多様なバックグラウンドやルーツを持つ人に対し、「ミックス」「ダブル」「バイレイシャル」「マルチレイシャル」などと表現することが増えた昨今。その背景には、多様性を尊重する社会の変化や、当事者の意見が反映されているといえます。

今回は、日本で生まれ育ち、日本とアメリカのミックスのモデルとして活躍するSurahさんとElizabethさんにインタビュー。

日本でミックスとして生活することの本音を中心に、よく使われがちな“ハーフ”という言葉の捉え方、美容・ファッション業界におけるアイデンティティのアクセサリー化や社会課題について聞きました。

参加者プロフィール

■Surah

 
CEDRIC DIRADOURIAN
スポーツとダンスをしていた経験から、スポーツやファッションなど幅広いジャンルでモデルとして活躍。東京生まれ東京育ちで、アメリカ人の父親と、日本人の母親を持つミックス。

INSTAGRAM

■Elizabeth

 
CEDRIC DIRADOURIAN
SNSマーケティングを担う会社員として働く傍ら、モデル活動や、TikTokやInstagramで発信の活動を行う。アメリカ人の父親と日本人の母親を持ち、日本で生まれ育つ。

INSTAGRAM

――現在はメディア業界でマルチにご活躍されているお二人ですが、そのきっかけや経緯を教えてください。

  • Surah:2歳のときから事務所に所属していて、キッズモデルとして活動を開始しました。学校で部活動を始めてからは、専念するために活動を休止して、卒業後は車屋さんの正社員として働いていました。
    そのときに、友人からスポーツ関係のモデルのお仕事をオファーされて、モデル活動を再開し、今に至ります。
  • Elizabeth:私は小学4年生から、モデルとして活動を始めました。大学に入学してからは休んでいたのですが、卒業後に就職したタイミングでフリーランスのモデル活動を再開しました。
    コロナ禍で時間に余裕ができたのでTikTokを始め、“ハーフあるある”動画など、幅広いジャンルを投稿しています。

ミックスに対するハードルの高さ

――公に出る活動をされるなかで、自身のアイデンティティを強く意識する瞬間はありますか?

  • Surah:初めて出会う方からの多くからは、挨拶の一環として「どこ出身なの? どこのハーフ?」などと聞かれることがよくあります。この手の質問にはすっかり慣れてしまったけれど、まさに自分のアイデンティティを意識する瞬間ではありますね。
    私が「日本とアメリカのミックスです」と答えると、大体「英語が喋れるの?」という質問が返ってくるパターンも多いです。私は日本の学校に通っていたので、軽く会話ができるレベルなのですが、たまに「その見た目で英語話せないんだ」などといった意地悪な言い方をされることも…。
  • Elizabeth:わかります。会話のきっかけとして、そのパターンは多いですよね。ほどほどに英語が喋れるので「普通に話せるよ」と言うと、ネイティブレベルの英語力を期待されません?
  • Surah:そうそう! だからあえて控えめに言うんです。
  • Elizabeth:でもそうすると、「その見た目なのに意外」と言われたり、「お父さんとは英語で話さないの?」と深堀りされたりすることがあって、やむを得ず「離婚していて…」などと説明をしないといけないのは、正直、面倒くさいです(笑)。
  • Surah:メディアなどで描かれるミックスのイメージが、英語が喋れて当たり前で、運動神経が良くて、とにかく“多才”な印象なんでしょうね。期待されるハードルが、とにかく高いというか…!
  • Elizabeth:まさに。でもその一方で、ミックス=タメ口を平気で使う人、常識がない人みたいな捉われ方もあるから、あらゆるバイアスがかかってると思います。

いじめられっ子から、憧れの対象へと変化

――幼いころからモデル活動を始められてますが、そのときの経験で印象的だったことはありますか?

