今シーズンのビッグニュースといえば、オーバーサイズのトレンドが「スーパーサイズ」へと進化していることだ。バサッと羽織れる大きめの白シャツや、ボーイフレンドブレザーが10年近くスタイリッシュな女性たちの人気を集めてきたことを考えると、ファッションの振り子が逆方向に戻るときが来たと考えるのが妥当かもしれない。つまり、2000年頃に台頭した「ヘルムート ラング」の細身のスーツや、エディ・スリマン期の「サンローラン」のスキニーデニムが復活すると考えるのが自然だ。

しかし、だからといってチビTやスキニーデニムを引っ張り出してこようと考えているのなら、少し立ち止まってみてほしい。なぜなら、ファッション界全体が洋服をサイズアップさせる方針を打ち出しているからだ。

例えば、「バレンシアガ」の2023年秋冬コレクションは、「立ち入り禁止」の粘着テープを模したキャットスーツやライクラ生地のソックスブーツからいったん離れ、堂々としたビッグアウターや遊び心のあるシルエット、アンチフィットなテーラリングでブランド本来のDNAに立ち返った。クリエイティブディレクターのデムナ・ヴァザリアは、膝に届きそうなほどの丈と、モデルの手が見えないほど長い袖を採用したボーイフレンドブレザーを発表し、まったく新しい次元のアイテムに昇華させたのだ。

balenciaga runway fallwinter 2023 2024 paris fashion week
Victor Virgile//Getty Images
「バレンシアガ」2023-24年秋冬コレクション

しかし、オーバーサイズのニットやビッグショルダーを展開したのは、「バレンシアガ」だけではない。いつもはクリーンなラインとクラシカルなフレンチクチュールでおなじみの「ジバンシィ」でさえ、2024年春夏のショーではゆったりとしたピーコートや超ロングスカート、巨大なシルエットのジャケットで新鮮な驚きと喜びを与えてくれた。

givenchy runway springsummer 2024 paris fashion week
Victor Virgile//Getty Images
「ジバンシィ」2024年春夏コレクション

「フランキーショップ」はキャットウォークに留まらず、長年にわたってボリュームのあるアイテムのトレンドをリードしている。同ブランドが2021年に発売した巨大なワンサイズ展開のキルティングジャケット「Teddy」は瞬く間にヒットし、以来毎シーズン完売となっている。ワイドパンツよりもワイドな「Dillon」パンツも人気が高く、エミリー・ラタコウスキーやジジ・ハディッドなどのファッショニスタセレブも、このアイテムを愛用している。

最近では、メアリー=ケイト・オルセン&アシュレー・オルセン姉妹が率いる「ザ・ロウ」が開拓した領域を「レイ」が踏襲し、ひと味違った「クワイエット・ラグジュアリー」を展開。上質なメリノウールとエアリーなモヘアを使ったオーバーサイズのチャンキーニットや、美しいブークレ毛糸で作られたブランケットコートなどを発表している。

これらに続く形で、「ハッシュ」「コス」「アライン」「アーケット」といったブランドも上質なスーパーサイズのアイテムを展開しているため、財布の紐が固い人々にも、ますます身近なものになってきている。

instagramView full post on Instagram

では、オーバーサイズの何が私たちの心をこんなに惹きつけるのだろうか。ほとんどのブランドは、エフォートレスでありつつ全体がまとまって見えることに要因があると考えているようだ。

「フランキーショップ」の創業者ギャエル・ドレヴェは「オーバーサイズは心地よさと自信の両方を与えてくれるため、窮屈なシルエットに代わる開放感を与えてくれます」「つまり、これはトレンドではなく、姿勢(アティチュード)なのです」と語る。

「ハッシュ」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるメリッサ・ディックは、最近ブランドをオーバーサイズでゆったりとした世界観に導いてリニューアルさせた張本人。そんな彼女も、「オーバーサイズの装いは、ノンシャランな雰囲気を醸し出してくれます」と同意している。彼女はさらに、「私はオーバーサイズが醸し出すマスキュリンとフェミニンの中間の空気感が好きですし、タイトなドレスよりもずっとセクシーに見えるのではないかと思っています」と語っている。

emily ratajkowski oversized coat
Ignat/Bauer-Griffin//Getty Images
オーバーサイズのコートをまとったエミリー・ラタコウスキー

