ロンドン在住のジョイ・エジャリアさんは、ライターであり二人の娘の母親でもある黒人女性。彼女は、自身が持つ黒人特有のカーリーヘアに自信が持てず、幼い頃からストレートヘアへの憧れを持っていたそう。けれど彼女は、黒人特有の髪の毛の魅力を探求し、今では自然な自分の髪の毛を受け入れ、娘たちに自分の髪の毛を愛するように伝えられるまでになったとのこと。

そこで今回は、彼女が娘たちに「アフロヘアの美しさ」を伝えられるようになるまでのストーリーをお届け。

語り:ジョイ・エジャリアさん

黒人特有の髪に対するイメージ

「ナッピー(縮れ毛)」や「たくましい」などの言葉は、アフロヘアの髪質を説明するためによく使われる言葉のほんの一部。私はアフロヘアの人々が、これらの単語を使われることに複雑さを感じていることに気づいていました。科学的には、アフロヘアは最も柔らかく繊細な髪質であるため、アフロヘアがタフであるという仮定は正しくありません。

黒人女性にとって日々のヘアケアはとても重要ですが、一方で、美容業界にあふれる「黒人特有の髪質には欠陥がある」という考え方は、西洋的な美の価値観から由来するもの。アフロヘア用のシャンプーやコンディショナーのパッケージには、「扱いにくい」や「ダメージ」といった言葉がよく使われており、アフロヘアの人々はこの種の考え方に慣れてきました。

「美しさには痛みが伴う」と思っていた

私が自分のアフロヘアを意識しはじめたのは、10歳の頃。小学校の校庭で遊んでいたときに、クラスメイトが私の髪の毛について「スポンジのような質感」だとか、「髪の毛のスタイリングが難しそう」などと指摘してきたんです。

私のような多くの黒人女性にとって、こういった経験が「私たちが周りの人々と違う」と感じさせられる最初のキッカケとなることは少なくありません。私の友人も同じ経験をしていますし、最近では私の子どもたちも経験しました。それは悲しくて辛くて、本当にショッキングなことです。

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大人の黒人女性にとって、土曜日はヘアサロンで過ごすのが一般的です。年上の女性たちの話を聞きながら、縮毛矯正やブレイズヘアを編んでもらいます。

私は、初めて髪の毛を縮毛矯正したときのことを今でも鮮明に覚えています。 当時私は5歳で、クリスマス間近の時期でした。私に “素敵な” 髪の毛を望んでいた母が、ヘアサロンに連れて行ってくれたんです。私がその日をはっきりと覚えている理由の1つは、縮毛矯正で感じた痛みが忘れられなかったから。

このような過酷な日常を幼い頃から経験してきたので、私は他の黒人の女の子と同じように、「美しさには痛みが伴うもの」という考えに慣れていきました。私は 6〜8週間ごとにサロンに行き、西洋美の理想を満たすために「髪の毛をまっすぐにする」という耐え難い試練を経験しました。

大学に入学する頃には、自分の髪の毛でどんなヘアスタイルができるのか確認するために、髪の毛のアレンジを試みました。けれど、上手く髪の毛を扱えないことにすぐにイライラし、結局何年もピクシーカットにする日々が続きました。

ストレートヘアだけが“いい髪”ではない

けれど、2000年代半ばから普及し始めたSNSのおかげで、アフロヘアを愛する黒人女性たちに出会うことができました。それによって、私を含め今まで自分の髪に自信が持てなかった黒人女性たちが「自然なアフロヘアを愛するべき」だと勇気付けられたのです。ハッシュタグを追うことで様々なアフロヘアの女性たちを見ることができ、そうしていくうちに髪に対する考え方が変わっていきました。

さらには、一人ひとりの髪質に合った製品も作られるようになりました。団結した黒人女性は、「ストレートヘアだけが “いい髪” である」という考えを捨て始めたんです。

私も過去を振り返ることなく、そのムーブメントに続きました。今まで散々ストレートにしてきた髪の毛をすべて切り落とした時に、とても解放的な気分になりました。ムーブメントが背中を押してくれたことで、私の髪の毛に秘められた可能性をやっと理解できたのです。当時はムーブメントの初期段階だったので、友人や家族は私が何らかの人生の危機に直面していると思ったほど、周りの人を驚かせることとなりました。

