在宅勤務が増えたり外出自粛が長引いたりして家で過ごす時間が長くなったなか、癒しを求めてペットを飼う人が増えた昨今。安易な飼育放棄につながっていると問題視する声も高まっています。

しかし、その一方で「保護犬猫」を家族として迎える選択肢が一般に広まりつつあり、過去10年間と比べて犬猫の殺処分数が減少しているという状況も。

今回お話を聞いたのは、わさびくんとしらすちゃん、2匹の保護猫と暮らし、動物保護活動にも精力的に取り組むモデルの畠山千明さん

わさびくんはお迎えしてすぐに致死率99%と言われる難病、FIP(猫伝染性腹膜炎)と診断されたそう。畠山さんがInstagramで発信したわさびくんの「闘病記録」は、大きな反響を呼びました。

FIP(猫伝染性腹膜炎)…猫コロナウイルス(FCoV)感染により発症する病気。腹に水がたまるウェットタイプ、腎臓や肝臓に硬いしこりができるドライタイプ、混合タイプの3種類がある。 

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「家族の絆が強まった」というわさびくんのFIP闘病の過程、そして2匹と暮らすなかで感じる幸せとは――。

お話を伺ったのは…

畠山千明さん

 
畠山千明
1991年生まれ、茨城県出身。アパレル勤務を経て結婚、出産後にモデルとしての活動を開始。バズカットのヘアスタイルで注目を集める。モデルとして活躍の傍らアクセサリーブランド「chiaki no bi-zu」も手掛けるほか、動物保護活動にも取り組んでいる。

Instagram @hatakeyama_chiaki

Instagram @wasabi_to_shirasu

——現在の活動について教えてください。

モデルとして活動しながら、アクセサリーブランド「chiaki no bi-zu」を立ち上げ、収益は動物保護団体などに寄付しています。他にも保護猫の預かりボランティアをしたり迷子の犬猫の情報をSNSで拡散したり、自分にできる範囲で動物保護活動をしていますね。

私自身もわさびとしらす、2匹の保護猫と一緒に暮らしています。6歳の娘も、2匹と一緒にお昼寝をしたり率先してお世話をしたり、しっかり“子育て”をしてくれていて。わさびとしらすが家に来てから、家族の団結が強まった気がします。

保護猫シェルターでの運命の出会い

——初めにお迎えしたわさびくんとは、どのように出会ったのでしょうか?

ある日、友人からシェルターにいるわさびの写真が送られてきて、会いにいくことになったんです。わさびは生後2ヶ月のときにペットショップで飼育放棄された保護猫。しっぽが曲がっていて、身体が小さいというのが理由だったとか。

あまりの可愛さにビビッときて、その場で「この子を引き取ります!」とお願いしたんですが、実はそのときシェルターが運営する保護猫カフェの子になることになっていたそうで、一度は断られてしまったんです。

それでも諦められず、家族とも相談してその日のうちにもう一度シェルターを訪問したところ、私たちの熱量が伝わったのかお迎えできることになりました。「わさび」という名前は娘がつけたんですよ。

 
畠山千明

「保護犬や保護猫はかわいそうな存在」という偏見に気づいて

——もともと保護猫をお迎えしようと思っていたのですか?

きっかけを遡るとビーズ作りなんです。コロナ禍になってから趣味でビーズアクセサリーを作り始めて、周りの友達にあげたりしていたものの、そのうち溜まってきちゃって。

知人のアイデアでアクセサリーを販売することにしたんですが、売り上げを自分の収入にするより何か別の違う形にできたらいいなと。寄付をすれば、売った自分も買った人も寄付された人もみんな幸せになれる。そう思って収益は社会のためになることに寄付しようと決めました。

そしてちょうどその頃に、保護犬シェルターの前を通ることがあって。アクセサリーの売り上げの寄付先にと、今思うと安易な気持ちで考えながら外から眺めていたところ「写真撮影はご遠慮ください。保護犬たちにも生活があります」という貼り紙が目に入りました。

その貼り紙を見た瞬間、自分のなかに「保護犬や保護猫はかわいそうな存在」という勝手な偏見があったことに気がついて。どこかに「かわいそうなワンちゃん・ネコちゃんのためにやってあげる」という意識があるなと。

シェルターにいる犬猫たちはそれぞれの“犬生”“猫生”の再スタートを切るための訓練をしているわけで、それを「かわいそうな存在」として切り取るのは良くないと納得したんですね。それ以来、動物福祉について調べたり考えたりするようになりました。

動物たちが置かれた現状を知れば知るほど、自分に何かできないかと考えるようになりました。知ってしまったからには、生体販売からお迎えする選択肢は私のなかからなくなっていたんです。

