環境問題に向けられる関心や、また環境問題から受ける問題に「ジェンダー差」があることはご存じでしょうか?

ここではMedia is Hopeの名取由佳さんが「エコ・ジェンダー・ギャップ」について解説。「女性/男性/その他の性はこうだ」と決めるつけるのではなく、環境問題への関心や影響にジェンダー差がある現状に着目して、環境問題の意識を高めるためにより多くの人がともに手をとりあっていくためにできることを一緒に考えます。

エコジェンダーギャップとは

環境問題に関心を抱くことや、環境問題によって影響を受けやすい人の間には、ジェンダー間で格差が存在しています。そしてこの差が「エコ・ジェンダー・ギャップ」とよばれています。

この言葉はジェンダーによって環境問題への興味関心の高さに違いがある現状や、企業によるマーケティング商法が女性向けに偏っているというジェンダ―差に気がつくことになった<MINTEL>によるイギリスで行われた調査で使われました。

この調査を引用した<GUARDIAN>は、以下のような社会の傾向を指摘し、サステナビリティについて語るときの無意識の偏見を除いていくべきだと示しています。

  • 家事労働を多くしている女性が家庭内でのサステナビリティの“担当者”になっている(ゴミを仕分けることなど)
  • 環境に優しいとされる製品やサービスは“女性向け”と打ち出されていることが多い

記事では「女性(と割り当てられた人)が生まれつきケアに長けているのか、習得しているかにかかわらず、“女性らしさ”と“環境保護”が男女ともに認知的に結びついていると示すエビデンスが多くある」と言及。「そんなことないだろうと思われるかもしれないが、これが男性のアクションを妨げる一因になっている」と続けました。

日本では、プラスチックごみ問題や生物多様性、動物愛護をテーマに内閣府が実施した世論調査「環境問題に関する世論調査」で関心度のジェンダーギャップが指摘されています。この調査では女性と回答している人の方が環境問題に関する関心が高かったほか、マイバッグやマイボトルを持ち歩くといった具体的な取り組みを実施しているという結果が出ています。

KDDI research atelierが2021年に公表した調査によると、「カーボンニュートラル」や「パリ協定」といったキーワードについての内容を知っていると答えたのは、どの世代でも男性の割合が高かったそう。しかし環境問題に配慮して日常で行動をしていると答えた人は、すべての世代で女性の割合が高かったという結果がでています。

気候災害の影響を受けやすいのは「女性」

気候変動による異常気象により、猛暑や豪雨などの気候災害が発生する頻度が増えたり、大規模な山火事や洪水、干ばつなど地域への影響も増しています。そして複数の交差する要因によって、そういった災害時の受けやすさにもジェンダー・ギャップがあるといわれています。そういわれる大きな理由としてはこちら。

  • 社会・経済的な要因

世界的に見て絶対的貧困に陥る人は男性より、女性の方が多いと言われています。たとえばサハラ以南の各国では、社会的慣習によって女子や女性は教育や社会参加から遠ざけられ、高等教育を受ける機会にジェンダー差があります。

日本では特に相対的貧困に陥る人の高齢化と、女性が多くなっていくことを問題視する見解も。貧困状態にあると教育や医療へのアクセスも限られている場合が多く、災害時の避難や復旧支援を受けにくくなります。

絶対的貧困とは最低限の生活が送れず、生きること自体が困難な状態のこと。一方で、相対的貧困とはその国や地域の水準の中で比較して、大多数よりも貧しい状態のこと。

そして未だ女性は家事や育児などの責任を担っていることが多く、災害時の対応に時間や労力を割くことが難しい場合があります。

  • 身体の性差に基づく要因

生まれたときに女性/男性と割り当てられた個人の間では、女性の方が平均体重は低く、体力的違いもある傾向があります。もちろん個人差はありますが、これは災害時の避難や復興作業において、より大きなリスクに直面しやすいとも。

また妊娠や出産、授乳中の人はより避難しづらさがあったり、特別なケアを要するほか、出産経験者もその過程で栄養不足や体調不良になりやすいため、災害時の健康リスクが高くなります。

共に手をとりあうために

UNFCCC(国連気候変動枠組条約)によると、既存のジェンダー比が偏った会議の場において進められる気候関連のプロジェクトや政策より、女性が関与したときのほうがより効果的になるという見解も。2019年の研究では、国会での女性の代表を増やすことはより野心的な気候変動政策の採用につながり、その結果、排出量がより削減されることがわかりました。

ジェンダー・ギャップは気候変動対策に影響し、気候変動対策はジェンダーギャップに影響するといえるでしょう。みんなが暮らす地球においてジェンダー平等な社会の実現は、気候変動に対して強い社会を築くことにつながるのです。

環境に配慮した行動をとるのに女性の割合が高いという背景に、“女性らしさ”や“男性らしさ”が関係していると指摘されています。たとえば再利用可能なショッピングバッグの使用やリサイクルなど、環境に優しい行動が“女性らしい”とレッテル貼りされているようなこと。かたや自分や社会のケアに男性を参加しづらくしている「有害な男性性」も多くの個人を苦しめています。

そういったレッテルを超えて“自分らしさ”をもとにした行動が増えると、気候変動対策を含む様々な課題が前に進むのではないでしょうか。

※この記事では、環境問題におけるジェンダーギャップを取り上げましたが、決して男性・女性をひとくくりにして肯定あるいは否定をしたいものではありません。また、この記事で記載する男性・女性とは生まれたときに割り当てられた性に基づくことで、自身が心地よく思うジェンダーは自分自身が決めるものです(名取由佳