2023年10月頃、とあるTikTok動画が世界的に注目を集めました。動画内では、11万人以上のフォロワーを持つTikTokerであり、新卒として働きはじめたばかりだったブリエルさんが、「原則9時から17時まで働くだなんて頭がおかしくなりそう」と涙ながらに訴えていました。

仕事とプライベートの時間のバランスを保つ難しさについて、議論の種になった同動画。 社会に対し「働き方を見直してほしい」と望んでいるのは、新卒のブリエルさんだけではありません。

多くの企業が出社を義務づけ…

2023年は、パンデミック以前の生活に最も戻りつつあった一年でした。一方で、世界の企業の72%がオフィス復帰ポリシーを義務づけており、Amazonは週に 3日間オフィスにいない従業員にはメールで警告しているのだそう。

たしかに、出社することにもメリットはあります。たとえば困った状況について直接聞くことができたり、何気ない会話から素晴らしいアイデアが生まれることも。しかし、出社によって通勤時間に費やす時間が増えたり、ランチの外食による費用も膨らんでいくのも事実です。

パンデミック以前は何年もこのような働き方をしていたにも関わらず、リモートワークが導入された後では、まるっきり別の働き方だと感じることも。多くの人が以前のような働き方を「手に負えない」と感じているのです。

週5日の出社義務で退職を決意

「オフィスには1時間以上かけて通勤しています。時間もかかりますし、体力的に疲れてしまいます」

そう話すのは、マンチェスターに本社を置くアパレル系企業に勤務する、サラさん(仮名)。今年に入り、週に5日間の出社が義務付けられ退職を決意したそう。

「コロナ禍では、会社は 『ハイブリッドワーク(出社とリモートワークを組みあわせる勤務形態)こそが未来だ 』と言って、外出制限が緩和された後もリモートワークを併用しながら、オフィスで3日間、在宅で2日間、働いていました」
「出社の日はミーティングやブレーンストーミング、チームと向き合うことができ、在宅の日は他のことに気を散らさずに集中できたので、この働き方が気に入っていたのです」
「しかし今年7月に『販売不振のため、一時的に週に5日間出社して仕事をするように』と会社から告げられました。その1週間後には、かつての勤務形態に変更されました。思いもよらない出来事でした」

サラさんはこのことを知らされる前に、マンチェスター郊外に家を買ったばかり。新しい家から会社までの通勤時間は1時間を超え、複数の交通機関を乗り継いで出社しなくてはいけませんでした。

「プライベートでも様々なことに挑戦している」というサラさんは、会社の方針変更によって仕事とプライベートのバランスが完全に崩れてしまったと言います。

「以前はフレキシブルな働き方のおかげで適度に休息もありました。しかし、今はすぐ『疲れた』と感じるようになりました。契約していたジムは退会し、友人との約束も断り、以前は仕事の後に何とかこなしていた家事や食料の買い出しなどを、週末を使ってしなければいけなくなりました」
the nine to five is exhausting
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フレックス勤務を申請したものの却下されたというサラさんは、ついに退職することを決意。

「仕事は好きでしたが、このままでは燃え尽きてしまうことはわかっていました。朝5時半に起きて出勤し、1日最低2時間を通勤時間に費やし、長い時間を地下鉄の中で過ごすなんて、とても毎日できることではありませんでした。お金もかかるし、危険な目に遭う場面もあるかもしれません。それに、以前していた課外活動も思うようにできなくなりました」
「仕事以外の生活がないと感じていました。日中の散歩や、精神的な助けにもなっていたジムにも通えなくなりましたし、友人や家族と過ごす時間も少なくなりました」

サラさんのチームの他のメンバーも、週5日間の出社を求められるポジションは避けたいと思っているようで、会社はその穴埋めをするのに苦労しているそう。

「疲れきって、散らかってしまったような気分」

ロンドンでコピーライターをしているマヤさん(仮名)も、もし会社が週5日間の出社を義務付けたら、苦労するだろうと話しています。

「パンデミックによってようやくワークライフバランスが取れるようになったのに、現在のオフィスでの3日間の勤務と長い通勤時間では疲弊してしまいます」
「パンデミックが起きる前の私は、10年近く毎日忙しく過ごしていました。週に5日間オフィスで勤務し、残業をこなし、わずかな残り時間でジムやデートなどの予定に向かっていました。それまでの私の人生は、常に車輪の上を走っているハムスターのようでした。すべてをうまくこなそうと、自分の尻尾を追いかけていたのです」

2020年に世の中がスローになったとき、自分がいかに疲弊していたか思い知らされたそう。

「パンデミックの中で人々が新しい趣味を見つけ始めていたとき、私はただ“冬眠”していました。ひたすら眠り、テレビを観て、静かに散歩し、お風呂に入り、美味しい食事を作りました。大人になって初めて、自分のことや食事に気を配り、整頓された家を維持することができたと感じました。そうすることによって、不安も軽減されていったのです」

しかし、現在は週の3日間をオフィスで過ごしているそう。

「2年間フルリモートで働けたのは幸運でした。その後、週に2日間は出社し、今では3日間の出社が必要になりました」
「私の会社はフォーマルな服装での出社を求められます。人に見られたくない日や見た目で判断されたくないという日もあって、スウェットで仕事をしたい時だってありました。私にとって、オフィスでの服装選びや出社時のヘアメイクをする時間は、“余分な時間”だったのです」

これらの勤務形態は生活だけではなく、金銭的な面にも影響を及ぼすといいます。

「お金を節約するためにお弁当を作るべきなのはわかっています。しかし、仕事以外のことに費やせる時間が少ないので、料理をすることも減りました。その結果、便利さを求めてランチを買ってしまうのです」

マヤさんは「もし仕事が週5日間の出社に戻るのなら、私はおそらくもっと柔軟な働き方を求めて転職するでしょう」と付け加えました。

フレキシブルな働き方について議論できることこそが、“特権”だと考える人もいるでしょう。企業は新たな人材を雇用するために多くのコストやリソースを投下していますが、その裏には優秀な人材が「燃え尽き症候群」やストレスを感じることで退職をしている事実があります。そんな中で“かつての働き方”に固執することは、一体誰にとってメリットがあるのでしょうか。


※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation: Reika Shimura
Cosmopolitan UK