婚姻制度を利用できない性的マイノリティや同性同士のカップル等の関係を公的に証明するものとして、全国の自治体に広まっているパートナーシップ制度」。2015年に東京都の渋谷区、世田谷区で始まったのを皮切りに今や200以上の自治体で導入され、国内の人口カバー率は50%を超えました。

一方、近年はさらに一歩進んで、カップルとともに暮らす子どもも含めて「家族」と認める、いわゆる「ファミリーシップ制度」を導入する自治体が増えています。

この記事では、2021年に国内で初めてファミリーシップ制度を導入した兵庫県明石市でLGBTQ+/SOGIE施策を担当している増原裕子さんに、ファミリーシップ制度とはそもそもどんなものなのか、手続きや利用するメリットなどについてお話を聞きました。

※日本全体の人口に対する、パートナーシップ制度を利用できる人(制度がある自治体に住む人)の数の割合。


【INDEX】


ファミリーシップ制度とは

自治体によるファミリーシップ制度とは一般的に、パートナー関係にある成人カップルが、2人と一緒に暮らす子どもを含め、彼女・彼らの関係性を「家族」として届出をしたときに、自治体がそれを受理し証明書などを交付する制度のこと。

パートナーシップ制度と同様に法的な効力はありませんが、証明書をもっていることで自治体サービスの一部を家族として受けられるほか、企業によっては家族向けのサービスを利用できるようルールが整えられている場合も。

「ファミリーシップ」と名の付く制度を導入している自治体は、2022年7月現在で既に30を超えていて、それぞれの自治体ごとに制度名や内容、要件などは少しずつ違います。

「明石市の制度は『明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度』という名前ですが、『子どもがいる場合は<ファミリーシップ>』というふうには区別していないんです。パートナー関係にある2人の届出に加えて、『子に関する届出書』を提出していただくことで、届出受理証明書にお子さんの名前も記載することができます」
「また、明石市の制度は同性カップルや性的マイノリティに対象を限定していません。法律上の性別や性のあり方にかかわらず、法律婚を利用できない/しないカップルを広く対象としています(ここ数年、同様の要件を定める自治体が少しずつ増えてきています)」
「明石市におけるこれまでの届出受理数は24組で、そのうち『子に関する届出書』を提出されている方は2組ですね」

大阪府富田林市や岡山県総社市では、子どもだけでなく親などについても家族として届出をすることができるそう。

 
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制度ができた背景

同性同士で子育てをするカップルは、年々増えています。そんななか、子どもとの関係性が公的に認められないことで、当事者が直面する困りごとは少なくありません。

例えば、女性同士のカップルにおいて一方が出産した場合、法律上母親は“シングルマザー”として、そのパートナーと子どもは“他人同士”として扱われます。パートナーと子どもの関係を証明するものがないと、パートナーが保育園の送り迎えや医療機関での手続きができないなど、日常生活に支障が生じることがあるのです。

こうした問題に自治体ができる範囲で対処してくれるのが、ファミリーシップ制度だと言えるでしょう。

「明石市では、パートナーシップ制度の内容を具体的に検討していたときに、外部のアドバイザーやパブリックコメントからお子さんに関するご意見をいただいたことが、子どもを含めた今の制度の形に至ったきっかけのひとつです」

届出時の流れ

ファミリーシップ届出時の手続きは自治体によって異なりますが、明石市の場合はおおまかに以下のような流れ。

  • 必要な書類をそろえ、自治体に提出する(郵送も可能)
  • 自治体が届出書類を確認・受理
  • 届出受理証明書を役所で受け取る日時を予約する
  • 全員そろって届出受理証明書を受け取る(個室対応も可能)

必要な書類

自治体により必要な書類も異なりますが、明石市の場合は以下を届出時に提出する必要があります。

  • パートナーシップ・ファミリーシップ制度に係る届出書
  • (子どもの名前の記載を希望する場合)子に関する届出書
  • 届出に関する確認書(要件に該当することの確認)
  • 住民票の写し、または住民票記載事項証明書
  • 戸籍全部事項証明書(配偶者がいないことを確認できる書類)
  • 本人確認書類(マイナンバーカード、パスポート、運転免許証などの写し)
「明石市の制度がユニークなところの一つが、届出書のタイトルにバリエーションがあること。子どもとの関係性を届け出るかどうかに関係なく、『パートナーシップ届』『ファミリーシップ届』『結婚届』『家族届』『事実婚届』『(任意記入)届』の6パターンから好きな様式を選べて、任意記入の様式のタイトルには何を記入してもいいんです」
「当事者にヒアリングをしたりパブリックコメントを募集したりしたなかで、人によって制度に期待することは様々なんだなと感じて。それもあり、届出の段階ではその思いを受け止めたいと考えました」
「一方で、証明書を提示された側(医療機関や民間企業など)が混乱しないよう、『届出受理証明書』は届出書の様式にかかわらず同じものをお渡ししています」
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ファミリーシップ制度を利用するメリット

それでは、ファミリーシップ制度を利用すると具体的にどんなメリットが期待できるのでしょうか? 明石市がパートナーシップ・ファミリーシップ制度の「効果」として挙げていることのうち、子どもが関係するものは以下のとおり。

