自分自身でも気づかない考えの偏りや先入観による思い込みを指す、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」。社会生活を送りながら、長い年月をかけて脳に刻み込まれる「無意識の偏見」は、自分の思考回路から排除するのが難しいのが特徴とされています。

本記事では、専門家の解説や学術機関での調査内容を交えて、脳の習慣としての「無意識の偏見」とその対処法をお届けします。


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「無意識の偏見」は誰もが持つもの

多様性に対して理解があり寛容だと自負する人でも、“無自覚の偏見”は誰しもが持つもの。人種や性的指向、宗教、体型などで人を差別したことがないと考えていても、実は先入観に基づいて人と接したり、意思決定を下していることがあるのです。

米ワシントン大学の心理学および脳科学の助教授であるキャルビン・ライ博士は、「自分自身を“平等主義者”だと思っている人でも、無意識の偏見を持っている人も少なくありません」と指摘。

たとえば「この人は自分とは合わないだろう」や、「この職業にはこういう人が合うはず」といった判断をするとき、無意識の偏見をもとにしてしまうんだそう。

調査で明らかになった「無意識の偏見」が招いた格差

米国科学アカデミーの調査によると、イェール大学の教授職の応募に、男性の名前と女性の名前が書かれた同じ内容の履歴書を送ったところ、男性の名前の履歴書が通りやすく、報酬も上がりやすいという結果に。

また、学術誌「Sex Roles」の調査では、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、そしてヨーロッパ系の名前が記載された履歴書を送ったところ、アフリカ系とヒスパニック系の名前の採用率が低く、有色人種の女性だとさらに下がったことが判明。

このように世界トップ水準の教育機関で、最先端の学問に触れながら多様性を促進し不平等を是正するべき研究者や教育者たちでさえも、無意識の偏見に基づいた判断を下してしまうのです。

そうして、他者の脳に刻み込まれた無自覚の思い込みや先入観によって、それを受ける側は、与えられるべき機会に恵まれなかったり、自己肯定感やメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼすのです。

脳の仕組みで「偏見」を考える

日々の生活で刻み込まれてきた無意識の偏見に意識を向けて是正するためには「短期間で解決しようとするのではなく、毎日少しずつ見直していくことが大切」と、ライ博士。

「私たちは毎日、服を着替える、歯磨きをするなどの作業を、深く考えずに行います。人間の脳が意識的に処理できる情報量は限られているため、何度も同じ情報が与えられたりアクションを繰り返すと、“メンタルショートカット”ができるようになり、無意識に反応ができるように脳が訓練されるのです」

これは、車の運転に慣れてくると、無意識でハンドルやアクセルの調節を行えるようになるのと同じ原理なんだそう。

そして、このような無意識的な反応を理解するために米ハーバード大学が考案したのが、「Implicit Association Test (潜在意識テスト)」。自分で意識することのできない、ある事柄に対するイメージや潜在的態度を測るのが目的です。

たとえば、「花」を見たら「綺麗」や「優しい」などのポジティブなイメージが浮かぶのに対して、「虫」を見たら「汚い」や「見にくい」などのネガティブなイメージが即座に浮かぶといった潜在意識をあぶり出すものです。

これは人種差別にも当てはまり、「白人」に対して「善良」というイメージを選択するまでのスピードが、有色人種をみたときよりもはるかに早かったという結果も発表されています。

一人の意識改革で社会が変わる

社会のマジョリティや権力を持つ人々によって、「こうあるべき」というイメージや思考が助長されるため、「無意識の偏見」は社会全体、そして個人レベルでも排除することが難しいという特徴があります。

ボディイメージに関する偏見の例をあげると、「人は自分の体重を管理し、痩せている方が理想」という前提を持つ人は、「太っている人=だらしなく意志力に欠けている」と決めつけてしまいます。

ただしそれは事実ではなく、ある特定のボディイメージが商品を売るための広告やSNS投稿、テレビや映画などで起用されることによって、生活に入り込み脳に刻み込まれたものなのです。

集団的な意識改革の例

無意識の偏見を取り除くのは簡単なことではありませんが、一人ひとりの意識改革があったことで社会が変わった例もあります。

たとえばLGBTQ+問題。1994年の調査によると、アメリカ人のほぼ半数がゲイやレズビアンは社会に受け入れられるべきではないという考えを持っていました、その25年後の2019年には、その数値は21%にまで低下。

この変化は、人々がLGBTQの人々に対する偏見を克服し、集団的な意識改革が反映されたともいえるのです。

group of friends having fun
Flashpop//Getty Images

無意識の偏見を克服する方法

自分にも無意識の偏見がある、ということを理解したら、次はどうやって向き合い克服していくかを考えたいところ。本記事では、3つのアドバイスをご紹介します。

様々な経験をし、様々な人に会う

自分とは異なる人種、性的指向、または宗教を信仰する友人や同僚と触れ合ったことがない場合には、“違い”を持つ人に対して「無意識の偏見」を持ちやすい傾向があります。

無意識の偏見を克服するための最も効果的な方法といえるのが、幅広い経験を通してさまざまなバックグラウンドを持つ人々と交流をすること。自分の「コンフォートゾーン(安心領域)」から抜け出すことで、人に寄り添うことを学び寛容性を養うことができるのです。

「(その人が属している人種や性別、社会的地位などの)集団やグループに基づいた偏見を当てはめるのではなく、一人ひとりを深く知ろうとすることが大切です」

一息おいて考える

思い込みや先入観に基づいた判断が頭に浮かぶことを自覚したら、一息おいて「なぜそう考えたのか」や、「どう考えるべきなのか」と疑問視してみましょう。

偏見を見直し改めるためには、ある思考が偏見に基づくものだと脳に教え込む必要があります。「繰り返し脳を訓練することで、新しい思考パターンが上書きされる」と、米パデュー大学の心理学部で教鞭をとるピエトリ博士は説明します。

社会について学ぶ

無意識の偏見に対して意識を向けるには、自分の思考や感情などの内的な要素に焦点をあてることも大事な一方で、自分が育った環境や偏見が生まれる原因となった歴史や社会構造を理解することも重要です。学者や専門家たちの調査や研究を反映した文献や記事を通して、情報収集してみましょう。

※この翻訳は抄訳です。

Translation: ARI

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