれ以上に長生きすることがわかっています」と話しています。また、登録栄養士のカーラ・ハーブストリートさんによれば「“BMIが正常=健康状態が安定している”と誤った認識をもつことは、他のリスクマーカーをチェックしない原因になります」とのこと。

“アンチダイエット”を掲げるマギー・ランデス医師も「“肥満は死につながる”“太っている人は不健康”だということを示す科学的な根拠はありません」と指摘しています。

two females in lingerie with different body shape
Maria Korneeva//Getty Images

BMIは体脂肪を測るものではない

「BMIは、脂肪と筋肉の全体的な構成を測定した数値ではない」と話すのは、栄養士のハーブストリートさん。

「BMIは体脂肪の指標だと考えている人が多いですが、実はそうではありません。脂肪と筋肉量(脂肪よりも密度が高く、体重を増加させる可能性がある)、骨密度を区別して測定していないからです」(ハーブストリートさん)

ランデス医師によると、筋肉質なアスリートがBMIでは“やや肥満”に分類されることが多いのはこのためだそう。また、加齢によって筋肉量と骨密度が低下する傾向にある高齢者のBMIが“正常”とされることで、潜在的な健康リスクに医師が気づかない可能性があることもランデス医師は指摘しています。

年齢や性別、遺伝、人種が考慮されていない

BMIの分類は、出生時に割り当てられた性別に関わらず、年齢が15歳でも75歳でも変わりません。しかし、ランデス医師は「性別や年齢、様々な遺伝的要因が、健康上の問題を示さない形で体重に影響を与えることがあります」と指摘。

たとえば、女性は男性に比べて体脂肪率が高いため、BMIが高くなる傾向にあります。また「3〜18歳の子どもたちの場合、成長とともに体重が増えるのは普通ですが、医師が彼らを“肥満”や“不健康”と誤解することがあります」と、ランデス医師。

栄養士のハーブストリートさんは「BMIは、特に有色人種をはじめとするマイノリティを想定されていないものです」と説明。これは、1972年に肥満を研究するアンセル・キーズ博士が、BMIによる“健康な体重”と“不健康な体重”の分類を保険会社や医師に対して提案しましたが、彼が根拠にしていたのは、主に白人の欧米人男性を対象とした研究だったから。

2003年に医学誌<ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション>で発表された大規模な研究によると、18〜85歳の成人にとって最適なBMI(最も長生きできると言われているBMI)は、白人では約23〜25なのに対し、黒人では約23〜30であることが判明。一方、東アジア系や南方系の人々については、BMIが低くても糖尿病の罹患率が高いという研究結果が報告されています。

つまり、アメリカに住むBIPOC(黒人や先住民、有色人種)、AAPI(アジア・太平洋諸島系アメリカ人)の人々は、自分には適さないBMI区分に基づいた医療アドバイスを受けている可能性があるということ。

体重に関する差別や偏見を助長する可能性がある

「太った体型の人は定期検診の際に、批判されたり、恥をかかされたり、生活や行動内容を詮索されたりすることがよくあります」と話すのは、ランデス医師。

「たとえば体重とは関係ない症状で医療機関を受診したとしても、BMIが高いと判断されると、受診中のあらゆる面に影響が出てきます。体重にフォーカスが当てられ、健康に関する会話の妨げになってしまうこともあるのです」

医療従事者側のバイアスによって、太っている人は痩せている人に比べて質の低い医療を受けている可能性があるという議論も。

「太っている人は質の低い医療を受けがちなだけでなく、“肥満=悪いこと”という汚名を着せられてしまいます。そのため、多くの人が受診や健康診断を避け、病気になるまで何年も予防的な治療を受けないことが多いのです」(ランデス医師)

また、ある研究によると、体重にまつわる偏見は慢性的なストレスの原因となり、心臓の健康に影響を及ぼす可能性があるそう。研究者のなかには、これこそがBMI値が高いと病気になりやすい理由だと考える人もいるのだとか。

BMI以外の健康をチェックする方法

現在、多くの医療システムがBMIに基づいて患者を“評価”しているため、BMIがすぐに使われなくなることはなさそう。けれど、「あらゆる体格における健康(英語でHealth at Every Size/HAESと呼ばれるアプローチ)」に精通する医師や管理栄養士は多く、そこでは偏見なく、より信頼できる方法で健康状態を測定してもらうことができます。

「血圧、安静時の心拍数、インスリン抵抗性、特定の炎症マーカー、睡眠衛生、食行動など、(BMI以外にも)様々な健康指標を調べることができます」「このようなことすべてが、健康リスクや生活の質に影響を与えるのです」(ランデス医師)

また、「体重だけで判断するのではなく、こういった指標や状態を確認する検査や問診を組み合わせることで、患者の健康状態の全体像をよりよく把握することができます」と、ランデス医師。

「実際のところ、化学療法や透析、全身麻酔などの特殊な状況を除けば、患者が質の高い治療を受けるために体重を測定する必要はないのです」
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Moyo Studio//Getty Images

医師とBMIの話をしたくないのであれば、今後の診察で体重の話を避けたいことを伝え、より明確に健康に焦点を当てるためも血液検査を受けたいとリクエストすることも可能。モンジュ医師は「メモを持参して、言いたいことを準備しておくと良いでしょう」とアドバイスします。

主治医が希望に応じてくれない場合は、別の医師を探すのもひとつの方法。様々な視点から健康状態を診断できる医師を主治医にすることは、とても大切です。

ワッセナー医師は「どんな要因が病気に影響を与えているのかを正しく理解し、人々がより健康で充実した生活を送るためのサポートをするのが医師の仕事です。BMIはそのための判断を妨げるものと言えるでしょう」と話します。

「医師は、患者が体重を減らすことよりも、健康状態を改善することに焦点を当てるべきです。体重に対する偏見や差別をなくすことはもちろん、それが人々に与えるトラウマに対処することも重要なのです」

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation: 宮田華子
PREVENTION