オーバーサイズのアイテムには、サステナビリティの要素があることも特筆すべきポイントだ。「リメイン」のクリエイティブ・ディレクター、マーティン・アスビヨルンは、「多くの人々は自分のクローゼットにすでにあるアイテムを組み合わせて、新たなスタイリングを見出そうとしています」「オーバーサイズのアイテムを使えば、独創的なレイヤードスタイルで遊んだり、ジェンダー規範に対抗したり、季節の制約から解き放たれた着こなしを生み出すことができます」と話す。これらはすべて、サーキュラー・ファッション・エコノミーの基礎になるものだ。

saint laurent runway paris fashion week womenswear fall winter 2023 2024
Marc Piasecki//Getty Images
「サンローラン」2023-24年秋冬コレクション

オーバーサイズのシルエットはしばらくの間トレンドになっているが、今シーズンはひねりを効かせたスタイリングに注目だ。インフルエンサーのサラ・ルイーズ・ブライスは、パーティウェアにダメージデニムを合わせたり、無地のTシャツにキラキラと輝くイヤリングを合わせたり、ハイ&ローMIXのコーデでフォロワーを増やしてきた。そんな彼女は今、オーバーサイズのブレザーを使ってあらゆる着こなしを披露している。

彼女にとってこれからの数カ月は、スタイリングにおいて「正解」とされているバランスときっぱり決別する期間になりそうだ。これまでは、オーバーサイズのシルエットにはぴったりとしたアイテムを組み合わせるのが鉄則だったが、サラはいま、「大きければ大きいほど、ぶかぶかであればあるほど美しい」という新たな信条を掲げている。

今シーズンのオーバーサイズのトレンドで、もうひとつ新たに注目すべきアイテムを挙げるとしたら、デニムだ。以前は、スマートな生地にリラックスした雰囲気を加えたオーバーサイズのテーラリングが多かったが、いまはさらにゆとりのあるデニムが台頭し、リラックススタイルの境界線を押し広げている。

loewe ready to wear spring 2024 runway
WWD//Getty Images
「ロエベ」2024年春夏コレクション

サラは、「ローライズのエクストラバギーデニムは、90年代のデニムルックを現代風にアレンジしたようなアイテムです」「これを着用すると一瞬でクールに見え、ワードローブの定番を蘇らせることができます。私のお気に入りは、バギーデニムにシャツとシンプルなバレエパンプスを組み合わせるスタイルです。また、オーバーサイズのTシャツとブレザーを合わせたり、ジップジャケットとスニーカーを合わせたりするのも好きです。どれもエフォートレスなスタイルですね」と語る。

今シーズンで最も重要なスタイリングのヒントに関しては、「アライン」と「ハッシュ」が明確に示している。「ハッシュ」のディックは、カジュアルなアイテムにおいても生地を重視していると語る。「『ハッシュ』では、オーバーサイズのデニムやスウェットの需要を実感していますが、リラックスしたシルエットでも高級感を出すことが大事なので、生地とディテールにこだわっています。着る人は、オーバーサイズのアイテムをモダンに見せたいのであって、だらしなく見せたいわけではありません」

gucci runway milan fashion week womenswear springsummer 2024
Estrop//Getty Images
「グッチ」2024年春夏コレクション

「アライン」のブランド・ディレクターであるジニー・シーモアは、もはやオーバーサイズのブレザーに何でも合わせてしまえばいいという時代は終わったと語る。彼女はより幅広く、より大きなシルエットのコーディネートに対する需要が高まっていることに気づいているそうで、「私たちのブランドの顧客の大半は、すでにコーディネートされたアイテムや、商品同士の相性を見たがっています」と語る。その例として、「キム・ピンストライプ・ロングライン・ウエストコート」と「ケイリー・ワイドレッグ・プリーテッド・トラウザーズ」、あるいは「ヒム・バレル・レッグ・トラウザーズ」と「ハリソン・ボクシー・ブレザー」の組み合わせを挙げている。

「私たちは、どのアイテム同士がマッチするかを考え、そのスタイリングを写真に収めることに多くの時間を費やしています」「なぜなら、特定のアイテム同士を組み合わせるとうまく機能するようにデザインされていることを知り、完成されたルックを見ることに顧客が価値を見出していると気づいたからです」と語っている。

つまり、自分のスタイルをスーパーサイズにアップデートすることは、かつてないほど簡単になっている。二の足を踏んでいる暇はなさそうだ。

From COSMOPOLITAN UK