誰にでも起こりうる、「親の介護」。自分にはまだ関係ないと感じていても、いつその状況に直面するかはわかりません。

本記事では、実際に働きながら両親の介護を経験した、アメリカ在住のメリンダ・バトラー・メイヨーさんの体験談をお届け。「介護者にもケアが必要」と感じたきっかけや、これから介護を迎える人たちへのアドバイスとは…?

両親の介護のはじまり

両親の介護は、初めはちょっとした“お手伝い”から始まりました。80代中盤の二人は、フロリダ州ペンサコラにある50年来の自宅で暮らすことにこだわっていたので、週に2回電話して様子を確認し、オンラインで買い物をして届けるようにしていました。

ヴァージニア州に住んでいた私は実家に帰るたびに、「トイレはきれい?」「庭は芝刈りをしてある?」「冷蔵庫やパントリーに腐った食べ物はない?」と変化を見逃さないように常に意識。基本的には問題なかったのですが、心配だったので引っ越してほしいことは伝えていました。でも二人は、頑なだったんです。

だからこそ、父が階段で転んでおでこを切り、救急車で運ばれて3針縫ったときも、母が黄斑変性のために目に注射を打たなければならなかったときも、一緒にいてあげられませんでした。薬局で処方薬をもらったり、インフルエンザのワクチンを受けに行ったりするのも、すべて自分たちでやるしかありません。それが二人が望んだことでした。

でも、こうした状況は私の親に限った話ではありません。世界最大規模の高齢者団体である「AARP」が 2021年に行った調査では、50歳以上の成人の77%が長期にわたって自宅で過ごしたいと答えています。そしてこの数値は、過去10年以上変わっていないと言います。

senior woman talking with female caregiver seen through window of balcony
Maskot//Getty Images

自立した生活の難しさ

2015年の春、すべてが変わりました。父が風邪をひき、二次感染で肺に感染症を引き起こしたのです。父は病院で両側に肺炎を起こし、体調はたちまち悪化、腎不全に陥りました。腎臓は回復しましたが、その後は慢性的な肺炎になり、リハビリと病院を行ったり来たり。この危機的な一件で、89歳になる両親は引っ越すときが来たことを悟りました。

両親の承認を得て、私は不動産仲介業者に頼み、ふたりの家を売りに出しました。一週間以内に現金払いで購入するという申し出を受けたので、私の自宅から10分の距離の介護付き住宅に引っ越すことになったのです。

看護師さんに付き添われて車いすの父が出てきたとき、家族は初めて父の体がどれだけ弱っているかを目の当たりにしました。父が震えながらなんとか立ち上がるのを見て、私たちは泣き出してしまいました。かつては強くて誇り高い男だったあの父が、今や看護師に持ち上げられ、車の助手席に座らせてもらわなくてはいけなかったから。

介護付き住宅に入居する前に、心身の状態を検査する必要があったので、受け入れられるまでの数日間は父と母を自宅に泊めることに。父に必要なことを予想していたものの、自分たちがケアする準備すらできておらず無力なことを思い知り、数時間後には涙が止まりませんでした。

こうした状況では家族や友人のサポートが不可欠です。友人のジョンが送迎してくれたり、ナースプラクティショナー(修士レベルで診断・処方などができる上級看護師資格の一つ)の義理の姉が我が家に来て、数日にわたって父のケアを手伝ってくれたりしました。

そうしたサポートがなかったら、私たち家族みんなにとって、感情的にも物理的にも、耐えがたい負担がかかったことでしょう。

「新しい介護者」の役割

それからというもの、私は両親のケアに長い時間を割きました。医療保険や保険会社と相談したり、診察に付き添ったり、食料品を買いに行ったり。真夜中にいつ電話が来て、父の身に何か起きたと言われてもおかしくありませんでした。

介護をする家族のための団体「ケアギバー・アクション・ネットワーク」によると、介護者を引き受けた人ができる大切なことの一つは、態勢を整えて、重要な書類に目を通せる状態にすることだそうです。

毎日の課題をこなしつつ、私はできるだけ両親に充実した生活を提供するように努力しました。日曜日には一緒に教会に連れて行き、誕生日には外食に連れて行ったり、パーティを開いたりしました。

同じことを何度でも繰り返し話したがることもあるけれど、私は彼らが最善を尽くしているのだと思って、我慢強くなることを覚えました。

empty patient room in assisted living facility
Mint Images//Getty Images

突然訪れた別れ

あるとき父が抗生物質に耐性を持つようになり、誤嚥が始まって、長期型の看護施設に移らなければならなくなりました。肺炎が最後に出てきて、私はホスピスに終末期ケアを依頼し、11カ月に及ぶ介護の末、父は2016年7月に90歳で息を引き取りました。

ホスピスに連絡するタイミングは難しいものです。両親の体重が減ってきたとき、食べなくなったとき、食べると咳をしたり、のどに詰まったりするようになったとき。そして、歩いたり、着替えたり、食べたり、入浴したり、移動したり、補助なしにトイレに行ったりといった、普通のことができなくなったとき。あるいは、致死的な病気にかかったときは、つらい決断が迫っています。

