法律の壁により、同性同士の結婚が実現できていない日本。結婚をする・しないの選択はもちろん、誰と結婚をするかについても、本来ならば誰もが自由に決められるべきこと。そんな中で現在、同性同士の結婚を求める訴訟が各地で進行し、一刻も早く法の下の平等が求められています。

そこで今回は、結婚の平等に向けて活動を行う「公益社団法人 Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」の代表を務め、弁護団の一員でもある三輪晃義さんに取材。結婚の平等を実現するためには、具体的にどのようなアクションを起こしていけばいいのか、日本の現状とともに三輪さんに伺いました。

お話を伺ったのは…

三輪晃義さん

弁護士。ソフィオ法律事務所(大阪市)にて執務し、LGBTQの権利に関する事件や労働者の事件を主に扱う。公益社団法人「Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に」代表理事、「結婚の自由をすべての人に」関西訴訟弁護団。

現在の婚姻制度について

同性カップルの結婚を実現するために必要なのは、ずばり法律を作ること。現在の法律が定められた当初は、「男女」であることが前提とされたため、第24条第1項では、以下のように記されています。

第24条第1項

「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」

この条文は、自由な家族の形や男女平等を目的とされていたため、同性同士の結婚の禁止を意図するものではありません。

さらに、憲法第14条1項は「法の下の平等」を定めており、すべての国民は法の下に平等であることが規定されています。そのため同性同士の結婚が認められないことは、憲法の理念に反すると考えられるでしょう。

「法律をつくることができる国会に、同性同士の結婚に賛成する議員を送らなければなりません。ですので、政治への参加が大切になります」

パートナーシップ制度と結婚の違い

同性カップルを結婚に相当する関係とし、証明書を発行する「パートナーシップ制度」が各自治体で設けられています。

パートナーシップ制度によって、公営住宅への入居の場面などで不便が解消すると言われていますが、「クレジットカードで家族カードを作る」「病院で家族として面会や立ち会いをする」という場面では、病院やクレジットカード会社によって対応は異なります。

パートナーシップ制度によって不便が解消できると認識されがちですが、同制度には法的効果がないため、同性カップルを夫婦と同じように扱うかどうかは病院や企業の判断にゆだねられているのです。また男女の結婚と異なり、遺産の相続や子どもの親権は得られません。パートナーシップ制度は、婚姻の代替とはなり得ないのです。

「男性と女性が結婚するとき、多くの人は法律で定められた権利を得るために婚姻届を出すというよりも、『好きで一緒にいたいから結婚しよう』という話をすると思います」

「同性カップルもパートナーと一緒に人生を歩んでいきたいのに、異性カップルとは違う扱いを受けてしまっているのです。異性カップルだったら結婚して祝福されるのに、同性カップルの場合は、周りにパートナーとの関係性を伝えられないことが珍しくありません。異性カップルと同じように、同性カップルも結婚できるようにすればこの状況は変わるはずです」
low angle view of lesbian couple holding hands
Cavan Images//Getty Images

同性同士の結婚をめぐる国への訴え

現在、「同性同士の結婚が認められないことは、憲法に違反する」として、同性カップルが国を相手に違憲判断を求める裁判が進行しています。

この訴えに対し、札幌地方裁判所は「憲法違反」と判断した一方で、大阪地方裁判所は「憲法に違反しない」と判断。裁判官の価値観がどうしても判断に影響を与えるため、裁判官によって判断が分かれているのが現状です。

三輪さんによると、違憲判決(憲法に違反するという判断)は、弁護士がキャリアを積み重ねるなかでも、一度出くわすかどうかのとても珍しいことなのだそう。簡単なことではないものの、同性同士の結婚を法制化するためには、一つひとつの判決を積み上げていく必要があります。

「法律をつくることができる国会に受け入れられるには、最高裁判所の判断が必要です。最高裁判所も地方裁判所や高等裁判所の判決を注視するので、ひとつでも多くの裁判で『憲法に違反する』という判断を重ねて、最高裁に違憲判断をしてもらうのが大事になります」

同性婚の実現を妨げているもの

Marriage for All Japanによる40〜69歳の男女を対象とした調査(※)では、7割以上が同性婚に賛成と回答。賛成の声が多く上がっているものの、実現を妨げている理由の一つには、今すぐ法制化が必要だという切迫感が人々にないことも関係しているよう。三輪さんは「緊急の問題だということを、多くの人に知ってもらいたい」と話します。

「同性婚に賛成している人が多くいますが、『いつか実現できたらいいな』ではなく、『今すぐに法制化が必要だ』という認識を持っていただきたいです」

「2021年の1月に、東京訴訟の原告のお一人が亡くなられたのですが、弁護団の一員として、私もとても悔しくて...。彼は『最期の時は、お互いに夫夫となったパートナーの手を握って、「ありがとう。幸せだった」と感謝をして天国に向かいたい』と、おっしゃっていました」

「毎日多くの方が、同性パートナーとの結婚を望みながら、同性同士で結婚できる世界を見ることなくこの世を去っています。その方たちの人生は、二度と取り返しがつきません。そんな状況が毎日続いていることを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいです」

