セクシャルウェルネスアイテム「nopole ZERO(ノーポール ゼロ)」は、FTM(FTM:Female to Male。出生時に割り当てられた性が「女性」であるものの、「男性」として生きることを望むトランスジェンダー)のセックスに関する悩みを解消するプロダクト。

これまでなかったコンセプトに注目が集まり、クラウドファンディングでは目標金額の700万円を超える約870万円の支援が集まりました。

そこで今回コスモポリタンは、同製品の開発元である合同会社nopoleの代表・モリタジュンタロウさんにインタビュー。製品開発の理由や苦労、込めた思いについて聞きました。

お話:モリタジュンタロウさん

 
モリタジュンタロウ / Cosmopolitan
トランスジェンダーである「FTM」の人が抱えるセックスに関する身体的な悩みを解消するために立ち上げられた、セクシャルウェルネスブランド「nopole」の代表。FTM当事者として、SNSや7.5万人の登録者をもつYouTubeチャンネル「モリタジュンタロウのビログ」を通じ、精力的に発信活動を行う。

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“セックス=挿入”の固定概念に苦しんだ実体験から、製作を決意

僕は出生時に割り当てられた性が女性で男性器をもたない体で生まれましたが、様々な治療や手術を行い、今は男性として生活しています。

しかし、パートナーとの性行為においては、挿入行為ができないために多くの課題を感じてきました。「パートナーがセックスに満足しているのか」と幾度となく不安に感じたし、常に自信がない状態でした。

特に10代の頃は自分の身体を見せることに抵抗を感じ、相手の前で洋服を脱ぐことさえできなかった。

男性として見られたいからこそ相手に体を見せたくなく、一方通行のセックスで終わり。そこに満足感や幸福感はなく、セックスの後には「自分は一生大好きな人と最後まですることができない」という虚しさが襲ってくるだけでした。

そんな経験をしながら20代になり、漠然と「いつかFTM向けのセクシャルウェルネス製品を作りたい」という思うように。そして、2020年の冬に一念発起。

幸いなことに同じ悩みを抱える当事者50名が僕のもとに集ってくれて、性生活においてカップルが挿入なしでも幸福を感じられるツールとしての“挿入しないトイ”の製作をスタートしました。

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「挿入しないセックス」を提案する、新しい存在

FTM当事者を対象に独自にアンケートを行ったところ、「自分の体がコンプレックスで服を脱げない」「挿入できないのでどうしたらいいか分からない」「パートナーと同時に気持ち良くなれない」などの悩みを抱えていることがわかりました。

僕の場合は、挿入を伴わないセックスをするときにパートナーを両手で抱きしめることができないというのも大きな悩みの一つでした。プロジェクトを開始した当初、多く寄せられたのも「“挿入できるアイテム”を開発してほしい」という声でした。

しかし、“セックス=挿入”という思い込みに長年苦しんだ僕だからこそ作れるものがあると思い、あえて「挿入せずにお互いが気持ち良くなれるもの」を考案したんです。

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nopole

「nopole ZERO」を簡単に説明すると、二人が一つの振動を共有できる直径約10cmの球体型ローター。初めて手にとった人には、想像よりも大きいと驚く人も。

 
nopole

使い方は至ってシンプル。同じ一つの振動を二人が共有することで、どちらか一方だけでなく二人が一緒に気持ち良さを感じることができるんです。

服を着たままでも使用可能で様々な体位を楽しめるというのもポイント。手を使わなくていいので、相手の目を見て抱きしめ合うこともできます。

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股下に入れ込むように使うことで、密着感が増して二人の間にできる隙間が最小限に。さらに、表面が柔らかいシリコンで覆われているから、擦りつけたり押し込んだり、動きを色々と変えることで違う刺激を楽しむことも可能。

「nopole ZERO」はFTMだけに向けたものではなく、 レズビアンやFTXなど挿入しない二人であれば誰でも使っていただけるアイテムです。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

性のプロダクトというだけで門前払いの日々

いざセクシャルウェルネス製品を作ろうとプロジェクトが動き始めても、お金も知識もノウハウもなかった僕たちの前には、何度も困難が立ちはだかりました。

デザインやイラストを外注しようとしても、「アダルトグッズ」というレッテルや「卑猥だから」という理由で断られてしまうことも日常茶飯事。なので、デザインやWebサイトの設計、イラストの作成までも自分たちで知恵を出し合って、一から制作することに。

性に関するFTM向けのアイテムということで、工場からもなかなか理解と賛同を得られず、門前払いや邪険に扱われることも多々。そもそも、制作資金をクラウドファンディングで賄うという僕たちに力を貸してくれる工場はありませんでした。それでも思いを伝え続けたところ、国内のアダルトグッズメーカーさんとご縁があり、製造でご協力いただけることに。

しかし、最大の困難はその後のクラウドファンディングでした。国内のクラウドファンディングサイトには、性に関する案件は原則取り扱わないという規定があるんですよね。そのため、僕たちは海外のサイトで調達を行おうとしたのですが、開始目前で頓挫してしまって。

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nopole

そんなときにMOTION GALLERYさんからお声掛けいただいたおかげで、なんとか漕ぎ着けることができたという経緯があったんです。資金調達期間中は「目標金額を達成できなければ、今まで関わってくれた全ての人の思いと労力が無駄になるかもしれない」という緊張感で、毎日心が張り詰めていました。

結果としては、有難いことに目標を遥かに上回る支援を集めることができて。その瞬間はとにかく安心して、号泣しました。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

同時に、ようやく「nopole」の製品化をリアルに感じ、喜びとその先への期待が入り混じった感情でした。改めて振り返ると、このプロジェクトは多くの方の協力とご縁で成り立っているなと感じますね。

nopoleが思い描く、これからの未来

「nopole ZERO」製作のプロジェクトを通じて、日本におけるセクシャルウェルネスの分野にはまだまだ想像以上に大きな壁があるという現実を知りました。しかしその一方で、思いを共有する仲間がいればどんな困難も乗り越えられるということも、この1年半で幾度となく経験してきて。

こうして待望のアイテムリリースまであと一歩のところまで来ることができたのは、協力していただいた企業さんやアイテムを待ってくれているお客さん、当事者ではなくても誰かへのプレゼントとして商品を購入してくれた方など、多くの人の応援と協力のおかげです。

「nopole ZERO」が性に関する弊害を解消して、行為や性そのものをパートナーへ愛を伝える手段、そしてもっと自分自身を愛せる手段に変えるためのきっかけになればいいなと思っています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

これから、より多くのFTM当事者がパートナーと二人で快楽を追求することの喜び、そしてその先にあるセルフラブやメンタルヘルスの向上を感じられるように深く関わり注力していきたいです。これからの時代、形にこだわったセックスよりも相手との心のつながりが重視されることを願っています。

僕たちにとって、クラウドファンディングの達成は成功への一つのステップのようなもの。「あらゆる愛のキッカケをつくり、全ての人が自分自身やパートナーを愛せる社会」を実現することこそが最終的なゴールです。

今後も新たなプロダクトやサービスの展開を考えています。ぜひ、大きな興味関心を持っていただけると嬉しいです。