2014年4月、テロ組織ボコ・ハラムによって、ナイジェリア・チボクにある寄宿学校から誘拐された267人の少女たち。そのうちの二人であるジョイ・ビシャラさんとリディア・ポーグさんは命がけで脱出し、その後に渡米。
現在までお互いをサポートし続け、今年大学院を卒業した二人が母国に対して抱いている想いとは――。
テロ組織から命がけの脱出
ボコ・ハラムが寄宿学校を襲撃し、銃口を突きつけて少女たちをトラックに乗せた夜、ポーグさんとビシャラさんは、暗闇の中を疾走する車から飛び降りて脱出。二人とも「テロリストに拘束されるよりは命をかけた方がいい」と判断したのです。飛び降りた後、彼女たちは深い藪の中を通り抜け、見知らぬ人の車に乗せてもらい、なんとかして家にたどり着きました。
ビシャラさんとポーグさんは、NPO「ジュビリー・キャンペーン」を含む人権擁護団体の援助により、2014年8月に渡米して学業を続けることに。「最初はカルチャーショックだらけだった」と話すビシャラさんですが、特に携帯電話やパソコンを持っている子どもたちの多さに驚いたそう。
また、アメリカとナイジェリアの教育格差も実感したのだとか。
「アメリカの学校はチボクの学校とずいぶん違います。先生たちは教育や、生徒の幸せ、個人的な生活に対してもしっかりとサポートしてくれます」(ビシャラさん)
「アメリカの学校での罰は、基本的に居残りや停学ですが、ナイジェリアではそんなものではありません。先生たちが生徒に暴力をふるうのが当たり前なんです」(ポーグさん)
言語の壁だけではなく、食事や冬の寒さなど生活するうえでさまざまなハードルがあったという二人。はじめはあまり食欲もなく、なれるまでに時間がかかったそう。そしてなにより彼女たちにとっての一番の困難は、家族と離れて暮らすこと。
母とは「親友のような関係だった」と、ビシャラさんは言います。
「ここへ来たとき、私の精神面はめちゃくちゃでした。ボコ・ハラムが家族を捕まえに行く悪夢を見たこともあります。今もまだそれが続くときもあり、トラウマから回復するのは難しいと感じています」
異国での生活を支えた、親友との絆
チボクではお互いをよく知らなかったというビシャラさんとポーグさんは、渡米後は常に支え合って親友に。ナイジェリアにいる親族と話しているうちに、実は二人が従姉妹であることもわかったそう。
「アメリカに来てからずっと、彼女がそばにいてくれました。自分たちが従姉妹だとわかってからは、さらに安心しました」(ビシャラさん)
「私をそばで支えてくれるので、ちょっと気が晴れます。“家族”と呼べる人が、ここにいるから」(ポーグさん)
二人は2017年に高校を卒業し、校長の推薦で奨学金を得て、サウス・イースタン大学に進学。ほかの学生ともコミュニケーションをとって語学力を上げるために、ルームメイトは解消したものの、毎日話したりメッセージを送ったり、国内旅行したりとお互いを高め合っていたと言います。
2021年に大学を卒業し、世界がパンデミックとなったときも、孤独を感じないようにサポートし続けたという二人。
「ジョイは並外れて正直で、気遣いができて、面白くて、私に対して寛容。彼女になら何でも話せるし、いつでも頼れる人なんです」(ビシャラさん)
「これからも常に支え合うことはまちがいないし、私たちの友情は一生ものです。それぞれどこで人生を終えようとね」(ポーグさん)
語られることのない、トラウマティックな経験
あれから8年が経ち、家族に会いに行くためにポーグさんは1回、ビシャラさんは4回ほど帰国。帰っても「誰もあの事件について話さない」と語り、今もなお行方不明になっている100人以上のクラスメイトのことを考えると胸が痛むそう。
ビシャラさんは、ルームメイトだったリフカトゥ・ギャランさんのことを次のように振り返ります。
「彼女は手術を受けた部位があり、痛みがあって泣いていました。すると、ボコ・ハラムのメンバーが彼女に『黙らなければその場で殺す』と言ったんです。そのことが今も頭に残っています。彼女は戻ってこなかった人たちの一人です。クラスメイトのみんながどうしているのか、どこにいるのか、誰が亡くなってしまったのかと考えると、とても悲しいです」
今の自分たちができること
このような悲劇を経験した二人は、母国の人々が虐待や不正から逃れる手助けをするために自分たちの知識を役立てたいと考えるように。
ポーグさんは福祉行政の修士号を取得し、現在は恵まれない子どもたちを支援するNPO「ワン・モア・チャイルド」で活動。また法科大学院の入試に向けて勉強中で「法を通じて人々に正義をもたらしたい」と言い、最終的には人権問題を専門とする法律事務所を開業するのが夢だと話します。
社会福祉の修士号を取ったビシャラさんは、現在ホスピスセンターで働いており、いずれはチボクの女性たちが虐待から自由になって、独立した生活ができるようになるための組織を立ち上げるのが目標。虐待的なパートナーから逃れられるようなシェルターづくりや、困っている人々に寄付ができるようなオンライン上の組織を考えているそう。
近年、ボコ・ハラムはある程度弱体化したと言われているものの、反乱軍が国に対してテロ行為を続けているのが現状。およそ6万6,000人が暮らすチボクは、今も襲撃を受けています。
※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
Oprah Daily