Netflixの人気番組『クィア・アイ in Japan!』に出演し、先日恋人のTomさんと今年9月にイギリスで結婚することを発表したKanさん。

3年間の遠距離恋愛を乗り越え、「同性婚」が認められているイギリスでの新しいステージについて、KanさんとTomさんにインタビュー。結婚に至るまでの道のりや、LGBTQ+コミュニティに対する想い、「#日本で結婚したい」のハッシュタグとともに発信し続ける、日本での婚姻の平等について聞きました。

日英の遠距離恋愛のゴールとしての“結婚”

――結婚に至るまでの道のりを教えてください。

Kan:2016年、イギリスに留学しているときからTomと付き合っているので、今年で交際5年目。2018年からの3年間は、イギリスと日本で遠距離恋愛をしています。

遠距離恋愛ってものすごくハードルが高いので、「ゴールを設定しよう」「3年を目処に一度、自分たちの将来について、結婚の可能性も含めて考えよう」と話してました。

遠距離恋愛中は3カ月に1回はお互いを行き来して会えるようにしていましたが、新型コロナウイルスの影響で、2020年のお正月を最後にTomと会えなくなってしまったんです。

「3年遠距離恋愛をしたら、二人の関係について考えよう」と話していたけれど、1年半も会えていないし、これからすぐに現状は改善しない。Tomはイギリスから日本に入国ができないし、僕も渡英できたとしても隔離期間を考えるとそこまで長期的な休みが取れない…という状況になったときに、今与えられた選択肢の中で最善なのは結婚だよねと。

本当は日本でも結婚を検討したいけれど、日本は婚姻の平等が実現していないので、同性婚が認められているイギリスに僕が行って結婚することにしました。

Tom:今振り返ると5年間交際していて、3年間は遠距離。長い期間だと思います。

Kan:交際期間の60%が遠距離って考えるとちょっとびっくりですね。

――“運命の人”だと感じた瞬間はありましたか?

Kan:そういう瞬間があったというよりは、「この人じゃないな」という瞬間がないのかもしれないですね。

たとえば意見が食い違うときとか、どちらかが辛い経験をすることがあったとしても、向き合って共有したいという根底の部分は共通してるので絶対に話し合えるんです。話を聞いてくれるし、最終的には理解してくれるし、二人の課題であればお互いに納得する答えを見つけてきました。

もしそこが合わなかったら、お互いに「この人との将来難しいかもな」と積み重なってしまうかもしれないけど、それが全くないことで毎回「やっぱりこの人なんだな」という想いが重なっていく。「これ!」といったきっかけはないですが、日々の積み重ねですね。Tomはどう思ってる?

Tom:Kanと同じかな。最初からピンと来てて、ずっと頭の片隅にはありました。それは遠距離恋愛になってからも変わらなかったから、これは正しいんだなと。

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――イギリスの同性婚の制度について教えてください。

Tom:イギリスで初めて同性カップルに対する制度として合法になったのは、2005年の「シビル・ユニオン」*。ただその当時は、キリスト教保守派からの「結婚」という言葉を使うことへの批判もあり、結婚自体はまだ認められていませんでした。

それ以来、20年近く同性カップルへの制度はあって、今では結婚**もできるようになっています。法律が制定されてからしばらく経っていますし、平等な権利として認識はされていますね。

Kan:僕は2016年にイギリスに留学したので、もう同性婚は実現していた時期。「同性カップルも結婚できて当たり前」というムードでしたね。同性カップルのセレブたちの結婚の報道も日常的にあり、ニュースにはなるけれども、自然と受け入れられて祝福される…そんな雰囲気でした。

ただ今も異性婚と同性婚は、法律が別立てにはなっているんです。確かに同性婚はできるけれど、たとえば男女二元論のジェンダーに当てはまらない人にとっては、包括的な法律ではまだないのかもしれないですね。

* 2005年に施行された「シビル・パートナーシップ制度」とも呼ばれる、同性カップルの権利保護と婚姻の代替制度。

** 2014年3月にイングランドとウェールズ、2014年12月にスコットランド、2020年1月に北アイルランドにおいてそれぞれ同性婚が認められた。

「イギリスでの結婚」を決断してからの困難と期待

――Kanさんが渡英の決断をしてから大変だったことはありますか?

