この数年で人々の働き方に大きな変化が起きたことは、まぎれもない事実。パンデミックにより、世界中でリモートワークが浸透しました。

2020年4月、イギリスでは就業者の46.6%が、少なくとも仕事の一部を自宅で行っており、そのうちの多くの人がオフィスワークを完全にやめたそう。

イギリスの労働専門機関CIPDが発表した「グッドワーク・インデックス」によると、労働者の5人に1人が翌年のうちに仕事を辞めることを検討しており、24%がよりよいワークライフバランスを模索中。女性の間では、バーンアウト(燃え尽き症候群)が大きな問題になっており、4人に1人がストレスやプレッシャーに苦しんでいるという結果があります。

そうして、よりよい働き方が模索されている今、あらたに浮上しているのが、週休3日制。もっと家族と過ごしたり、自分のケアのために使ったりする時間を増やせるという週休3日制が具体的にどういう制度で、どんなメリットや課題があるのか、試験導入中のイギリスの例を参考に<グッド・ハウスキーピング>から詳しくご紹介します。


【INDEX】



週休3日制とは

フレックスワークの一種である「コンプレストワークウィーク」が、1週間の労働時間は変えずに、少ない日数で1日あたりの就業時間を増やすことであるのに対し、週休3日制はこれとは違うもの。たとえば、9時から5時まで働いているとしても、今後も働く時間帯は変わらないけれど、単純に働く日が1日減ることを指します。

週休3日制に関する重要な点は、支払われる給与は減らない、ということ。1日休日を増やすことで、働いている時間の生産性を高められるのがメリットだと考えられています。

イギリス国内ではすでに週休3日制を試験的に導入しているところもあり、80%の労働時間に対して100%の支払いをし、100%の生産性を求める、100-80-100モデルに基づいています。

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週休3日制を求める理由

ストレスや不安が減り、子育ての時間も増えるこうした提案に対し、80%の人々が賛成しているのは、当然。イギリスの慈善団体である「ファカルティ・オブ・パブリック・ヘルス」の元会長、ジョン・アシュトン博士は、長らく労働時間の短縮を提唱してきました。

「私の望みは、誰もが質の高い生活を送ることです」
「週休3日制のメリットの一つは、自分がやりたいことをできる日が1日増えるということです。家族、地域、ボランティアや関心を持っていること…それがコミュニティの生活の質を上げることにもなります」

アシュトン博士によると、ワークライフバランスは過去50年間行き詰まっているそう。博士が例として挙げるのは、オフィスワーカーたちが今もサンドイッチを片手に机で仕事をしながら昼食を食べている姿。

「自分に対して、人生とは何かと問うたときに、もっとオフィスにいるべきだったと言う人はいないでしょう。自分を幸せにし、家族との生活を彩るものを探すはずです。私にとって、週休3日制は、考えるまでもないことです」
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イギリスの週休3日制試験的導入の結果

今年6月、イギリスでは、国内の70以上の会社に勤める3,300人以上の従業員を対象に、減給なしで週休3日制をスタート。アイスランド、ベルギー、ニュージーランドなどではすでに週休3日制が試験的に導入されたけれど、イギリスでの例はこれまでのところ世界最大規模で行われています。

オックスフォード大学、ケンブリッジ大学の研究者らによって運営されている今回の試験導入は、新しい労働時間がそれぞれの会社・職種の労働者の健康や生産性レベルにどのような影響を与えるかを観察するもの。環境に対する影響やジェンダー平等についても、その効果をはかろうとしています。

この試験導入は6月から12月まで実施されるので、現在は半分以上を過ぎたところ。途中の段階で半数以上の会社に調査をしたところ、その86%がこの試験的導入が終わった後も週休3日制を続けるつもりだとし、95%が生産性は改善したか、同程度だと回答。

NPO「ウォーターワイズ」のソーシャルリサーチ・マネージャー、ファティマ・アイージャ博士は、この試験導入に参加してポジティブな手応えを感じていると言います。

「月曜日から金曜日まで働いていたときは、かなりの仕事を請け負っていました。要するに、重要かどうかを見極めることなく、ほぼすべてのことに『イエス』と答えていたのです」
「週休3日制になって、ずっと生産的になりましたし、実際、決断が早くなったと思います。でも、それは一日で起こったことではなく、何週間も試行錯誤を繰り返した後でのこと。1週目は時間の管理にストレスを感じていましたが、3週目には優先順位をつけられるようになり、時間がないからこそ、何カ月もかかると思っていたことが1週間でできるようになりました」

ファティマさんは、仕事は自分のアイデンティティの大きな部分を占めるもので、楽しんではいるものの、休日が日増えたことで、ボランティアなど他の関心に力を注げるようになったそう。

