2004年、マサチューセッツ州で初めて同性婚が合法化され、2015年6月に連邦最高裁判所が、同性婚を憲法上の権利として認めたアメリカ。
今回はアメリカで結婚し、現在はシアトルで暮らすアメリカ人のブレンさんと日本人のセイゴさん夫夫にインタビュー。普段の日常をSNSで発信している二人に、これまで乗り越えてきた壁や、未だ同性婚が合法化されていない日本社会への思い、今後目指したい未来について伺いました。
お二人の出会いから今に至るまでの道のりを教えてください。
- セイゴさん(以下、セイゴ):2015年に、ゲイの人たちが使うマッチングアプリを通して出会いました。会うまでは1カ月ぐらいメッセージのやりとりをしていましたね。
- ブレンさん(以下、ブレン):僕は元々日本が好きで語学を勉強したくて、その当時は4年ほど日本に住んでいました。何気ないメッセージのやりとりが続いて、たしか新宿で会ったんだよね?
- セイゴ:そうそう。人によっては会ってからすぐにセクシャルな話になることもよくあるんだけど、ブレンとは友達みたいな会話が続けられた。最初のデートもカフェに行ったり、自然な感じだったよね。
- ブレン:それまではアプリで知り合った人には抵抗があったけど、セイゴに初めて会ったときに特別な魅力を感じたんです。それで4〜5回目のデートで「僕たち付き合ってるよね?」という感じになって。
- セイゴ:結婚も「結婚するぞ!」って感じではないんです。ブレンが家庭の事情でアメリカに帰らないといけない状況になったときに、「遠距離は無理だよね」と二人で話して。その流れで、結婚して一緒にアメリカに行くことになりました。
いつか海外に住んでみたいとは思っていたけれど、アメリカはその選択肢に入っていなかったし、英語も不安なのと社会人1年目だったので仕事面での不安もありました。 - ブレン:早いものでもう結婚5年目だね。
「結婚してよかった」と感じるのはどんなときですか?
- セイゴ:結婚していてもしていなくても、幸せは人それぞれだけど、僕は結婚してよかったなと思っています。1番は、家族の繋がりができたことが大きいですね。
相手が怪我をしたり、病気になったりしても自分が保証人になれるし、国が認めている保障制度に入れたことに安心できました。日本だと自治体によっては「パートナーシップ制度」という形で少しずつ前に進んでいるけれど、国が認めていないのでその力を味方に付けられていない。アメリカではもっと堂々としていられるなと感じます。 - ブレン:何があっても2人でいられるし、セイゴと結婚して安定した家族ができたなという感覚です。ただ日本だと親戚や家族は理解してくれても、教育制度や政府が遅れているなとは思います。
それでも僕たちが日本にいた5〜6年前よりだいぶ変わりましたよね。以前はLGBTQ+関連のニュースは深夜にしかやっていなかったけれど、今は昼間でも見かけるようになったし。
家族にカミングアウトした際の反応はどうでしたか?
- セイゴ:カミングアウトは自分からしたというわけではなかったのですが、最初は戸惑っていましたね。当時、僕とブレンは一緒に住んでいたのですが、その家に親が何度か来ていて。同棲していることは伝えてなかったのですが、「毎回ブレンがいるね」なんて言われていたんです(笑)。それから半年ぐらいして、親から聞かれて本当のことを伝えました。
カミングアウトした後は親とも打ち解けたのですが、「家族は認めているけど、親戚には黙っておいて」と言われたときには少しバチバチしたこともありました。 - ブレン:僕は敬虔なクリスチャンの家庭出身なので、カミングアウトにも勇気がいりました。2016年にお母さんとおばあちゃんが日本に来たときに、セイゴを連れて一緒に国内旅行をしたときにカミングアウトしたのですが、二人ともショックだったみたいで。次の日は変な雰囲気だったのを覚えています。
母は僕に「セイゴも一緒にアメリカに来てくれるならいい」と言ってくれたのですが、父に理解してもらうのには時間がかかりましたね。渡米してからはペンシルバニア州の保守的なエリアにある僕の実家に短期間住んでいたのですが、付き合って2年になるのに父に「一緒に寝ちゃダメ」と言われたり、何回か喧嘩になったりしたこともありました。 - セイゴ:今思うと、ブレンのお父さんがゲイの人たちと関わるのが初めてだったんだと思う。優しい人なのに最初は怖い印象だった…でも今は超仲良しだよね。
- ブレン:そうそう。お父さんはシェフだから、料理を通して打ち解けていったよね。今でも僕たちの関係を認めてくれない親戚もいたりするけど、仕方ないかな。
アメリカでは、同性婚に対してどういった反応が多いですか?