Kan:ビザのプロセスは大変でした。個人をまず証明しないといけなかったり、その上で、お互いの関係性やTomと付き合っていることを証明しないといけなかったり。イギリス政府に提出する書類で、日本語でしか発行できないものは、英訳する必要もあったので、本当にたくさんの書類を準備しましたね。

あとはやっぱり日本で結婚してTomと住むという選択ができないので、今ある仕事や好きな家族、友達…など自分が大切にしてるものを諦めざるを得ない状況には葛藤がありました。

でも今回の決断をしたことで、Tomに会えるのがまず何よりもうれしくて。もちろん結婚できるのも楽しみだけど、この1年半「これから二人はどうなるんだろう」とずっと考えていたので、その分積み重なった想いはあります。

Tom:Kanに長期間会えなかったので、ようやく会えることが僕も楽しみです。以前は3カ月に1度、数週間一緒に過ごして…というのが当たり前だったので、1年半会えないのはチャレンジでした。

今までは一緒に過ごせる期間が数週間だったので、毎日を目一杯充実させないといけないと感じてそれがある意味プレッシャーにもなっていましたね。でもこれから二人が同じ場所にいられるので、ゆっくり過ごせるし、充実させようと気負わなくても、“お互いがいること”を楽しめると思います。

Kan:実はTomは僕のビザの取得のために、ずっとサポートしてくれたんです。

戸籍関係の書類や過去の海外での滞在の記録など、用意しなければいけない書類が本当に多かったのですが、提出する書類やプロセスを少しでも簡単にできるように、TomがGoogleのスプレッドシートで、必要なもののリストを作ってくれて。

申請するときもオンライン上で画面共有しながら「ここはこれであってるよね」と、一つ一つ時間をかけて協力してくれました。

あと、イギリス人と日本人の同性カップルYouTuberのNozomi & Mickyさんとたまたまつながることができて、ビザに関することをたくさん教えていただきました。二人にはイギリスに移住してからもお世話になるだろうなって思っていて、まさに先輩カップルですね。

Tom:Kanが言ったように、NozomiとMickyがいてくれて本当に助かりました。

ネット上でいろいろと検索していると、ビザの申請は弁護士にお願いした方が良いという情報がたくさん出てきますが、費用も数千ポンド(数十万円)はかかってしまいます。

だけど二人は「自分たちでできるならその必要はないよ」と、細かい相談にまで乗ってくれたたので安心しましたし、感謝しています。次は僕たちがロールモデルになって、誰かを助けられたらいいですよね。

――イギリスではLGBTQ+コミュニティに対しての国からのサポートや法律などが先進的なイメージがありますが、実際はどうでしょうか?

Kan: 感覚としてですが、婚姻の平等や同性間での結婚が認められているという制度面では、日本に比べて先進的ですね。

ただ、日本でもそうですが、一言に「性的マイノリティ」といっても色々な人たちがいます。イギリスでLGBTQ+コミュニティのサポートが進んでいるといっても、アジア人で外国人の僕としての視点から見ると、白人を中心に進んでいるとは感じます。

だから誰にとってのダイバーシティやインクルージョンなのか、というのは主語によって、またどの人に聞くかによって違うかなと思っています。

Tom:僕は人種的にはマイノリティではないゲイの男性としての、自分自身の経験しか話せませんが、最近はLGBTQ+の権利にも熱心な会社で働いているので、ここ数年で嫌な思いはしていないです。でも、どんな人でもそうだとは思いません。

先日、イギリスでは献血に関して新しいルール***ができました。今までは、「ゲイであることは性的に活発で、リスクがある」という憶測があり、交際中のゲイの男性は、一定期間セックスしていない場合にしか献血ができないというルールがあったんです。差別的という意味ではそれが一例ですが、正しい方向性には向かっていると思います。

LGBTQ+コミュニティの中で、僕はゲイの白人男性で、コミュニティの中ではおそらくマイノリティではない。レズビアンやトランスジェンダーの人たち、自分以外のセクシュアリティやジェンダーの経験については想像することしかできないです。

Kanも過去に経験したように、ゲイの白人男性に比べて、人種的マイノリティのゲイの人は、自分の経験よりももっと苦しんでいるのではないかと思います。

Kan:Tomとはこういう話を二人でするようにしています。お互いのバックグラウンドや経験が全然違うなかでも、自分の考えをシェアできるから一緒にいて居心地がいいんです。いろんなことを話せるからこそ、これからも一緒にいたいなと思っています。

***6月14日より、性別に関係なく、どんな人でも直近の性行為歴について同じ質問をされることになった。以前までは、男性ドナーのみ男性とセックスしたかを質問されており、モノガミー(異性同士の一夫一妻制)関係にあるゲイの男性でも、直近3カ月以内にセックスをしていた場合は献血できなかった。この変化は、個人をグループとしてではなく、科学的証拠によって正しく判断することにつながる。

――Kanさんは大学院生時代、イギリスで「人種差別」を経験したそうですが、今回の渡英にあたって葛藤はありましたか?

Kan:その心配はやっぱりあります。新型コロナウイルスの影響もあって、イギリスでもアジア人に対するヘイトクライムのニュースをよく見るので不安です。

ただ、さっきの話とも繋がるのですが、何かあったときに自分の気持ちをTomになんでも話すことができる状況なので、そういう意味では安心感もあります。Tomが助けてくれたり、いつでもそばにいてくれたりするだけで気持ちの面では全然違いますよね。

Tom:僕ができるのは、Kanが以前イギリスに住んでいたときと同じく、彼がどんな経験をするかに気を配ること。

たとえ僕自身が経験しないようなことだとしても、彼のために闘います。自分の“人種的特権”を忘れないようにしたいです。

日本での「婚姻の平等」の実現にむけて

――日本ではまだまだ「同性婚」が認められるまでには時間がかかりそうですが、この現状についてどう思いますか?

