「サステナブルな旅行」に強い関心を持っている旅好きの人も多いはず。でも残念ながら、ほかの多くの「環境にやさしいこと」と同じように、サステナブルな旅行も“グリーンウォッシュ”の影響を受けている。
つまり「環境に配慮している」とうたいながら、実際には効果的な対策をしておらず、消費者にさまざまな誤解を与えている企業が存在しており、旅行業界にも広くまん延しているということ。
数えきれないほど多くのホテルが、自らの施設を「サステナブルなホットスポット」として売りこんではいるものの、それが事実かどうかを見極めるのは、簡単なことではない。
では、ホテルが実際に「持続可能な」運営をしているのかを判断するには、どのようなことをチェックする必要があるのだろうか?
地域コミュニティと環境にやさしい旅行を目指す非営利団体、「センター・フォー・レスポンシブル・トラベル(CREST)」のコミュニケーション・ディレクター、アリックス・コリンズ氏と、パデュー大学ホスピタリティ・観光経営大学院の准教授、ジョナソン・デイ氏の2人の専門家に聞いてみた。
いま求められるのは「再生可能な旅」
使い捨てプラスチックの使用をやめることは、もちろん重要なこと。ただ、本当にサステナブルな経営をしているホテルはそれだけではなく、周辺の環境を含めたすべてに配慮した「観光エコシステム」にのっとって、施設を運営しているという。
コリンズ氏は、「本当にサステナブルなホテルは、自らのカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)を削減するだけでなく、地元コミュニティの文化と経済的なウェルビーイング(健全性)の保護や促進にも力を入れています」と指摘する。
実際に専門家たちの多くは、サステナブルな旅行に対するこうした幅広いアプローチを、「リジェネラティブ・トラベル(再生可能な旅)」と呼び始めている。その土地の環境に害をおよぼさないだけでなく、ゲストが滞在することによって、環境により良い変化を起こせる旅を目指すようになっているそう。
「持続可能」なホテルの探し方は─?
どの施設がそうした滞在を提供しているのか、数多くのホテルのウェブサイトから見極めるのは至難の業。そんなときは、サステナブルなホテルをまとめて紹介しているプラットフォームを利用してみるのがよさそう。
例えば、宿泊施設のオンライン予約サービス「ブッキングドットコム(Booking.com)」なら、サステナブルな滞在を提供している施設であることを示す“サステナブル・バッジ(Sustainable badge)”を表示。コリンズ氏によれば、ほかにも「カインド・トラベラー(KindTraveler)」「レスポンシブル・トラベル(Responsible Travel)」「タブレット・ホテルズ(Tablet Hotels)」などのウェブサイトが「サステナブルな旅行のための情報」を提供しているとのこと。
US版『コスモポリタン』がおすすめするのは、以下の11のリゾート&ホテル。サステナブルな旅行を検討している人は、ぜひチェックしてみて。
1. ブアハン バンヤン ツリー エスケープ
📍バリ/インドネシア
環境に配慮した旅行といえば、インドネシアのバリ。なかでも2022年6月にオープンしたバンヤン ツリー系列で最も新しい、16棟のヴィラからなるブアハン バンヤン ツリー エスケープは、ゲストに完璧な体験、“現実とは思えない”滞在を提供してくれる。
「壁もドアもない」というコンセプトに基づくこのホテルでは、まさにその言葉どおり、ジャングルの中の自然に“没入”する「イマーシブな体験」ができる。
サステナビリティに関する取り組みで世界的に高く評価されている同ホテルブランドは、インドネシア出身の建築家ゲデ・クレスナ氏とそのチームに依頼し、この土地と地元の人々に最大の敬意を払ったリゾート開発を行うために、周辺地域におよぼす文化的・物理的な影響に関する調査を4カ月かけて行ったという。
ジャムウ(バリの伝統的な生薬)の作り方を学べるクラスや、「トリ・ヒタ・カラナ(人間と神と自然の三者の調和が幸せをもたらす)の哲学」を体現するツアー、地元の農家を訪れて農地を見学したり、伝統的な家庭料理を楽しむツアーなど、バリの文化をたたえる数々のアクティビティも提供している。
2. ザ ルースター
📍アンティパロス島/ギリシャ
ギリシャの島のなかでは、どちらかといえば知名度が低いアンティパロス島にあるブティックホテル、ザ ルースター。ビーチクラブで夜どおし踊るような滞在は期待できないが、それこそがこのリゾートの素晴らしいポイント。
面積およそ30エーカー(約12万平方メートル)にもおよぶ丘の上に立ち、周囲は遺跡や岩、砂丘に囲まれているため、静かに落ち着いて過ごせる同ホテルはまさに、スローライフと“チル旅”のためのリゾート。目の前にエーゲ海が輝き、リラックスして、自然とのつながりを取り戻すことができる。