※出典:同性婚に関する意識調査 | 結婚の自由をすべての人に − Marriage for All Japan

地方裁の判決による当事者の反応

「憲法に違反しない」という大阪地裁の判決が出たあと、三輪さんは「まだまだこれから、次は大阪高裁」とメッセージが書かれた横断幕を掲げました。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

そこには、弁護団の一員として「今回の判決でショックを受けた人が、次に向かって少しでも前向きになってほしい」というエールを込めていたとのこと。

「札幌地裁の違憲判決では、『踏みにじられてきた自分の中の大事な部分が取り戻せた』という意見を多く耳にしました。当事者の人たちに生きる勇気を与え、『この社会で生きていいんだ』という安心感を与えたのだと思います」

「反対に大阪地裁の合憲判決では、多くの人が一度信頼した裁判所に『裏切られてしまった』とショックを受けることが考えられたので、少しでも前向きになってほしいという思いから『まだまだこれから』という横断幕を掲げました」

「これから判決が出る東京地裁では、『同性同士の結婚を認めないことは憲法違反である』『同性カップルが結婚から排除されることは不当な差別である』とはっきりと判断してほしいです」

SNSやニュースとの向き合い方

SNSやニュースでは、同性カップルだけでなく、LGBTQ+コミュニティに関する議論を目にする機会が増えています。たとえ悪質なメッセージを見かけたとしても、「希望を失わないでほしい」と三輪さんはいいます。

「良い出来事も悪い出来事もありますが、間違いなく社会は良くなってきているので希望をもってもらいたい。20年前と比較しても、同性カップルを取り巻く環境は良くなってきていると実感します。先人たちがコツコツと地道に行動を起こしてくれたおかげだと思います」

「婚姻の平等も、いつか必ず実現します。先延ばしにされている状況を打破して一刻も早く実現するためには、多くの人の力が必要です」
surfing the net
damircudic//Getty Images

結婚の平等の実現に向けてできること

同性同士の結婚を実現するために、「まずは当事者をとりまく現状を知ってください」と話す三輪さん。自分の気持ちを発信したり、活動のシェアも、社会に同性同士の結婚の必要性を訴える手段のひとつです。

「投票権のある人にはぜひその1票を結婚の平等の実現のために投じてもらいたいです。投票ができない方でも、結婚の平等の必要性を周りの人や社会に訴えてもらえれば結婚の平等への大きな後押しになります」

「自分の言葉でどのように訴えればよいのか分からない場合は、SNSで私たちの活動をシェアしてもらうだけでも大きな効果があります」

さらに三輪さんは、裁判の傍聴に行くことで原告の方が置かれている状況を知ることができ、それと同時に連帯の意思表示にもなると説明します。

「原告のみなさんは、カミングアウトできない人やこれから生まれてくる子どもたちなど、たくさんの方の想いを背負って戦っています」

「傍聴に来てもらえると原告のみなさんに連帯の気持ちを伝えることができ、裁判官に対しても『この件は多くの人が注目している大事な問題だ』と伝えられます。傍聴をするのに予約は不要で、服装も自由です。ぜひ裁判にを見に来てもらえればと思います」

Marriage For All Japanでは、一年を通してオンラインやオフラインでさまざまな取り組みを行っています。イベントに参加したり、弁護団やMarriage For All Japanをはじめとする結婚の平等の実現に向けて活動している団体に寄付したりすることも、法制化に向けたサポートにつながるでしょう。

一人ひとりの情報発信が実現への第一歩に

Marriage For All Japanは、国会議員や国政選挙の候補者の結婚の平等(同性婚)に対する考えを知ることができる「マリフォー国会メーター」をリリースしています。

他にもメディアやSNSでの発信、動画コンテンツの配信など、あらゆる形で情報発信を積極的に行なっています。こういった活動やウェブサイト、投稿をSNSでシェアしたり、友人や家族、パートナーと話すことも、法制化の実現のために大切な行動です。

「『自分ひとりが声を上げたからって、現状が変わるわけではない』と無力に感じてしまう人もいるかと思いますが、声をあげないと現状は変られません」

「どんなに小さな声だとしても、たくさん集まれば大きなうねりを生み出せる。自分の声が社会を変える可能性があることを信じてもらいたいです」

Marriage for Japanの今後の活動

Marriage for Japanでは、今後も「Business for Marriage Equality」という婚姻の平等に賛同する企業を募ったり、国会や議員に対して結婚の平等の実現に向けた働きかけを行なっていく予定だと三輪さんはいいます。

「私たちの最終目的は、同性カップルが結婚という制度を使える社会にすること。企業の賛同は影響度も高く、企業の活動を見て勇気づけられる人もいるはずです」

「私たちは、何か特別なことを求めているわけではありません。踏みにじられてきた同性カップルの尊厳を取り戻したいのです。共感してくださる方は、ご自身のできる範囲で、結婚の平等を実現するための取り組みを始めてみてください」

Marriage for Japanへの寄付・支援について