  • Surah:生まれた瞬間から、他の子とは違ったらしいです。母親から聞いた話なんですけど、私って4,000グラム後半の体重で生まれたらしくて。
    他の赤ちゃんと並べられたとき、体型や肌の色が一人だけ違ったので、周りから「すごい大きい」「男の子?」などと色々言われていたみたいです。
    小学生から中学生にかけては、いじめられていたこともありました。今ではすっかり強くなって、気にしていないですけど、周りとの違いは感じざるを得なかったです。
  • Elizabeth:私も小学生から中学生までは、よく周りからからかわれていたんですけど、高校に入学した途端に、白人とのミックスであることが「羨ましい」と言われるようになったんです。
    幼い頃は“異質”であることからいじめられていたのに、大人になると周りと違うことが“美しさ”になることに、正直戸惑いました。
  • Surah:本当そうだよね。ちょうど高校生くらいのときに、モデルとして活躍しているミックスの子たちを雑誌やテレビで見るようになって、意識が変わるんだと思います。
image
CEDRIC DIRADOURIAN

「半分が日本」という前提が根付いている

――日本でよく使われがちな「ハーフ」という言葉について、違和感を覚えたことはありますか?

  • Surah:正直、日本で育ってきて昔から言われてきた言葉なので慣れてしまいました。でも最近は、自己紹介をするときに「ハーフ」ではなく「ミックス」 という言葉を使うようにしています。
    「ハーフ」という言葉だと、2つの国の血が「半々にある」というイメージがありますが、それに該当しない人もいますよね。
    「ミックス」という言葉には「混ざっている」という意味があるので、こっちの方がしっくりくるし、ポジティブなイメージなんです。
  • Elizabeth:日本では馴染みのある言葉なので、「ハーフ」自体にそこまで違和感はないです。ただ、「半分が日本」という前提が根付いていることにモヤモヤすることはあります。
    色々なルーツが混ざっている人も多いので、英語圏ではそもそも「ハーフ」という表現を使う機会があまりないんですよ。

「アクセサリー化」問題

――ファッションやビューティ業界でよく聞く、“外国人風”について、どう思いますか?

  • Surah:「ハーフ風のカラコン」が販売されているのを最初に見つけたとき、正直何の“半分”を指しているのか、全然わからなかったんですよ。ようやく、ミックスの人たちの瞳の色を指しているんだとわかったときは、不思議な感覚でした。
    美容院などでも、「外国人風」のヘアスタイルをよく見ますが、大体ブリーチへアやハイライトのデザインが多いですよね。
  • Elizabeth:日本でよく使われる「外国人風」は、言い換えれば、青い目をしているブロンドヘアの白人女性像に寄せるということなのかなと、モヤモヤすることがあります。
    私はどちらかというとその容姿に近いので、それを理由に羨ましがられることもあるけれど、正直反応に困ることも。
  • Surah:日本人の多くの“美”の対象は白人女性にあるんだなと、今でもずっと感じます。だからなのか、日本にいると美的感覚が鈍りやすいと思っていて。美しさのスタンダードが単一化していると、皆がそれに寄せるようになるのかなと。
  • Elizabeth:それはやはりメディアの影響が大きいですよね。モデルのオーディションでも、応募条件に「日本人か白人ハーフ」と書かれていることがあります。
    偏ったキャスティングはもちろんですけど、この表現の仕方にも問題があるような気がして。言いたいことはわかるんだけど、いざ差別化されると違和感はあります。
  • Surah:うんうん。それに、アジア人を起用した広告と、ミックスの子たちを起用した広告で分かれていたりして、そもそも初めからレース(人種)が異なることも。
    とはいえ、キャスティングする立場になると、応募対象を文章に起こすのってきっと難しいですよね…。
    私は小さい頃から慣れてしまっているけど、やっぱり今でもカテゴライズされるんだなと思ってしまう。それで言うと、“純ジャパ”って言葉もどこか排他的ですよね。
image
CEDRIC DIRADOURIAN

フィールドによって異なる意味を持つ言葉

――そもそも「純ジャパ」の定義は何なのでしょう?