「私が決められるなら、迷いなく週休3日制を続けます。ずっと効率的だし、仕事との関係を再定義することにもなります」

週休3日制の実現を目指すNPO「4デイ・ウィーク・グローバル」のチーフエグゼクティブ、ジョー・オコナーさんは、この試験導入の進捗状況に満足していると話します。

「企業からのフィードバックによると、この試験導入は、収益と生産性のレベルが維持できた、あるいは、改善したという点で、圧倒的にポジティブな体験だったと言えます」
「他の国で行った、以前の試験導入の中間報告でわかったことは、ストレス、バーンアウト、睡眠の質、仕事と家庭のバランス、生活の満足度などの従業員の幸福を測る指標で、統計的にいちじるしい改善が見られた、ということです」
「年内にアイルランドと北米で行う試験導入の調査結果と分析に、来年初頭に出るイギリスでの試験導入の最終結果を合わせて、最初の研究報告を発表したいと思っています」
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週休3日制が「環境」に与える影響

コロナ禍での“外出自粛”は、さまざまな影響をもたらしたけれど、温室効果ガスの排出量が減ったというポジティブな面もありました。オフィスワークが減り、家庭での電気やエネルギーの使用量は増えたものの、イギリス国家統計局によると、移動による温室効果ガス排出量の減少が大きかったよう。

昨年発表された研究では、週休3日制を導入することで、イギリス国内のカーボンフットプリント(原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を CO2 に換算して、分かりやすく表示する仕組み)を年間で20%、つまり1億2,700トン削減できるそう。これはスイスのカーボンフットプリントの全体量に相当します。

ちなみに、イギリス政府は、2050年までにCO2排出を実質的にゼロにする法案を2019年に可決し、実現に向けて取り組んでいる最中です。

週休3日制の「ジェンダー平等」への影響

休日が1日増えるのは多くの人々にとって魅力的なことだけど、子どものいる保護者にとっては、特にそうであるはず。

現在、家庭内の無償労働の多くは女性によって担われており、これは女性が職を得ることへの壁になっているとの見方があります。イギリス国家統計局によると、扶養児童がいる母親の就業率は75.6%であるのに対し、父親の就業率は92%。母親を支援する慈善団体「プレグナント・ゼン・スクリュード」の調査によると、43%の女性が保育料の高さを理由に仕事を辞めざるを得なかったとの結果が出ています。

「プレゼンティーイズム」とは、生産性や健康に害を及ぼしているにもかかわらず、職場に長時間いることを奨励されている状態。団体の創設者で作家のジョエリ・ブレアリーさんは、これが大きな課題になっているとみています。

「子どもを学校に迎えに行ったり、世話をしたりしなくてはいけないので、職場に長時間いるのはどうしても無理。それに、他のタイプの従業員とちがって、無償労働も多いんです」
「それは、私たちが生産的ではないということではありません。実際、調査によると、母親たちは非常に有能で生産性の高い社員なのです」
「週休3日制は個人の成果を評価することでプレゼンティーイズムを改善し、雇用者にスキルや生産性をもっと重視させるようになります。インプットよりアウトプットを重視する労働市場は、母親と企業に有利なのです」
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週休3日制の課題

明らかなのは、週休3日制がすべての産業やすべての労働者に適しているわけではないということ。時給制で働いている人々は、労働時間を減らして支払いを減らさないわけにはいかず、生活費の高騰が続く今、多くの人々は働くのをやめるわけにはいきません。

医療やサービス業などの分野では、労働力不足という問題も。推進派の活動家たちは、週休3日制によってスタッフを雇用しやすくなると訴えるものの、雇用者の中には、週休3日制によって仕事のスケジュールに空きができ、事業に影響が出るのではないかと懸念する人もいるそう。

現在週5〜7日サービスを提供している企業の中には、カスタマーサービスの質をめぐる懸念もあります。スタッフの労働時間が減り、顧客への対応ができなくなれば、好きなときにサポートを受けられないと感じた顧客が、ライバル企業に移る可能性もあります。

週休3日制の今後の可能性

現在の試験的導入の成功は、良い兆候ではあるものの、イギリス政府が週休3日制を実践するかどうかについては不明であるというのが、専門家の見方。

イギリスとウェールズにおける労働組合の中央組織、労働組合会議の総書記であるフランシス・オーグレイディさんは、こう語っています。

「技術の発展が意味するのは、21世紀においては、週休3日制が可能であるということです。前世紀には、労働組合が週休2日と有給休暇の権利を勝ち取りました。今私たちは、すべての労働者のために、よりよりワークライフバランスを求めて闘っています」

※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
GOOD HOUSEKEEPING