島の伝統をたたえ、何世紀も前からそこにあるものを“侵害しない”ことを目指すこのリゾートは、17棟あるゲスト用ヴィラの建材を地元で調達。自然の環境に溶け込む素朴な素材を使用している。
また、施設内の“持続可能な”有機農園「ボスターニ(Bostani)」では、ゲストが自ら選んだ野菜やハーブを使った料理をシェフと一緒に考え、調理してもらえる。それもまた、この土地とのつながりを感じられる体験となるだろう。
スパ「ハウス オブ ヒーリング(House of Healing)」では、古代のギリシャの文化をたたえると同時に、この地域からインスピレーションを得た数々のトリートメントを受けることも可能。
3. アワー ハビタス サン ミゲル
📍サン・ミゲル・デ・アジェンデ/メキシコ
2022年12月にオープンしたサン ミゲルは、客室の装飾にも館内のレストランで提供する食事にも、地元の人々の力を活用している。
メキシコのほかアメリカ、ナミビア、モロッコなどに9つの美しいブティックホテルを運営しているこの「ハビタス」ブランドは、すべての施設において、環境におよぼす影響を最小限にとどめ、周辺地域のコミュニティにプラスの影響を与えるように設計・運営がされている。
なかでも最も注目すべき取り組みは、世界的なインパクトをもたらすことを目指す「ハビタス・ライズ(Habitas RISE)」。施設がある地域に住む人たちのために、雇用の機会を創出するなどしている。
また、ゲストがひとり滞在するごとに、10ドル(約1500円)をこのハビタス・ライズの基金に寄付しているほか、2030年までの実現を目指す国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献することも、ウェブサイト上で約束している。
4. ロックハウス ホテル&スパ + スカイラーク ネグリル ビーチ リゾート
📍ネグリル/ジャマイカ
カリブ海での滞在に最適なブティックホテルのひとつとして、必ずといっていいほどその名が挙がるロックハウス ホテルとスカイラーク ネグリル ビーチ リゾートは、シャトルバスで往復することもできる姉妹施設。
どちらもジャマイカの西側に位置するゴージャスなビーチタウンのネグリルにあり、海からのさわやかな風が吹き込む客室と、透明な水が輝くカリブ海の壮大な景色が備わっている。
サステナビリティの推進に向けた活動の一環として、ロックハウスは2003年、非営利団体のロックハウス基金を創設し、ネグリルの子どもたちの教育を支援している。2軒のホテルと、それぞれのメインレストランの収益は、3分の1がこの基金に移管されており、この地域にある6カ所の学校とネグリル公共図書館は、寄付によって大きく様変わりしたという。
また、ロックハウスには有機農場があるほか、水耕栽培の農場も稼働させたばかり。サステナブルなツーリズムの重要性を広く知ってもらうことを目的に、これらの農場を見学するツアーも行っている。
5. ホテル ナンティパ
📍サンタ・テレサ/コスタリカ
コスタリカは、持続可能なホスピタリティを提供する世界におけるリーダー的存在。国内の機関が、サステナブルな旅行を推進する施設を評価するCST認証制度を開発したほど。客室数21のこのブティックホテルは、2023年2月に最高レベルの認証(エリートレベル)を取得している。
サステナビリティに関する具体的な取り組みは、ホテルのウェブサイトに掲載されているとおり。地元の人材を優先的に採用しているほか、施設の設計に関連して調達したものも含め、可能な限り中小規模の企業から購入するなどしている。
例えば、ホテルの建設に関連して伐採した樹木は、わずか6本。それらはすべて、施設内の家具を作るために使用されているという。
6. ル バルテルミー ホテル&スパ
📍グラン・キュル・ド・サック/サン・バルテルミー島(セント・バーツ島)
このホテルは、カリブ海で最も人気のあるシックなリゾートのひとつ。サステナビリティを保つための取り組みにも、特に力を入れている。
風通しの良いオープンエアのレイアウトは、自然光と太陽エネルギーを利用することにより、エネルギーの消費量を抑制できるように考えられている。また、建設にはすべてオーガニックや環境にやさしい素材(地元で採れる石材や木材など)を使用している。
環境保護に関連して特に力を入れているのは、地元当局との提携によって推進しているサンゴ礁の修復プログラム。現在は、訪れるゲストたちの関心を高めるため、ガイド付きのスキューバダイビングやシュノーケリングの体験プログラムも提供している。また、施設で採用しているスタッフを対象に、環境保護について学んでもらうための研修も行っている。
