キャリアも家庭も、すべてを手に入れる──女性にとって、それはまさに、解決困難な大問題。女性たちが何百年も前から悩み、議論してきたこの問題は現在でも、そして女子テニスの元世界ランキング1位、セリーナ・ウィリアムズのような“スーパースター”のアスリートにとっても、避けることができないものとみられる。

プロとして数えきれないほどの勝利を収めてきたセリーナは、引退の意向を明らかにするとともに、驚くほど率直に、その決断の理由について明らかにした。それは、簡単に言ってしまえば、家族を増やし、自ら立ち上げた投資会社「セリーナ・ヴェンチャーズ」により集中すること。

とはいえ、そうした理由について語った『ヴォーグ』誌のインタビューのなかでセリーナは、テニスから離れることを決断するのは、簡単ではなかったと話している。

「テニスと家庭のどちらかを選びたいなど、考えたこともなかった」「公平ではないと思う。私が男だったら、妻が子どもを産もうとしている間にも試合に出て、きっと勝っていた」

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セリーナは自身の年齢や妊娠、産後の経験がテニスにどう影響してきたか、4歳になった娘のオリンピアちゃんがどれほど妹や弟を欲しがっているか、といったことについても、包み隠さず語っている。さまざまなことが、(少なくともプロとしては)永久に、テニスラケットを手放すことを決意をさせたという。

ただ、引退についての複雑な気持ちを明かした(そして“犠牲”についても述べた)セリーナによれば、完全にその準備ができているわけではないとのこと。

一時的であれ、無期限であれ、家庭を築くためにキャリアを中断することを歓迎する女性たちがいる一方、自分にとって大切な2つのことのうち、どちらか1つを選択することを迫られた、と考える女性たちもいる。何かを犠牲にして別の何かを選ぶことに、いくらかの後悔が伴うことは避けられない。

そのほかセリーナは、「引退を心待ちにする人も多いことはわかっているし、自分もそう感じられたらよかった」としながら、次のように心情を吐露している。

「…私にとって、これはまったく楽しい話ではありません。想像しうることのなかで、最も難しいこと。(テニス選手としてのキャリアを)終わらせたくはないのです。この岐路に立たされていること自体が辛いのですが、同時に、次のステージへの準備もできているのです」

セリーナはまた、自身が子どもの頃からかなりの完璧主義者であることにも触れている(アルファベットを覚えようとしていた当時、何時間もかけたのに正しく書くことができず、泣いたことがあるそう)。

そんなセリーナにとって、愛するテニスのプロとしてのキャリアにピリオドを打ち、多くの女性たちが共感するであろう“厳しい現実(=仕事と家庭に関する目標を同時に達成することは不可能な場合もある)”を認めるのは、本当に辛いことだったはず。

セリーナ・ウィリアムズ 引退 オリンピア 娘 育児 両立
Axelle/Bauer-Griffin//Getty Images
映画のプレミアに登場したセリーナと娘のオリンピアちゃん、夫のアレクシス・オハニアン。2021年撮影。

誰でも「十分な努力さえすれば、自分はあらゆる分野で素晴らしい結果を残せる」と思いたいもの。ただ、それはほとんどの場合至難の業。母親としても上司としても、友人や妻、娘としても、あるいは副業においても、すべてにおいて同時に満点を取ることは実に難しい。

優先すべきものは毎週、または毎日、柔軟に変化させていかなければならない。それは、豪邸にトロフィーを飾るためのキャビネットを置いている(セリーナのような)人であろうとそうではなかろうと、同じこと。

いまのこの時代、「そのときが来た」とツイートするだけで済ませたり、何か表面的な形で引退を発表することもできたはず。けれどもそうせずに、率直な心情を打ち明けたセリーナは、テニス以外の分野においても、まさにチャンピオンであるといえる。

セリーナは、特にキャリアを積むなかでの子育てやパートナーなどとの関係、個人として情熱を傾けるもの、そして人生を素晴らしいものにするその他すべてのものに関わる重要な問題、ジェンダー・ポリティクス(性差に基づく政治)についての文化的な対話をリードしてくれている。そのことにおいて、セリーナには感謝すべきかもしれない。

From COSMOPOLITAN UK