厚生労働省は、「ディスレクシア(DD、発達性読み書き障害) は基本的には読み書きに困難があること」と説明しています。それによって本人が自信をもちにくい、また読み書きを必要としない職を選びやすいといった人格形成や人生の選択にも大きな影響をもっていると言います。さらに、症状は一概に「全く読めない」「全く書けない」のではなく、その状況が環境や本人の特性や体調等によって変わることもあるのだそう。

ここでは、読み書きに困難をもつ障害がありながら、ライターになるという夢を叶えた当事者の声を紹介します。

語り:ロイス・シャーリング

ディスレクシアの“正しい理解”が進まず…

ディスレクシアのライター・ジャーナリストです」と自己紹介をすると、相手の反応はだいたい2パターンに分かれます。信じられないという含み笑いか、「どうやって? 」と興味津々に聞いてくるか。「コメディの設定として使えそう」と言われたこともあります。

こういった発言は、悪気があるわけではないのですが、ディスレクシアについてよく知らないことが原因で発せられているのだと思います。ディスレクシアは、単純に読み書きができない、スペルができない人を指すと思っている人がほとんどです。しかし、スペルができない人をライターとして雇うことはないでしょう。

anaglyph image manipulation of typescript metal letters seen in a flea market
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実は、ディスレクシアはニューロダイバーシティ(神経多様性)の中では最も一般的で、10人に1人が該当すると言われています。そして、単純にスペルが下手なことではなく、本当はもっと複雑なものなのです。

読み書きの困難は「氷山の一角」

「ディスレクシアの人々は、思考回路が違います。仕事や教育の現場では間違った古い情報からアップデートされておらず、ディスレクシアはどういうものなのかという理解が進んでいません」とディスレクシアのチャリティ団体「メイド・バイ・ディスレクシア」の創設者でCEOのケイト・グリッグスさんは言います。

ディスレクシアの人の脳は、そうでない人の脳と比べると、情報の処理方法から違っており、その違いがスペル、文法や文を読む方法の違いとして現れます。これはディスレクシアの氷山の一角です。

たとえばほかにも、方向感覚(私は常に迷子になる&遅刻魔で、この2つは相互関係にあります)や記憶力(道順を説明してもらってもすぐに忘れてしまいます)、集中力、感情管理(迷子になると泣きたくなります)、計画的な行動なども苦手です。

これらの症状が、ADHDや自閉スペクトラム症などに似ていると気づいた方もいると思います。実際これらのニューロダイバーシティと重なり合う部分要素も多いからだそうです。

neurodiversity concept
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英国ディスレクシア協会のヘレン・グッドサルさんは「調査によって数値にかなりの差はあるものの、約30〜40%のディスレクシアの人々は、その他のニューロダイバーシティも持ち合わせていると推測されます」と説明。

脳の働き方の違いにより、ディスレクシアの人々はユニークなスキルの組み合わせをもっていることが多いです。問題解決を得意とし、空間認識の能力やクリエイティブでクリティカルな思考に長けていることも。私にとっても大事な要素ですが、コミュニケーションやストーリーテリング、情報の理解などの能力が平均より高いと言われています。

「10人に9人のディスレクシアの人は、スペリングが不得意です。しかし、71%はコミュニケーションに長けていて、ライター、ジャーナリスト、メディアやマーケティングの業界に適しているのです」(グリッグスさん)

大人になるまで気がつかない人が多数

私自身は、ディスレクシアを「秘密の武器」だと思っています。しかし、偏見や理解不足で、キャリアや教育で困ったことはたくさんあります。過去には、どのように私をサポートし、いいところを伸ばしていけるか会社側が理解できず、昇給や昇進を全く考慮されなかったこともありました。

ほかの多くのディスレクシアの人々と同じように、私も社会人になってから初めて診断されました。小学校から高校、大学まで、必要なヘルプをもらえず、苦しんできたのです。

「多くのディスレクシアの人々はまだ診断されておらず、学校での認知も広がっていません。結果、ディスレクシアの生徒は自信を無くしてしまうことも多いのです(グッドサルさん)」
mother helping her kids with homework
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女性は特に見過ごされやすいという傾向も

また、ジェンダーによる差もあります。学校では、男子生徒よりも女子生徒の方がディスレクシアに気づいてもらえない傾向があるそう。あくまでステレオタイプであり、全員がそうではありませんが、グッドサルさんはその背景を次のように説明します。

「まず前提として、ディスレクシアはジェンダーに関係なくなり得ます。そして子ども時代から、ディスレクシアによる周りとの違いなどから、苛立ちや不安などを感じ始めることも」
「一般的に男の子の方が“やんちゃ”なことが多いので、その苛立ちや不安などから男の子のディスレクシアは早期に気づかれる傾向があります。逆に、女の子は静かに行儀良くするように教えられているので、不安を自分で抱え込み、自力で対応しようとしてなかなか気づかれない場合が多いのです」

つまり女性やマイノリティの人々は、必要なヘルプをもらうことができず、自分が周りより劣っていると思いながら学生時代を過ごすことが多いと言えるでしょう。そもそも女性は“インポスター症候群”に陥りやすく、自分の能力を過小評価しがちだと言われているのでなおさらのこと。

自分の“リミット”を自分で決めないで

ディスレクシアと診断された21歳のとき、私はライターになるという夢を諦めないといけないと思いました。しかし、それから私は本2冊を執筆(1冊は来年出版です)、たくさんのお仕事をもらい、コスモポリタンでも働きました。

諦めないといけないと思った21歳の私は、どれほど間違っていたのかを感じるばかりです。


※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:佐立武士
COSMOPOLITAN UK

From: Cosmopolitan UK