できることなら目の前の保護犬猫をみんな引き取りたいけれど、自分のキャパシティには限りがある。だから「運命の出会い」を待とうと決めていました。

実は、以前まで猫と触れ合ったことはあまりなかったんです。実家ではずっと犬と暮らしていたこともあって、むしろ生粋の“犬派”。私にとって猫は、未知の生き物で「自立していて凶暴そう」と勝手なイメージを抱いていたほどでした。

ですが、保護犬猫について調べるうちに、気づけば猫の可愛さに魅了されていて。夫と一緒に猫の動画を見ているうちに「猫を飼いたい」という気持ちがどんどん膨らみ、すっかり“猫派”に転向していましたね。

難病「FIP」の後期と診断

——わさびくんをお迎えする前に準備したことはありますか?

わさびが保護猫であること以前に、家族全員が猫と暮らすのが初めて。なので、まずは猫の図鑑を何冊も買って、基礎的なことから勉強しました。種類によって性格や必要とする環境、かかりやすい病気も違います。事前に知識をつけておいて良かったです。

特に保護犬猫は体調が不安定になりやすいのですが、契約時の健康状態によって通常のペット保険に加入できない場合もあるということは初めて知りましたね。シェルターから引き取る際に、保護猫が対象のペット保険に加入できたので安心しました。

こうやって万全に準備をして、ようやく我が家にお迎え。でも、我が家に来て数ヶ月経った頃に、致死率99%と言われる難病であるFIPの後期状態と診断されてしまったんです。


——FIPとわかったときはどんな様子だったんでしょうか?

最初は、息をするのに鼻からブーブーという音がして苦しそうだなと。(わさびのように)鼻がつぶれているエキゾチックという猫の種類にはよくあることなのかもと思いつつ、心配なので念のため病院で検査。結果、このときは風邪と診断されて。

しかし少し経って、階段を上り降りで呼吸がとても荒くなったり、お腹が異様に大きく膨らんでいたりすることに気がついたんです。「これは普通じゃない」と感じて、今度は猫専門科がある動物病院に駆け込みました。

そこで宣告されたのがFIP、しかも後期の段階。進行がとてもはやい病気で、病状は刻々と悪化していたんです。わさびの膨れたお腹には1キロもの腹水が溜まっていました。

それだけ恐ろしい病気でありながら、定期的に検査を受けていても発見が難しかった。今考えると「発見があと数日遅れていたら…」と怖くなります。

 
畠山千明

家族一丸となって治療をサポート

——治療法はどのように決めていったのですか?

病院で医師から告げられたのは「できることは、数週間の延命治療をするか日本未認可で高額な新薬を試してみるかのどちらか」という一言でした。

実は、数日前にFIPに関するニュースを見たばかりで、病気の存在はなんとなく知っていて。でもまさか、わさびの身に降りかかるなんて夢にも思っていませんでした。

人間に裏切られて辛い思いをしてきたわさび。「やっとうちに来て、これから幸せにするって決めたのに、なんで…」。思いも寄らない残酷な現実を突きつけられ、頭が真っ白になって。帰り道、一人でわんわん泣きながら自転車を漕いだのを覚えています。

治療を決めれば莫大な費用がかかり、かといって必ず治る保証もない。でも、私たちにとってわさびは大切な家族の一員で、もっと一緒にいたい。だから、治療するという選択肢しか頭にありませんでした。

夫や娘とも同じ気持ちだと確認し、翌日には投薬を始めるために病院に行きました。FIPの治療薬を取り扱う病院は限られていますが、運良く近くに見つけることができて。それから、週に1回採血や検査のために通院する日々が始まりました。

薬は大きなカプセルに入っていて嫌がるわさびにうまく飲ませるのが難しく、初めは本当に大変でしたね。それでも、夫と試行錯誤しながらコツを掴み、段々うまく投薬できるように。

また、薬は毎日決まった時間に与えなければならなかったので、予定もそれに合わせて調整していました。

「自分の経験をシェアすることで、手遅れにならず救える命がある」

——わさびくんのFIP闘病の様子は、Instagramでも発信されていましたね。

病気が発覚してすぐにInstagramで公表し、治療の過程を発信しました。自分の経験をシェアすることで少しでも病気についての知識が広がれば、手遅れにならずに救える命があると思ったからです。

フォロワーの方々からは応援や励ましのメッセージをたくさんいただきました。同じくFIPで闘病中の猫ちゃんを飼っている方から情報をシェアしていただいたり、「私の投稿を見て愛猫がFIPだと気づけた」という声もあったり。Instagramでのつながりに、私自身救われましたね。

