SNS上などで、「she/he/they/ze」のような代名詞を明記する人が増えているのはご存じでしょうか。欧米では就職活動や医療機関で記入する書類などで、どの代名詞を使用するか聞かれることもあるそう。

本記事では、実際どんな場面で代名詞が大切な役割をもつかなど、代名詞を尊重するためにも知っておきたい「代名詞の使い方や意義」を<ウーマンズ・デイ>からご紹介します。


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代名詞とは?

代名詞とは、その人の名前の代わりに、対象となる人を指すのに使う言葉のこと。「彼女は今日赤いセーターを着ている」といったときの、「彼女」がこれにあたります。

代名詞に関する議論は比較的新しい“現代社会の産物”のように思われるかもしれませんが、実は遅くとも1800年代から代名詞に関する議論は存在しているといわれています。イリノイ大学の言語学者、デニス・バロン氏の研究によると、言語の進化に伴って、異なる固有名詞が使われてきたのだとか。

最近では、LGBTQ+コミュニティと、その多様なジェンダー・アイデンティティと関連して代名詞は語られることが増えてきました。

多くの場合、代名詞はジェンダーアイデンティティを表現するもの。そして自分が何者で、社会からどう見られたいかを表すものと拡大して考えられます」と語るのは、ニューヨークを拠点にクイア・コミュニティと関わるセラピストとして活躍するマディソン・マカラフさん(she/herを使用)。

「相手を正しい代名詞でよぶことは、相手と向き合い、理解し、ありのままを受け入れているという姿勢を示すために大切なことだと思います」

これまでもし自分がジェンダー・アイデンティティといったトピックスについて深く考えたことがなかったり、自分にとっては間違った代名詞を使われても自分自身に大きな影響がなくても、代名詞について知ろうとすることはできるはず。なぜ代名詞が大切で、どのように日常生活で使っていけるか、いっしょに考えていきましょう。

代名詞の使い方

英語圏で目にすることが多い代名詞は、「she/her」「he/him」「they/them」「zie/zim」など。ジェンダーを限定するものやしないものまで、幅広く存在します。

自分にとっての代名詞がどんな意味をもつか混乱するなら、ほかの人にどんな風によばれてみたいかを想像してみて。何よりも大切なのが、自分が心地よさを感じられていて、アイデンティティを尊重されていると思えるかどうかです。

そして代名詞を日常生活に取り入れるには、いくつか方法があります。たとえばSNSのプロフィール欄やメールの署名、オンライン会議の表示名に書き添えるなど。ただし、代名詞に関するWebサイト<MyPronouns.org>は、相手が望んでいない場合は、無理に相手の代名詞を聞き出すべきではないと言います。

自分の代名詞を紹介するべき理由

NPO団体「Mabel Wadsworth Center」のアスペン・ルーリンさん(they/themを使用)は、「自己紹介をする際に、自分の望む代名詞も一緒に伝えるということを習慣づくっていくのは大事なことだと思う」と語ります。

「そういう行為を一般的にしていくのはいいことでしょう。『これが自分にとって尊重されていると感じられる言葉だ』ということが伝えられますから」

そして自分のジェンダー・アイデンティティが自分にとって明白な場合でも、代名詞を公表することは、ほかの人々、特にトランスジェンダーやノンバイナリーの人々の安全や心地よさにつながるとルーリンさんは説明。

「トランスジェンダーのひとりである私は、自分のアイデンティティを尊重されるために、自ら代名詞を伝えることが実際に多くあります」
「でも残念ながらそれによって、ヘイトの矢印が向くことも。そこでシスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と現在の性感覚が一致する人)の人々が率先して自分の代名詞を伝えると、この行為を一般化することに貢献するのです。そうすると、トランスジェンダーの人々もより安全に言いやすくなります」

個人に「they」を使うのは文法的に間違いではない

オックスフォード英語大辞典を参照すると、1375年から「they」が単数代名詞として使用されていることが分かるそう。複数形の「they」として教わっていると耳慣れないかもしれないけれど、文法的に間違いではないのだとマカラフさんは言います。

「言語は常に変化し、進化してきました。文法的な矛盾の指摘は実際のところ、時間の経過によって言語が変わっていくものだという現実を、正しく認識していないということなのです」

さらにルーリンさんによれば無意識のうちに、実は多くの人々が「they」を単数代名詞として使っているのだそう。

「たとえば、スーパーマーケットの棚に携帯電話が落ちていたら、『誰かが電話を落としたんだ(Oh no, someone forgot their phone)』『この人が戻って来て見つけられるといいけど(I hope they come back for it and that they find it)』と言うでしょう。その場合の単数のtheyの使用は文法にこだわる人にとっても自然で、文法的にも間違っていません」

もし間違った代名詞を使ってしまったら

間違って、相手が望まない代名詞を使ってしまうこともあるかもしれません。また、相手の代名詞が以前と変わっていることや、あなたが使い慣れていない代名詞を使っていることもあるでしょう。ルーリンさんは、このように説明します。

「まず念頭に置くべきは、『誰しも間違えることはある』ということ。(中略)ただし、だからといって必ずしも努力を怠っていいというわけではありません」

「もし私が他の人をミスジェンダリング(相手が自認するジェンダーとは異なる表現をつかって相手と接してしまうこと)してしまって、しかし自分できづかずに相手に指摘をさせてしまったとしたら。まずは『ごめんなさい』と謝って、正しい代名詞を言ってから気持ちを切り替えます。場合によるけれど、その後に相手と二人で話すこともあるかもしれません」

また代名詞を間違えても、謝りすぎるべきではないとのこと。そうすることで状況をより居心地の悪いものにするほか、傷つけた相手に寄り添うより、自分に注目をうつしてしまう可能性があるから。

「誰かのジェンダーを間違えてしまって、訂正されたら、それは感謝すべきこと。でも大げさになり過ぎたり、自分の気持ちを中心に考えない方がよいでしょう」
two hands holding together on the water of a pool with a rainbow flag lgtb concept
Carles Navarro Parcerisas//Getty Images

相手の代名詞を尊重するために

もし自分にとって代名詞という概念が新しいもので慣れないときは、とにかく実践あるのみ。一人のときに、代名詞を含む文章を声に出してみるのもよいかもしれません。何よりも大切なのは、相手の代名詞を勝手に予測してしまわないことです。

身近な人が自分の代名詞を模索しているときにサポートする方法には、相手を尊重しつつ、関心をもつことなどがあげられます。マカラフさんによれば、無理矢理に聞き出すようなことはせず、相手の準備ができたときには、その代名詞を受け入れる意志があることを伝えるのが大事なのだと言います。

また、代名詞を尊重することは、トランスジェンダーの人々やLGBTQ+コミュニティに属する人とともにあると表明するひとつの方法にすぎません。もちろん大切ですが、それがすべてということではないのです。


※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:mayuko akimoto
WOMAN’S DAY