全国の自治体で「同性パートナーシップ制度」の導入が増えてきている今。実は、スマホのアプリで申請し取得可能な、民間発行のパートナーシップ証明書があるって知っていますか?

民間発行のパートナーシップ証明書「Famiee」は、今年の2月にリリースを開始した新しいサービス。住んでいる自治体によらず、法律上は家族として認められていないけれども“家族”として生きている人たちに向けた家族関係証明書の一つで、現在様々な企業や病院、さらには自治体でも導入され始めています。

家族のカタチが多様化していくなかで、「Famiee」を発足したきっかけや社会の課題、企業や団体が導入することでの変化、今後の展望について代表理事の内⼭幸樹さんに伺いました。


「Famiee」の“民間発行パートシップ証明”とはどんなものなのでしょうか?

「住んでいる国や自治体によらず、法律上は家族として認められていないけれども家族として生きている人たちに、家族の関係を証明する『家族関係証明書』を発行」

「その証明書を元に、家族としてのサービスを提供する企業のネットワークを作る」

上記のことを「Famiee」では行っています。その第一弾として、2021年2月25日に、同性向けパートナーシップ証明書の発行がスタートしました。

「Famiee」の証明書は、スマホ(現在はiOSのみ)でアプリをダウンロードし、パートナーがそれぞれ必要書類(本人確認書類や⼾籍確認書類、独身確認書類)を揃え申請します。本人確認などの審査が通ったら証明書を取得することが可能です。

    またスマホのアプリで申請できるため、下記のような心配もありません。

    • 役所に出向く必要がない
    • 24時間、365日、いつでも、どこからでも申請できる
    • 二人の性的指向を、他人である役所の窓口の人に開示する必要がない
    • 紙の証明書と同時に、スマホ上でも表示できるので、緊急時など、紙の証明書を携帯していないときでも、家族の関係を証明できる
    • プライバシーが保護される(証明書の発行と同時に、二人の個人情報がサーバ上にも残らない)
    • 通称名のみの証明書、通称名+本籍名を併記した証明書の両方を切り替えられるため、シーンによって使い分けられる(例: 保険会社に提出する際には、通称名+本籍名を併記したもの、自分たちで利用したり企業の人事部に提出する際には、通称名のみのもの、など)
    • 関係解消手続きも、24時間、365日、いつでもどこからでも申請できる

    もちろん、改ざんや偽造チェック機能や、年に1度の二人の関係確認で不正を防止しているので企業側も安心して利用できます。

      Famieeの証明書を得ることで、どんなメリットがあるのでしょうか?

      家族関係を証明でき、様々な家族向けのベネフィットを利用できるようになります。

      例えば、パートナーが社内の福利厚生の対象になること。所属している企業や団体が「Famiee」の家族関係証明書を導入していれば、慶弔休暇、介護休暇、家族手当などを受けられます。

      あとは、保険、住宅、病院、その他、一般向けにサービス提供している企業・団体が、「Famiee」の証明書の受け入れを表明している場合。住宅ローン申請の際に夫婦として収入合算して査定されたり、生命保険の受取人になれたり、病院でのインフォームドコンセントの際の同席や手術の同意書へのサイン、救急治療室への入室が許されたり、夫婦用の公営住宅に応募したりすることなどが可能です。

      全国の自治体で「同性パートナーシップ制度」の導入が増えてきている今。実は、民間発行のパートナーシップ証明書があるって知っていますか?民間発行のパートシップ証明「famiee」は、今年の2月にリリースを開始した新しいサービス。発足したきっかけや社会の課題、導入のメリットについて代表理事の内⼭幸樹さんに伺いました。
      Famiee

        行政のパートシップ制度との違いを教えてください

        パートナーシップ制度を導入している自治体は、2021年7月時点で110あります。ここ数年でかなりの数、導入が進んでいるのは確かです。

        しかしながら、自治体のパートナーシップ証明の場合、このようなことが課題として挙げられています。

        • 申請手続きをするために、二人で役所に出向かないと行けない(通常の婚姻届は、どちらか一方が役所に提出するだけなのに、パートナーシップの場合は二人の性的指向を、役所の窓口の人に開示しなければならない)
        • 取得しても、違う自治体に引っ越した場合、すでに発行された証明書が無効になってしまう
        • 引越し先の自治体で、パートナーシップ制度を導入していない場合には家族としての関係が消失してしまう
        • 引っ越し先が導入している自治体であっても、新たに二人揃って役所に出向き手続きを行わないといけない
        • 自治体毎に、発効要件が異なるため、家族向けサービスを提供したい企業からすると、どの自治体の証明書であれば受け入れていいかを追いきれず、自治体の証明書を受け入れられないことも。結局は、二人の関係を確認する手続きを企業毎に独自に行わないといけないという状況が発生している

        「Famiee」は、証明書を受け入れる企業・団体を増やし、法律上の家族ではなくても、実質的に家族として生きる人達が、家族向けサービスや権利を受けられるようにしていくことで、「法律を変えなくとも、社会を変えられる」と考えています。

        政府よりも早く動ける民間企業からこのような動きを世の中に広めていくことで、ゆくゆくは、「ここまで民間の現場で受け入れらているんだから法律を変えないといけないよね」というような後押しになると思っています。

        導入している企業や自治体ではどのような使い方をされているのでしょうか?