  • Surah:純ジャパニーズのことを、「純ジャパ」って略すじゃないですか。個人的には、あれってどうなんだろうと思って。
    ルーツ的な観点から言うと、両親が日本人の方が「純ジャパ」になるんですかね…? 私はミックスだから、日本生まれ・日本育ちでも「純ジャパ」ではないのかな。
  • Elizabeth:正直、定義はあいまいですよね。でも自分を「純ジャパ」と呼ぶ人って、「私なんて純ジャパだから…」などと自虐的に使うパターンが多くありません?
  • Surah:たしかに、あれはなんでなんだろう。あとは、ルーツは日本人でも、生まれた国が外国の人や、一時的に海外に住んでいた帰国子女なども、「非・純ジャパ」として扱われていますよね。
    どんな意味を持つのかはわかりませんが、私は言われたくないし、使いたくもないなと思います。

――「残念ハーフ」という言葉もありますよね。

  • Surah:メディアによる偏った描写がきっかけで、ミックスの人たちは英語が喋れたり、運動ができたりするといったステレオタイプが生まれ、そうじゃない人たちを貶すような意味で、「残念ハーフ」という言葉が生まれたんだと思います。
  • Elizabeth:私の周りに、自身のルーツから“残念ハーフ”と自虐している人がいました。周りがいくら否定しようと、自意識に植え付けられてしまっている感じがして、悔しい気持ちになったのを覚えています。
  • Surah:モデルの現場で一度、「ブラックのハーフなのにすごく綺麗だね」と言われたことがあって。相手は褒め言葉としてそう言ったのかもしれないですが、正直全然嬉しくない。思わず、「今のはどういう意味ですか?」と指摘してしまいました。
    ステレオタイプが生むマイクロアグレッション(無意識の差別)は、日常に潜んでいると思います。
  • Elizabeth:たしかに。バスケットボールのコーチをしている彼氏が、「美容・ファッション業界のなかでは白人のミックスは美しいとされる傾向にあるかもしれないけど、バスケットボール業界はブラックのミックスの方が羨ましがられる傾向にある」と言っていたんです。
    おかしな話ですけど、「残念ハーフ」という言葉はあらゆるフィールドで、異なる意味を持って使われているのかもしれないですね…。
  • Surah:ビューティ&ファッション業界は白人、スポーツ業界は黒人が優位になっている印象はたしかにあります。

無知が生む偏見や差別をなくすために…

――「もっとこうなったらいいのに」と思うことや、今後の目標はありますか?

  • Elizabeth:あくまでも日本生まれ・日本育ちのミックスなので、私たちが受け入れてしまっていることも、別の環境で育ったミックスの人たちからすると、受け入れがたい問題になることだってあり得ます。
    それに、私たちのようなミックスの経験や気持ちは、正直、自分とは異なるバックグラウンドを持つ人たちに自分事化してもらったり、完全に理解してもらったりするのは難しいと思うんです。
    色々な考え方や捉え方、様々なバックグラウンドを持つ人がいるなかで、一人でも傷つく人がいるのであれば、その人の声が尊重される社会になったらいいなと思いますね。
    また、Surahさんが言われた「ブラックだけど綺麗だね」という言葉もそうですけど、その人にとっては悪気なく言った発言かもしれないからこそ、多様性が“当たり前”のものとして認識される時代になってほしい。
    まさに今、社会が少しずつ変わってきていると感じるからこそ、そう信じたいのかもしれません。
  • Surah:知識不足が生むマイクロアグレッションは、知ることでなくせるかもしれない。相手がどう感じるかなんて、すべてを汲み取ることは難しいからこそ、学んで、普段の会話のなかで気を使うことくらいはできるんじゃないかな。
    また、今ってSNSが浸透している分、いわゆる“美しさの模範”が目に見えてわかるじゃないですか。それによって、「自分には何かが欠けているのかも」と不安になる人だっていると思います。
    私は、ありのままでいることが一番大切だと思っているので、私のSNSを見てくれている人や、同じようなミックスの子たちが、私の活動を通して自分らしさを大切にしてくれたり、強くなりたいと思ってくれたりしたら嬉しいです!
image
CEDRIC DIRADOURIAN