- セイゴ:オハイオ州に住んでいたときに日本食レストランで働いていたのですが、職場で結婚指輪をしていると「奥さんってどんな人?」と聞かれることもあって。嘘はつきたくなくて「旦那さんなんですよ」と答えると、“普通のこと”として受け入れてくれてネガティブな反応はありませんでした。
今はシアトルに住んでいるのですが、職場は6割ぐらいがLGBTQ+コミュニティで、レインボーのバッジを付けて働いている人も多いです。 - ブレン:僕も嘘はつきたくないから「旦那さんがいます」って言うけど、ネガティブな反応は一度もないかな。
- セイゴ:日本で働いていたときは「どうせ分かってくれない」という気持ちがなんとなくあって、会社の人たちにはカミングアウトしませんでした。みんないい人たちだったけど、「彼女」のことを聞かれたら受け流していたし、それはそれで精神的に疲れてしまって。今振り返ると、カミングアウトしたとしても受け入れてくれたのかも、とは思います。
- ブレン:僕も日本では勝手に受け入れてくれないかと思っていた。でも、今の会社にいる日本人や日本から出張で来た人たちからもネガティブな反応をされたことはないですね。
発信を始めてから印象的だったことはありますか?
- セイゴ:YouTubeでは視聴者の方の年齢のデータが見られるのですが、予想外に40~60代の人が多いんです。「上の世代になるにつれてLGBTQ+に対してマイナスなイメージを持っている」という偏見があったけれど、優しい人ばかりだし、日本から荷物まで送ってくれることもあるんです。
- ブレン:僕もそう思ってた。上の世代の方でも「孫みたいと」言ってくれたり、「ゲイの人たちを今まで見たことがなかった。“普通”のカップルと同じなんだね」とコメントをくれたり。理解してくれる人が増えてきているんだなと感じました。
- セイゴ:SNSで声を上げることで、自分たちも色々なことに偏見を持っていたんだなって気づけたよね。
以前、90歳になる僕の親戚のおばあちゃんに会いにブレンと鹿児島に行ったことがあったんです。年齢的にも同性婚のことを理解してもらえないだろうなと思いつつ、結婚の報告をしたら、「結婚って男性と女性しかできないんじゃない?」と言われて。僕らが「アメリカでは男性同士でも結婚できるんだよ」と伝えると、「バンザ〜イ!」って喜んでくれて、その後ご祝儀袋を買って結婚祝いをくれたんです。 - ブレン:なんとなく、日本ではわかってくれる人が少ないという偏見を持っていたけれど、発信をすることで年齢は関係ないんだって思いました。
自分たちが学生の頃ってLGBTQ+のYouTuberはいなかったけど、コロナ禍ということもあってさまざまなセクシャリティの人たちが声を上げはじめたよね。僕たちはゲイだけど、色々な人を知るきっかけにもなった。 - セイゴ:YouTubeは自分たちの思い出作りみたいな感じで動画を撮っているんだけど、色々な人と繋がれて良かったよね。
「日本に住むことをあきらめたくない」と動画でもお話されていましたが、日本社会に対してどんな変化が必要だと思いますか?
- セイゴ:まずは政府の考えを改めてほしいし、教育制度も考え直してほしい。現状、教科書にLGBTQ+に関する記載はあるものの、さらっとしか触れられていないようなんです。
自分は「オカマ」という表現をされたり、そういう環境で育ったりしたので、きちんとした教育によって理解をしてもらい、子どもたちを守ってほしいですね。 - ブレン:アメリカも都市部は理解が進んでいるけれど、州や学校によってLGBTQ+に対する教育も全く違います。僕はクリスチャンの学校で育ったのもあって、そういう教育を受けてきませんでした。
僕たちも日本政府の姿勢を見て、「同性婚を認めて欲しい」と発信することはあるけれど、国民と政府の温度感のギャップが大きいように感じます。政府にも、インターネットをはじめ、いろんな意見に耳を傾けてほしいなと思いますね。 - セイゴ:戸籍制度や家族制度に固執している印象があるよね。少子化を理由にされても、同性婚は関係ないじゃんと思ってしまう。同性婚の人たちは養子の受け入れに積極的だったりもするし、選択肢があったほうがいいと思います。
「プライドマンスにはいろんな感情がある」とお話されていましたが、お二人にとってはどんな想いがありますか?
- セイゴ:自分が自分らしくいられる時間です。個人的には1年中プライドマンスであってほしいですね。
- ブレン:普段だったら可視化されない仲間たちがみんな集まって、「こんなに仲間がいるんだ」ということがわかったよね。「自分たちだけじゃない、こんなに仲間がいるんだ」って。
僕もカミングアウトは不安だったけど、プライドマンスはそういう不安を抱える人たちに「仲間がいるんだよ」ってことを気づかせるきっかけになると思います。日本でも、もっと“見える化”していくといいですよね。
今後はどんな夫夫を目指していきたいですか?
- セイゴ&ブレン:仲良く、変わらず、このままゆる〜く、自分達のペースでやっていけたらと思います!