Kan:今、今日にでも認めて欲しいなっていう気持ちですね。逆になぜ認めないのか、できないのかが疑問です。

日本にも僕たちだけじゃなくて、同性カップルやノンバイナリーのカップルなど様々なカップルがいる。そういう二人が愛し合っているカップルがいて、その人たちが結婚したいと思っている状況がある。その人たちにとっての選択肢があることの何がいけないのか…。

今、選択肢がある人たちの選択肢を奪うわけでは全くなくて、ただ認めてほしいだけなのに、と疑問が残ります。

Tom:Kanの方が日本の状況はよく知っていると思いますが、あえて言うなら日本があらゆる意味で近代的な国で、経済的にも発展しているのに、こういった問題は先進的ではないのが残念ですよね。

――今後、同性婚が合法になった場合には、日本に住むのも選択肢としてはありますか?

Kan:そういった制度ができれば、日本に住むのを考えたいなと思ってます。婚姻の平等が実現されたら、僕たちもすぐに申請したいし、きっと他の多くのカップルも同じだと思いますが、今はそもそも検討する選択肢がないので。

実際、日本に住んでいる結婚をしていない同性カップルの人たちの、もちろん幸せな部分も知っているけれど、困難や苦悩も多く聞きます。それに当たり前のことですが、今は日本で結婚が認められている同性カップルがいないので、どういう生活になるかが全く想像ができないところはありますね。

難しい部分もたくさんあると思いますが、婚姻の平等が実現されて、もっとポジティブな生活や幸せなストーリーが生まれていったらいいなと思ってます。

Tom:僕もいつか日本に住んでみたいと思っています。素晴らしいところだし、行くといつも楽しい思い出ばかり。でも今はビジネスビザでしか日本に住む選択肢がないので、同性婚が認められて配偶者としてのビザが取得できる未来が来たらいいですよね。

――一部の国会議員のLGBTQ+に対しての差別発言なども未だにありますが、どんなことを日本の社会に求めますか?

Kan:婚姻の平等や選択的夫婦別姓も実現して、とにかく選択肢を増やしてほしいです。

ニーズがあって、署名活動やデモも活発にあって、メディアでも取り上げられたり、個人間での会話や議論も起きていたりする。でも、その民意を政治が反映していない、それが問題ですよね。

僕も声も上げて、選挙の投票も行っているのに、その声がいつも反映されないとくじけそうになることもあります。そんななかでも諦めずに、みんなで投票に行って、選択肢を増やす社会、日本に変えていかないといけないなと思っています。

Tom:6月11日からイギリスで開催されたG7サミットで、日本だけが同性カップルに関する法的制度を認めていない****のが興味深いなと思いました。

今は参加国の中で日本だけが一歩踏み出していない状況ですが、今後は他国同様になっていくことを示してるんじゃないかなと期待しています。

Kan:日本は選択的別姓が認められていませんが、イギリスで結婚することが決まってから「自分の苗字はどうなんだろう」って調べてみたんです。そうしたら面白いことに、姓名を好きなように決めていいという制度になっていて!

今まで通り自分の苗字を名乗ってもいいし、Tomの苗字はMartinなので、Martinにしたければしてもいい。新しい姓を名乗ることもできるので、僕の苗字(Kikumoto)とTomの苗字を合わせた“Kikumartin(キクマーティン)”とかもできます(笑)。

結論としてはそれぞれ今のままの苗字にしましたが、イギリスでは自分をどう定義するか考え方が違うんだなと思いました。

****G7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)のうち、同性結婚もしくはシビル・ユニオンが法制化されていない国は日本のみ。

――これから二人で一緒に人生を歩んでいくことになりますが、どんなカップルになりたいですか?

Kan:最近はずっと遠距離恋愛でしたが、すごく幸せな関係が築けてると思っています。一緒に住むようになっても、何か特に特別なことを望んでるわけではなく、朝一緒に起きて、夜一緒に寝て。平日は仕事終わりに一緒に映画やテレビを見たり、ちょっと散歩行ったり、土日は小旅行したり。

ありふれた日常の中で、二人で幸せを感じられたらいいなって思っているので、そういう可能性をやっぱり日本でも実現したいですよね。

Tom:Kanと同じです。Kanがロンドンに留学していたときは一緒に街を探索するのが楽しかったんです。僕が東京に旅行に行ったときも同じで、 住んでいる人が視点をもらえるのは、いい経験。

でもこれからは、一緒に過ごす時間を楽しみたいですね。

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