7. シックス センシズ イビサ
📍イビサ島/スペイン
イビサは、典型的なパーティスポットとして知られる島。しかしここ数年は、ウェルネス重視の滞在を促す傾向もみられている。そのことを示す良い例といえるのが、2022年にオープンしたばかりの客室数137のこのリゾート。
バレアレス諸島にある施設として初めて、イギリスの建築研究財団が開発した環境評価基準に基づくBREEAM認証を取得したほか、島の環境の保全と再生を目指す非営利団体、イビサ・プリザベーション基金との協力を推進している。また、ゲスト向けには、施設内にあるオーガニック農園の見学とコンポスト(たい肥)作りのワークショップといったプログラムも提供。
「シックス センシズ」のブランド全体としては、より大規模な取り組みを実施している。シックス センシズ・サステナビリティ基金を通じて、売上高の一部(ブランド全体の0.5%、生産・販売する飲料水の50%、ぬいぐるみの100%)を、野生生物の生息環境の回復と、施設周辺コミュニティの生活の質を向上させるために寄付しており、幅広い取り組みを実施。
8. ナヤラ ボカス デル トロ
📍イスラ・フランジパニ/パナマ
カリブ海のプライベート・アイランドにあるオールインクルーシブのこのエコ・リゾートは、水上ヴィラかツリーハウスへの滞在のどちらかを選ぶことができる。
16棟あるヴィラは、電力の大半を太陽光に頼るオフグリッド(送電線網を利用しない)設計。一部のツリーハウスは、バリの「バンブーハウス」などで知られる建築デザイナー、エローラ・ハーディ氏が手掛けており、再生木材を使用しているほか、太陽光で電力を賄うようになっている。
サステナビリティを重視する同ホテルは、このリゾートの建設を前に、マングローブやサンゴ礁への影響害をおよぼさないことを確認するために5件の調査を行い、その結果を踏まえて、オフグリッドの水上ヴィラを採用することに決めたそう。
その他にも、食料品はすべて地元の農家や企業から購入したり、施設で使用する水は100%雨水から採取、さらにスタッフは地元の出身者を採用するなどの取り組みも行っている。
9. ティエラ パタゴニア
📍トーレス・デル・パイネ/チリ
すでに、サステナビリティの代名詞になっていると言ってもいいパタゴニア。なかでもトーレス・デル・パイネ国立公園にあるこのホテルは、正真正銘の「エコ」な宿泊施設。
スペイン語で「地球」を意味する「ティエラ」をその名に冠したこのチリのホテルブランドが目指すのは、地元の環境と野生生物の保護。パタゴニアとアタカマ砂漠、チロエ島に1カ所ずつある同社のブティックホテルはすべて、周辺地域に害をおよぼさないことを考慮して建設されている。
施設は日光の差し込み方を考慮した設計により、夏はエアコンなしで過ごせて、冬も暖房をほとんど使わずに滞在できるようになっているそう。
10. 1ホテル ブルックリン ブリッジ
📍ブルックリン/アメリカ
NYで環境にやさしい滞在を検討しているなら、おすすめはブルックリン・ブリッジ・パーク内に建つこのホテル。「1ホテル」のブランドは、人と環境に配慮した「グリーンビルディング」であることを認める国際的な認証制度「LEED認証」を取得しているほか、2018年以降、100%カーボンニュートラルな運営を実現している。
ウォーターフロントに建つ客室数195のこのホテルは、ロビーに地元農家の直売所を設けたり、ゲストが公園内の清掃や植樹を手伝うボランティア・プログラムを提供したりしている。
また、月に一度行われる「ダークスカイ・イブニング」では、照明を落としてキャンドルを灯し、特製カクテルを提供することで、エネルギーを節約すると同時に、ゲストが心からリラックスできる時間を設けている。
11. ウーシュー カーサ ホテル&スパ
📍トランコーゾ/ブラジル
バイーア州にあるこのホテルは、ファッションブランド「ディーゼル」の元クリエイティブ・ディレクター、オランダ生まれのウィルバート・ダス氏とトランコーゾの地元コミュニティの協力によって誕生した。敷地内には、ゲストハウスの「カーサ」が立ち並んでいる。
地元の遺産の保護と保存を目的として、施設の建設には再生材料と、アンティークの家具などを使用。施設内のスパもまた、サステナビリティを重視し、地元の伝統的な民間療法に基づいたメニューを提供している。
そのほか、地元コミュニティを支援するプログラムを提供していることも、このホテルの特徴。子どもたちが格闘護身術のカポエイラを学べるクラスを開催しているほか、周辺の生態系を保護するため、網や釣りざおを使用しない伝統的な漁法を続ける地元の漁師たちを財政面で支援している。
From COSMOPOLITAN US