  • 自治体と連携する医療機関で家族として対応してもらえる(病状説明や入退院の手続きなど)
  • 市営住宅や市内の県営住宅・県公社住宅に家族で入居できる
  • 市営墓園にパートナーや子どもを一緒に埋葬できる。墓地の使用権をパートナーやその子どもに承継できる
  • パートナーや子どもが、犯罪被害者等遺族支援金や特例給付金等の支給対象になる
  • パートナーや子どもについて、住民票上の続柄を「縁故者」に変更できる
  • 子どもが通う保育施設の入所申込ができる

これらは明石市が行政サービスとして確実に定めていること。そのほかにも、生命保険や損害保険、航空会社のマイレージサービスへの家族としての加入、携帯電話や映画の家族割など、「家族」を対象にした民間企業のサービスの利用が可能になる場合があります。

「この制度を利用される方たちが常に抱えているのが『自分たちは家族として扱われないのではないか』という不安。なので、『“お守り”代わりに持っておいていただいて、何かあったらどんどん使ってくださいね。もし、『何それ、知らない』と言われたら私たち担当にご連絡ください。一緒に対処を考えましょう』と、必ずお伝えしています」
「『医療機関で家族として対応してもらえなかったらどうしよう』という不安が少しでも解消されたら嬉しい、という声は特によく聞きますね」

ファミリーシップ制度の課題

明石市でパートナーシップ・ファミリーシップ制度が導入されてから約1年半。増原さんによると、目下の課題は市民への制度の浸透だとか。

制度の利用者がその効果を享受できる場面が増えていくためには、この制度を必要としている人はもちろん、そうでない人たちへの認知をさらに広げていく必要があるとのこと。今後は、民間企業や病院などとの連携がますます重要になってきそうです。

「制度を開始する際、市内の商業施設や商店街などの店舗を、キャンペーンのステッカーを貼ったり、レインボーフラッグを立てたりしてもらう協力をお願いして回ったときには、前向きなフィードバックをいただきました」
「今後民間企業や医療機関などに対しては、旗を置いてもらうだけでなく、雇用主として多様なあり方の家族をもつ人やLGBTQ+の当事者が従業員として安心して働けるような職場をつくってもらうことも働きかけていく予定です」

特に、性的マイノリティの当事者が誰にもカミングアウトせず暮らしているケースも珍しくない地方では、狭いコミュニティのなかで役所で手続きをしたり制度を利用したりすること自体、ハードルが高いと感じる人も少なくないはず。利用者のプライバシーを守りながら、どう制度を社会に浸透させていくかも大きな課題です。

また、自治体の制度である以上、ファミリーシップの届出をしてもその自治体から転出すると効果はなくなってしまいます。転入先の自治体にファミリーシップ制度があったとしても、また書類をそろえて役所に行くといった手続きを再度ゼロから行う必要があり、心理的にも大きな負担。

最近では、明石市と徳島市が連携協定を結んだように、ファミリーシップ制度を導入した自治体同士が連携し制度利用者の負担軽減を図る動きも。自治体ごとに制度が微妙に異なるという障壁はあるものの、こういった取り組みが全国で進めば利用する人にとってより便利になるでしょう。

 
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自治体に制度を作ってもらうには

国内ではまだ導入され始めたばかりのファミリーシップ制度。自分たちの住む自治体でも制度を取り入れてもらうためには、何らかの方法で行政に声を届けることが大切です。

  • 市区町村長や知事あての意見箱に投函したり、メールを送ったりする(匿名でもOK)

自治体のホームページには、市区町村長や知事に直接声を届ける方法が掲載されています。役所や公共施設に設置されている意見箱に投函したり、メールを送ったりして、制度を必要としている人の声を届けましょう。

  • 地方議会議員に話をする

地方議会の議員は、私たちにとってもっとも身近な政治家。自分が住む自治体で味方になってくれそうな議員を探し、コンタクトをとってみましょう。

また、市区町村長や知事、地方議会議員の選挙のときに、自分たちの声を聞いて実現してくれそうな人に投票することも、重要なアクションの一つです。

私たちにできること

この社会には、様々な形の「家族」が暮らしています。法律上の婚姻と異なり法的な効力がないとはいえ、その存在を想定に入れた制度が全国の自治体に広がっているのは、意義のある変化。一市民として私たちにできるのは、こういった取り組みに関するニュースや情報をSNSでシェアしたり、友人知人と話すときに話題にしたりすることかもしれません。

また、普段から、他人の性のあり方に関してネタにしたりからかったりする人に遭遇したときに「それっておかしいよね」「何でそんなこと言うの」といったツッコミを入れるなど、人権を守るアクションをすることもとても大事だと増原さん。

もしその場で指摘できなくても、話題を変えたり、あとから「さっきの大丈夫だった?」と言われた本人に声をかけたりするだけでも、カミングアウトしていないLGBTQ+当事者や、その家族にとっては救いになります。

「この世の中にはそれぞれ異なる多様な人々が暮らしているという前提に立って、どんな人でも生きやすい社会をつくっていくために、一人ひとりができることから実践していけたらいいですね」

今回お話を伺ったのは…

兵庫県明石市 政策局ジェンダー平等推進室LGBTQ+/SOGIE施策担当
主任 増原裕子さん

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増原裕子
2011年よりレズビアンであることをオープンにして、LGBTQ+の支援活動に取り組む。ジュネーブの在外公館、会計事務所、教育系IT会社勤務、個人会社経営などを経て、2020年4月から現職。LGBTQ+に関する研修・講演の実績多数。著書に『ダイバーシティ経営とLGBT対応』(SBクリエイティブ)など5冊がある。