ホスピス・ファウンデーション・オブ・アメリカの医務部長、アンジェラ・ノヴァスさんは、ホスピスでの支援について次のように話しています。

「ホスピスは家族介護者の役割を引き受けられるわけではありませんが、家族に必要なことを教えたり、看護や訪問介護をしたり、ソーシャルワーカーやボランティア、必要ならば牧師を紹介したり、グリーフサポート(死別をはじめとする喪失体験の後のサポート)をしたり、家庭内で必要な介護器具を提供したりすることによって支えていきます」

また、地元のホスピスに関わってもらうことにより、別の視点や意見を得ることができるので、より客観的な視点で家族のケアができるようになると言います。

父が亡くなると、私が介護の責任者になりました。自分が悲しみにくれながら母の悲しみに寄り添うのはとても大変でしたが、母のためには自分が強くいなくてはいけないとわかっていました。

母には黄斑変性、脊椎関節炎、そして2型糖尿病があったのですが、うまく管理していたので活動的でいることができました。私たちはできるだけそのことを活かすようにし、父が亡くなった後の4月には、私と母で母の妹に会いに行き、一族の再会の場に参加しました。毎日の電話と週に数回の訪問に加えて、母が自分の食事を少しは作れるように食料品を買い続け、新しい洋服を買いに行く機会も増やすようにしました。

2019年3月、93歳の誕生日の直前に、母は脳出血を起こしました。たちまち健康状態は悪化し、看護施設に移ることになりました。またしても、私はホスピスに終末期ケアを依頼し、数週間生死をさまよったのち、亡くなりました。

介護者にもケアが必要

あなたは私のような状況には決して陥らないと思っているかもしれません。でも、2015年〜2017年の間にアメリカ疾病予防管理センターが地域社会に暮らす45歳以上の成人から集めたデータによると、アメリカでは、高齢者の間で介護者の需要が増え続ける見込みだそうです。

このデータでは、現在はまだ介護者ではない中年以上の成人の17.2%が、今後2年間の間に健康問題や障がいを抱える家族や友人のためにケアや補助を始めることになると予想しています。

特にフルタイムの仕事があって、家族の世話も必要な場合の介護は大変です。ナショナル・アライアンス・フォー・ケアギビングの報告では、1,100万人以上のアメリカ人が健康上の問題や障がいなどを理由に成人の家族のケアをし、同時に育児をしているそうです。また、介護者の76%は介護をしながら仕事もしています。仕事をしている場合は、愛する人のために休暇をとるか、勤務時間を減らすことになるのが現状なのです。

私が介護をしていた間、断続的な家族・医療休暇をとり、両親から呼び出しが来ても対応できるよう、100時間以上の休暇をとりました。家族の支援はかけがえのないものですが、もしそういう選択肢がないなら、友人に頼んで数時間息抜きをしてみてください。

ヘルパーを呼んで介護者が数時間家を出られるようにしたり、被介護者がデイケアサービスを受けるなど、こういったレスパイトケア(代理の機関や公的サービスなどが一時的に介護等を行うこと)は近くに友人や家族がいない人には特にたすかります。こうすることで介護者も休んでエネルギー補給をし、介護の先には人生が待っていることを思い出せるようになるそうです。

ケアギバー・アクション・ネットワークも、介護者のケアの重要性を次のように話しています。

「親たちに一日中ずっと子どもと過ごすことをすすめないのは、家族にとってそれが健康的ではないから。二人の人間がストレスを抱えて暮らしている場合は、愛情のある健康的な関係を保つために、ときおり別々になってリフレッシュする必要があるのです」
directly above shot of senior woman and female caregiver with hands stack in bedroom
Maskot//Getty Images

介護は、永遠には続かない

介護は困難な道のりです。でも、何が起こるか覚悟をしておけば少しだけ楽になるかもしれません。

まずは危機的な状況になる前に、親の意志を聞いておきましょう。非営利団体のエイジング・ウィズ・ディグニティは、「5つの願い」というリストをまとめています。深刻な病にかかったり、自分で話すことができなくなったりする前に答えておくべき質問です。

  • 自分では決断できなくなったとき、健康に関する決断を誰にしてもらいますか?
  • どのような医療を受けたい、あるいは、受けたくないですか?
  • どれくらいのレベルの快適さを望みますか?
  • 自分をどういうふうに扱って欲しいですか?
  • 愛する人々に知っておいて欲しいことは?

介護は一瞬にしてパートタイムからフルタイムに変化します。プランを立てる時間があるかどうかにかかわらず、介護者の負担やストレス、うつや不安を軽減するサービスや支援はあります。

そうすれば、より長く介護を続けることができ、お金のかかる施設でのケアを先延ばしにしたり、回避したりすることができます。レスパイトケアやカウンセリング、患者やその家族の心のケア、ソーシャルワーカーによるサービスなどは、介護者にとって大きなたすけとなるでしょう。

愛する人がふさわしいケアを受けているのを見るのは、努力に値することです。そして、この時期がいつまでも続くわけではないということも覚えておいてください。はてしなく続くように思えるかもしれませんが、ご両親が人生のこの段階に入ったら、あと数カ月、あるいは数年しか一緒にいられないかもしれないのです。その間に良いときをみつけて、特別な瞬間を大切にしてください。

※この翻訳は、抄訳です。
Translationmayuko akimoto
GOOD HOUSEKEEPING