男性同士の恋愛を描いた映画を鑑賞、BL 漫画漫画を読破したすえ、ゲイ専用のマッチングアプリ「Grinder 」を頼りに相手を探し、いよいよ実際に会うことになった筆者。"自分の性に適した相手は、実は男なのか?"そんな思いを抱えていたが、この出会いで遂に本当の答えが出る。

ただ、まだ自分自身でも半信半疑の状態だ。高校時代に心が揺れるような相手はいたが、実際に男に触れたことはまだ一度たりともないわけで…。出会う約束をした彼にも、「まだ自分のセクシャリティに自信がない。だから、コトに及ぶかわからない」と事前に告げてある。ただ、行く道すがら、今夜自分の身に巻き起こるかもしれないことを妄想してしまっていた。

(その時が来たら、近くのホテルに行くのだろうか? それとも彼の家か?)

(どんな風に始まるのだろう?)

(彼にキスを...前戯ではアレを咥える...?)

(するとしたら、自分はどちらに回るのか?)

長い坂道の続く、ネオンで輝く繁華街を一歩一歩踏みしめながら、彼の手、胸、うなじを思い浮かべる。女性とのデート前、幾度もしていたような妄想を彼に当てはめる。鼓動が早くなるのが自分でもよくわかる。心音が耳にこだまする。脳の奥がツーンと麻痺するような感覚に陥った。

待ち合わせ場所は、大通りから一本路地裏に入った、創作割烹料理屋。「落ち着いた場所でまずは話をしよう」という彼の提案に乗る形だったが…とうとう到着してしまった。

割烹らしからぬ、モダンなガラス張りの扉を開け、彼の名前を告げると、やや暗めの一番奥のカウンター席に案内された。そこには30代後半、スラッとした長身で仕立てのいいストライプのスーツに身を包んだ彼がいた。

「は、初めまして......」

挨拶をするや否や、無意識にさっきまで脳裏に浮かんでいた行為が強烈な鮮やかさで蘇る。その瞬間、これまで観た映画『ブロークバック・マウンテン』、BL漫画『風と木の詩』の主人公2人の出会いのシーンがフラッシュバックした。

短い沈黙の後、柔和な顔で微笑む彼と改めて挨拶をして、グラスを傾けながら、五島列島で獲れたという新鮮な魚貝の刺身を味わい、色々な話をした。彼は筆者と境遇が似ていた。比較的偏差値の高い男子校に通い、女性と付き合ってきたものの、違和感を拭い去れなかったのだという。

折り目正しい言葉使いと、センスの良い服、そして雰囲気のいいお店。初めての相手としては、これ以上ないほどなのだろう。…ただ、筆者は彼に会った瞬間に思ってしまった。

(ああ、自分はこの人とはデキない)

と。その衝動は、"適した性の相手は、実は男だったのか?"なんてボンヤリした違和感を吹き飛ばした。もはやそれは直感としか言いようのない。映画や漫画ではない、リアルな男性を性の対象として捉えることを、自分の体は拒否していた。

隣の席に座り、彼の体温を感じるほど近くにいて、手が触れる距離にいる。友人ならなんてことのないシチュエーションだが、性の対象と位置づけた途端、いい知れないモヤモヤが胸を支配した。彼が悪いわけでも、筆者が悪いわけでもない。ただ、"違う"ということなのだろう。

そんな筆者の雰囲気を感じ取ったのか、彼は何もせず、ただユーモアを交えた話をしてくれた。帰り際、握手をした時の彼の手の感触は忘れることができそうにない。

続く。

※第6回は5月31日リリース

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