娘たちへの差別的な発言も

私とほとんど同じ髪質を持った娘たちは、かなり幼い頃から他人によって髪を比較されてきました。時には差別的な言葉をかけられ、「ひどい髪質」とまで言われたこともありました。

当初は、娘たちの心を傷つけたり、周りの人々との違いを感じさせないために、あえて髪質については娘たちと話さないようにしていました。けれど、娘たちが「自分の髪の毛が嫌い」と言ったり、セレブのようなゆるいカールに憧れはじめたときに、「あなたの髪の毛には個性があり、あなたが考えているよりも可能性を秘めている」ということを伝えることにしたんです。

私はまた、娘たちが自分の髪の毛に対してネガティブな考えを持たないように、長年にわたって私の髪の写真を見せてきました。そして時間と共に私が愛したように、彼女たちも自分の髪の毛を愛せるようになると信じています。

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イギリスでの差別の実態

作家であり学者でもあるエマ・ダビリ氏は、彼女の著書『Don’t Touch My Hair』でこのように述べました。

「黒人の髪は、決して単なる髪の毛ではありません。 特に黒人女性にとって、それははるかに複雑です」

私たち黒人は、私たちが行うすべてのことに対して過度に批判されます。特に髪の毛に関しては、とてもシビアです。黒人以外の女性が伝統的な黒人女性のヘアスタイルを真似ると、しばしば炎上するのはそのためです。たとえば、キム・カーダシアンがブレイズヘアを披露したときには、黒人文化を盗用していると非難されました。

そして2019年には、カリフォルニア州が「髪による差別を禁止する法律(クラウン法)」を導入した最初の州になり、それ以降ニューヨークをはじめとする他の州も導入しています。

一方で私たちの住むイギリスでは、黒人や混血の子どもたちにはチャンスがなく、多くの子どもたちが学校からの退学させられているのが実態です。髪の問題で警告の手紙を受け取ったり、子どもを学校から連れて帰らされた友人もいます。海を渡ってアメリカに住んでいる私たちの友人とは異なり、イギリスにはクラウン法のような法律はありません。代わりに髪にまつわる差別に関連する事件は、平等人権委員会(EHRC)の管轄と見なされます。

アフロヘアが校則違反?

イースト・ロンドンの学生であるルビー・ウィリアムズさん(18歳)は、彼女のアフロヘアが「校則に違反している」と学校側から指摘されました。けれど、その誤った考えに対し訴訟を起こした彼女は、結果的に学校側からの示談で8,500ユーロ(約100万円)の和解金を受け取ることに。

学校側はこの一件に関して責任を負わず、<BBC>の取材に対して次のように釈明しています。

「生徒やその家族が差別されたと感じたのであれば、非常に残念に思います。私たち学校は、個人またはグループに対して、無意識の差別さえもしたことがありません」

また、学術書『The Journal of Southern History』の「18世紀と19世紀の奴隷の髪の毛とアフリカ系アメリカ人の文化」にまつわる章では、作家のシェーン・ホワイト氏とグラハム・ホワイト氏が次のように述べています。

「アフリカ系アメリカ人が自分の髪の毛をスタイリングすることは、彼らにとってはとても重要なことであり、また彼らの共同生活において重要な役割を果たしていました」

そのため、黒人が自分のヘアスタイルを自由に選択することに対して、学校や組織が不当に罰することは、彼らのあるべき姿を奪うようなものです。また、<Women's Health Magazine>による取材では、臨床心理士のトリシア・ウォラニン博士が次のように語っています。

「髪の毛に対する差別が未だに存在している理由は、髪型は変えることができるため、それがアイデンティティではなく、個性を表現していると見なされているからです」

ありのままの自分を愛してほしい

お腹の中にいる赤ちゃんが女の子だと分かったとき、私たちは今後、様々な葛藤と闘わなければならないと覚悟を決めました。娘も昔の私と同じように、自分の自然な髪の毛を受け入れられなくなってしまうのではという恐れがあったからです。

なので私は娘たちに、どんなときも自分自身を愛するように教え、さらにいつでも私が見守っていることを伝えています。髪の毛に対する差別をなくすための取り組みが続く中、私は母親として娘たちに「自分以外の誰かになりたい」と感じさせないよう、ありのままの髪の毛を愛することを教え続けます。

※この翻訳は抄訳です。

Translation: ARISA ISHIMOTO

Good Housekeeping