「何か手伝わせてほしい」というありがたい連絡も多くいただいて。自分たちで何とかしようと肩肘を張っていましたが、みなさんの厚意に頼らせてもらおうと考え直しました。そして「せっかくなら何かシェアできて身につけられるものを」と、コロナ禍で始めたアクセサリー販売の収益をわさびの治療費に充てさせてもらうことに。

娘も幼いながらに状況を理解しているようで、気落ちする私たち大人を元気づけようとわさびの絵を描いてくれて。彼女なりに、“弟”であるわさびのために何かできないか模索しているようでした。

そこで、彼女が描いたわさびの絵を刺繍したチャリティTシャツを発売することに。売り上げをわさびの治療費に充てることで、娘自身もわさびの力になっていると感じることができ、とても喜んでいました。

 
畠山千明

家族が一致団結し、たくさんの方に応援していただいて、無事に84日間の投薬が終了。見つかったときに後期だと言われたFIPは2021年秋頃に寛解し、病院の先生からは「良い症例になった」と言われました。

——わさびくんの治療を振り返って感じることはありますか?

わさびの場合は定期検診に行っていても早期発見ができなかった。でも、遅れてはしまったけれど、もしあのとき病院に行っていなければ絶対に気づかなかったので、定期的に病院で検査を受けることはすごく大事ですね。

あとは、病気の知識を少しでも持っておくだけでいざというときに役に立つと、身に染みて感じました。今回のわさびに関しての発信が、これから誰かの大切な命を救うことがあればいいなと思っています。

 
畠山千明
わさびくんの寛解記念にオーダーしたオリジナルの手編みニットを着て。

わさびを見て“猫生”をやり直すしらす

——わさびくんに続いてお迎えしたしらすちゃんについても教えてください。

しらすはブリーダーの飼育放棄から保護された猫でした。母猫と一緒に保護されたけれど、お母さんは先に譲渡されて一人ぼっちに。最初に会ったときは、恐怖心からかとても凶暴で爪も切れず伸び放題、避妊手術もしているかわからない状態だったんです。

あるときボランティアの知人から連絡をもらい、自宅で預かることに。ずっとソファの下に隠れていて、少しでも触れようとすると長い爪で引っ掻かれ、血まみれになるほどの警戒心でした。

どれだけ引っ掻かれても諦めずに忍耐強く世話を続けたのは、私まで諦めたらこの子が新たな人生のスタートを迎えられないと思ったから。

 
畠山千明

そんなある日、私が撫でたときにしらすが柔らかい表情を見せてくれて。もう大丈夫だと思って、そのまま我が家に迎え入れることにしました。

——わさびくんとしらすちゃん、2匹になってからの生活はいかがですか?

まだお互いに距離感がつかめず手加減もわからないようで、喧嘩ばかりしています。それでも見ていると、2匹にしかわからない絆があるような気がするんです。

しらすはわさびを見て、“猫生”をやり直しているんじゃないかと思うことがあって。たとえば、わさびがご飯を食べている姿を見て「カリカリ(ドライフード)は食べるもの」と学んでいるんじゃないかなと。

2匹が良い関係でいてくれるなら、私たちも嬉しいですね。

 
畠山千明

——最後に、畠山さんから読者のみなさんにメッセージをお願いします。

私たち家族にとってわさびとしらすは言うまでもなく「家族」です。

生きものとの暮らしにはもちろん大変な場面もありますが、彼らは私たちに愛情を与えてくれる尊い存在。特にわさびのFIP治療を通して団結したことで、私たち家族の絆は一層深まったと感じていますね。

犬猫たちが与えてくれる幸せを感じているからこそ、人間の身勝手な理由で不幸な一生を送らせるのは悲しい。彼らが幸せに生命をまっとうできる環境を作るのは私たち人間の役目だと思っています。

個人的には今動物たちが置かれている現実を悲観的に受け止めるより、保護活動の広まりなどのポジティブな面に目を向けたいです。

生きものを家族として迎え、育てること自体がとても尊いこと。それがペットショップでの出会いでも、私は良いと思います。

ただ、犬や猫をお迎えしたいと考えているなら、まずはシェルターにも足を運んでみてほしいんです。きっと「保護犬猫」に対するイメージが変わると思います。

犬猫たちのために何かしたいという思いがあるなら、ミルクボランティアや一時預かりなど、できることはたくさんあります。今はまだ迎え入れる準備ができていないと感じるなら、「飼わない」という選択をするのも立派な動物福祉です。

まずは動物たちのために自分ができることを探して、やってみてほしいなと思いますね。