口に入れたときのヒリヒリした感覚や食後の爽快感がクセになると人気が高く、コンビニの商品や飲食店のメニューにも「激辛グルメ」が続々と登場している最近。カレーや韓国料理などバリエーションも豊富で、辛いものが好きだという人は多いはず。

しかし、なかには辛いものを食べた後やその翌日に腹痛や下痢に苦しんだ…という経験がある人もいるのでは?

そこで本記事では「辛いものを食べたことで起こるお腹の不調」の対処法やその予防策を内科医の竹内千雅医師に伺いました。

【INDEX】


辛いものが腹痛や下痢を引き起こす理由

なぜ辛いものを食べた後に腹痛や下痢の症状が出てしまうことがあるのでしょうか?

竹内先生によると、料理に辛味をつけるのに使われるトウガラシに含まれる辛味成分「カプサイシン」には、胃腸内の交感神経を緊張させる作用があり、トウガラシを摂取しすぎると胃腸がすぐに反応してぜんどう運動が活発になるのだとか。

そうすると水分が大腸で十分に吸収されないまま便が肛門へと運ばれ、下痢や胃痛の症状が引き起こされるそう。

トウガラシ以外の辛味がある食材にも刺激はあり、注意が必要です。胃の粘膜を傷つけて消化不良や下痢などの不調を起こすときがあるとのこと。

一方辛いものが腹痛を起こすメカニズムについて、竹内先生は次のように教えてくれました。

「辛いものを食べると、口の中から喉、食道と消化管を通過する際に感覚神経上のTRPV1というイオンチャネル(刺激を受容し感覚に変換するタンパク質)が刺激され活性化します。その刺激が痛みとして感知されるのです」
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辛いものが原因で起こる他の症状

また、辛いものを食べると唇から肛門までの消化管だけでなく、気道、鼻腔、目の粘膜などの体中の粘膜が傷つきやすくなるそう。喉や気道、そして胃が荒れてしまうほか、気管支が過剰に刺激されると咳や息切れの原因にも

吐き気や頭痛を及ぼすケースもあるため、食べすぎには要注意。

辛いものによる腹痛や下痢の予防策

辛いものによる腹痛や下痢を防ぐためになにをすればよいのでしょうか? ここでは、内科医師である竹内先生に聞いたおすすめの予防策をご紹介します。

食前

  • 胃薬を摂取する
  • 温かい飲み物やスープを飲んでおき、空腹の胃に辛いものを入れない

食事中

  • ごはんやサラダなど、辛くない他の料理を一緒に食べる

食後

  • 体を冷やしたりお酒を過剰に飲み続けたり、胃腸に刺激を与えない
  • カフェインは胃腸に刺激を与えるので、食後の飲みものにはノンカフェインの温かいハーブティーなどを選ぶ
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こんなときは辛いものを控えて

体のコンディションが万全ではないときに辛いものを食べ過ぎると、お腹の不調が一層起こりやすいため注意が必要だそう。

  • 睡眠不足や過労など、健康的な生活が送れていないとき
  • 試験などの大切なイベントの前で精神的にストレスを感じているとき
  • 下痢をしている、便秘が続く、腹痛とまではいかなくても胃の不快感がある、嘔吐がするなど、お腹の調子が少しでも普段と異なるとき

辛いもの好きが気をつけるべきポイント

辛いものの食べすぎは胃腸に大きなストレスをかけます。過多な胃酸分泌の症状だけでなく、逆流性食道炎などの病気の原因になることも。最悪の場合、食道がんや胃がんに繋がる可能性もあるので、辛いものを食べる頻度と一度に食べる量には留意したうえで、必ず定期的に検診を受けましょう。

また、「食べるときの速度にも注意が必要」と竹内先生。

「たとえば『激辛ラーメンを何分以内に食べる』と競技のような食べ方をしたとき、胃腸には大きな負担がかかって正常な消化ができません。少しずつゆっくりと食べることを心がけましょう」

「牛乳で胃に膜を張るといい」は本当?

「食前に牛乳を飲んで胃に膜が張るといい」「たくさん食べれば舌も体も慣れてくる」などの、辛いものを食べることに関する噂は本当なんでしょうか?

竹内先生は「『食前に牛乳を飲んで胃に膜を張るといい』というのは、牛乳に含まれるカゼインが辛み成分のカプサイシンから粘膜を保護してくれることを言っているのだろう」と話します。

「タイやインドなど刺激のある食材を多く使用する国の料理は、ココナッツミルク、ヨーグルトなどが一緒に使われていますよね。これも、そのような理論と関係があるかもしれませんね」
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一方「辛いものをたくさん食べれば舌も体も慣れる」という説に関しては、一度に大量に食べることはおすすめしない、と先生。

「少しずつ慣らしていくことで味に慣れることはあるかもしれません。しかし、成人の場合は舌で味を感じる味蕾(みらい)の数は発達を終えているため、幼少期に食べたことのないような激辛料理に慣れるのは、いくらたくさん食べたとしても難しいでしょう」

辛いものを食べて腹痛・下痢が起こったときの対処法

予め食べすぎないようにすることが一番だけど、もし腹痛や下痢になってしまったときは以下のように対処してみて。

  • 下痢になってしまったら、水分を摂取する
  • おなかを温めてなるべく胃を休める
  • 次の食事は、うどんやおかゆなど消化にいいものを少量から食べる
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こんなときは病院へ

下痢が続いたのちに次のような症状が起こった場合は病院を受診してほしいと、竹内先生。ただの下痢ではなく大腸がんや食中毒など病気のサインである場合もあるので、消化器内科を受診しましょう。

  • 脱水症状
  • 脈拍が急に速くなる
  • 心拍数が上がる
  • 水のような水様便が続く
  • 血便(血が混じった便)が出る
  • 発熱や頭痛

程度にもよるけれど、数日経過しても症状が続いたり強くなっていくケースには、胃カメラや大腸カメラで消化管の粘膜に異常がないか検査を行うそう。

異常がない場合は胃腸薬が処方され、重症の場合は点滴を受けることもあると言います。


夏には汗をかいてすっきりさせてくれ、冬には体をぽかぽかと温めてくれる辛い料理。体に負担を与えない食べ方を守って楽しみましょう!

今回お話を伺ったのは…

赤坂インターナショナルクリニック
院長 竹内千雅先生

 
竹内千雅


早稲田大学卒業。ジョージタウン大学Pre Med、京都大学大学院修了。東海大学医学部卒業。慶應義塾大学病院小児科や​米海軍病院横須賀基地(救急科、内科、家庭医療科、精神科)、ミッドタウンクリニック内科などを経て、2020年に赤坂インターナショナルクリニックを開院。