        自治体では現在宮崎県日南市が導入していますが、「Famiee」が発行するパートナーシップ証明書は、日南市が発行するパートナーシップ宣誓証明書と同じ扱いになります。あらゆる申請などの場面において日南市と「Famiee」いずれの証明書でもパートナー関係を証明できるようになっているので、「Famiee」のパートナーシップ証明書を取得後に日南市に転入した方は、自治体の証明書の交付手続きをしなくてもよくなりました。

        実際のユーザーの方からは、「自分たちが住んでいる自治体ではパートナーシップ制度が導入されていなかったけれど、『Famiee』のおかげで、パートナーになれた」、「これまでは『自分たちは結婚できないけど、別に誰かから認めてもらわなくても構わないよね』と言っていたパートナーが、この証明書を取得して初めて『誰からから認めてもらえるって、嬉しいね』と言っていた」などの声をいただいております。

        企業側からも「『Famiee』の証明書を導入していると公表したことがきっかけで、新規の採用応募があった」、「社員から『Famiee』の証明書の提示があったことからサービスを導入した」と新たな選択肢のひとつになっていると聞いています。

        「Famiee」発足のきっかけを教えてください

        2016年に、次世代を担うリーダー層が集う学びの場であるG1サミットのLGBTQ+パネルセッションに参加し、社会に大きな課題があることを認識しました。

        これまで自社の社員を家族のように思い、「年齢・学歴・国籍・性別を問わず、社内のメンバーは平等に扱う」と言っていたものの、それまでの自分が言っていた“平等”は、あくまで“マジョリティ側からみた平等”で、マイノリティの人たちの視点を全く持てていなかった。平等に扱うと言っておきながら、マイノリティの人たちに「自分たちは結局平等に扱ってもらえないだよね」という思いをさせていたのかと思うと、涙があふれて止まらなくなったんです。

        その出来事をきっかけに、ダイバーシティに関する社内研修や制度導入をすすめると共に、LGBTQ+に関する勉強会に参加したり、活動の支援することをはじめました。そういう活動の中で、世の中に広まりつつある自治体のパートナーシップ制度は、課題解決の一つのソリューションであるけれども、まだ発展段階であり、当事者の人たちにとってはまだ十分ではないことに気がつきました。

        それらの活動とは全く関係なく、2018年、ブロックチェーンの勉強会を社内で行っていたところ、インターネット上でデータの改ざんができない仕組みであるブロックチェーンを活用することで、「従来の自治体のパートナーシップ制度ではまだ解決できない課題を解決する仕組みができるのではないか?」と思い付き、「Famieeプロジェクト」を着想。同年、このプロジェクトを実現させるためのヒアリングを開始し仕様を検討し始めました。

        2019年にはブロックチェーンの開発者を巻き込み、仮説検証チームを発足。同年、LGBTQ+啓発イベント「東京レインボープライド」でニーズの存在と課題を確認し、自分が先頭にたって進めないと実現できないプロジェクトであると決意しました。2019年5月より思いに共感する仲間たちと活動開始、サービスの仕様設計と賛同企業の巻き込みをスタート。2019年8月に一般社団法人Famieeを設立しました。

        全国の自治体で「同性パートナーシップ制度」の導入が増えてきている今。実は、民間発行のパートナーシップ証明書があるって知っていますか?民間発行のパートシップ証明「famiee」は、今年の2月にリリースを開始した新しいサービス。発足したきっかけや社会の課題、導入のメリットについて代表理事の内⼭幸樹さんに伺いました。
        Famiee

        同性カップルに限らず「多様な家族形態」を対象にしている理由を教えてください

        「家族」という概念は、近年とても多様化してきています。同性カップルに限らず、現在の法律では家族と認められていない、事実婚のカップル、精子・卵子提供を受けてできた親子、代理母の協力でできた親子、互いに支え合って生活するシングルマザー同士など、従来の概念での「夫婦」「親子」「家族」に当てはまらない新しいカタチの家族の形態が生まれてきています。

        これらの当時者の方々からすると、実質的に家族として生活しているのにも関わらず、収入合算して住宅ローンの査定をしてもらえなかったり、生命保険の受取人になれなかったり、手術の同意書にサインできなかったり、家族以外面会謝絶の時に面会できなかったり…など日常的に様々な課題に直面しているんです。

        現在発行しているパートナーシップ証明書は、同性向けの第二種(世田谷区発行と同じ条件で、お二人の関係を、お二人の宣誓によって確認する)というものですが、今後、第一種(渋谷区発行と同じ条件で、お二人の関係で、二者間の権利と義務に関する契約締結によって確認する)のリリースも予定しています。

        また事実婚など異性間のパートナーシップなど、二者間の権利と義務に関する契約締結によってパートナー関係を証明するものについても、現在導入している企業の担当者や賛同者の人たちとディスカッションを行っております。

        多様な家族の形が少しずつ増えてきているなかで、まだまだ根強い“家族観”のある日本の社会に対してどう思いますか?

        従来の家族の概念に基づいて作られた社会制度の中で、新しい概念に基づき生きる人達は、多くの困難に直面しています。 国の法律や社会通念をいきなり変えることはできません。

        しかし、そのような変化を受容し、社会がそれに対応していくべきであるという先進的な考えを持つ個人、民間の企業・団体、そして行政機関が、それぞれの力の及ぶ範囲の中で変化を起こせる部分はあるはずです。そして、そのような小さな変化が積み重なって初めて、新しい社会通念ができ、国の法律が変わっていくのだと思います。

        「行動する事」が大事なので、 多様な家族形態が当たり前に認められる社会が少しでも早く実現できるよう、皆様お一人お一人が、このプロジェクトの活動に賛同し、一緒に行動していただけるとうれしいです。

        そして最終的には、「Famiee」のサービスが必要なくなる世の中になるのが理想ですね。