友人との飲み会や仕事終わりの一杯など、少量の飲酒は息抜きや気分の向上に繋がります。しかし、日常的に多量な飲酒をする場合はアルコール依存症につながる可能性があり、ニュースなどでも度々取り上げられています。
禁酒をするとどんな変化があるか、気になったことはありませんか? 日常的に飲酒をしていた人が一定期間禁酒した場合、それに合わせて食事の内容にも変化が現れたりすることで、減量をしたい人にとっては健康的なダイエット効果が期待できるのだとか。
ほかにも、栄養素が肌の健康に使われるようになったり、睡眠の質を妨げていた要因がなくなったり、メンタルヘルスの不調を防ぐなど、さまざまな影響があると言われています。この記事では、お食事のカウンセリングサロンcolanの代表を務める、管理栄養士の上坂マチコさんに聞いた、禁酒がもたらす変化や、無理なく禁酒できる方法やコツをご紹介!
【INDEX】
- 禁酒によるダイエットへの効果
- 禁酒による肌への効果
- 禁酒による睡眠の質への効果
- 禁酒によるメンタルヘルスへの効果
- 禁酒による効果を実感できるタイミング
- 禁酒を成功させる7つのコツ
- お酒の適量を知って、上手に付き合う!
【メリット①】禁酒によるダイエットの効果
普段からお酒を飲んでいる人は、お酒をやめるだけで体重が落ちやすいと上坂さんは言います。上坂さんご自身も、1か月の禁酒で2㎏のダイエットに成功した経験があるそう。
低糖質な蒸留酒もダイエット目線ならNG
昨今の低糖質ダイエットブームから、お酒を飲むなら低糖質のウイスキーや焼酎を選ぼうという流行がありました。しかし、最近の研究結果では蒸留酒であっても、ダイエット的には少量のアルコールでもよくないという見解が広がっています。
「ダイエットのためにはビールよりハイボールを」と言われることも多いと思いますが、糖質がない分カロリーが高いので、ダイエットの観点から見るとそれも誤り。長期的な減量を目指すのであれば、飲むお酒の種類を変更することでも節酒することでもなく、お酒を完全に飲まない日をつくり、アルコールの摂取量を減らすことが最大の効果を発揮します。
アルコール自体が、意外と高カロリーだと知っていましたか? 1gあたり、アルコールは7.1kcalで、脂質は9kcal。脂質をカットしたり制限したりするダイエット法もありますが、アルコールもそんな脂質に近いカロリーなのです。
主なお酒のカロリーと糖質
- ビール(淡色)…39kcal、糖質3.1g
- ウイスキー…234kcal、糖質0g
- 赤ワイン…68kcal、糖質1.0g
- 白ワイン…75kcal、糖質1.4g
- 焼酎(甲類)…203kcal、糖質0g
- 焼酎(乙類)…144kcal、糖質0g
- 日本酒(純米酒)…102kcal、糖質3.7g
※糖質は利用可能炭水化物
※100gあたり
禁酒することで食べ過ぎを防止
飲酒と食事は関連することが多いです。お酒を飲む際、ほとんどの人は食事やおつまみなどを口にしながら飲むはず。お酒が残っているからとおつまみを追加したり、食事が残っているからお酒を追加したり…。お酒と食事は対となっていることが多いですから、お酒が増えれば食べる量も増えてしまうことは必然です。
また、どんなにダイエットの意識を強く持っていても、お酒を飲んでいる状態ですと「まぁ、いいか」と食べ過ぎてしまうことも増えます。アルコールの効果で、自制心も薄くなりますから、自分で設けた「食べ過ぎない」という決心も忘れてしまいがち。
お酒を飲むと食欲も増進させます。特に食前のアルコール摂取は胃液の分泌を増やし食欲が増加してしまうため、飲み方にも注意が必要です。
肝臓、胃腸を休める休肝日で内臓の健康をサポート
アルコールは、大体1〜2時間で体内に吸収されると言われています。そしてその一部は胃、大部分は小腸で吸収され、肝臓で代謝されています。しかし、胃腸や肝臓はアルコールだけのために機能しているわけではありません。特に肝臓は体内に運ばれたほとんどの栄養素を代謝する役目があります。肝臓の働きがないとエネルギーも、健康的な肌も、丈夫な身体もつくれないのです。
肝臓は「アルコールの分解のための臓器」と思われがちですが、実はほかにもいろんな栄養素のために働いています。そのなかでも特に、代謝に負担がかかる物質がアルコールと言われています。
アルコールを2~3日続けて飲むと代謝をする肝臓に負担がかかり、胃腸の粘膜も荒れるなどのダメージがあります。しかし人間の体は1日アルコールを飲まないだけで、それらを修復しようと頑張ってくれるのです。
ですから、2~3日アルコールが続いたら1日でもお酒をやめると、胃腸や肝臓の状態を回復させることができるのです。良い身体状態を維持するためには連続した飲酒は避けるべきですが、お酒を日常的に飲む人にはそれがなかなかできませんよね。そういったときには週に一回からでもいいので休肝日をつくるところから始めてみてください。アルコールを摂取しない1日はかなり重要です!
γ-GTPの数値を下げるならまず禁酒!
肝臓内でタンパク質を分解する役割の酵素の一種がγ-GTP(ガンマ-GPT)です。肝細胞に障害があったり、胆汁の流れが悪くなっていると高い数値になります。特にアルコール摂取で血中濃度が高まるため、肝障害の原因がアルコールかどうかを判断する材料ともされています。
数値を下げるための禁酒期間はその人の状態によっても変わります。ですが、γ-GTPはアルコールに敏感に反応をするため、肝障害がなくてもアルコールを飲む人は数値が高くなりやすいのです。一定期間の禁酒は、数値を下げるためには効果的だと言えます。
飲酒による病気のリスクを禁酒で予防
お酒にはさまざまな病気のリスクが潜んでいます。例えば中性脂肪が肝臓に多くたまってしまう脂肪肝。これが進行すると脂肪肝炎などを引き起こし、肝硬変などの原因になってしまいます。
また、痛風で知られる高尿酸血症のリスクも高まります。よく「痛風の予防にビールを控える」なんて話を聞きますが、痛風を患いたくなければお酒は控えましょう。アルコールはいずれも、尿酸を尿とともに排出する働きを抑制してしまいます。
そのほかにも、アルコールを代謝するために、体内ではさまざまな栄養素が使われ、内臓などに負担をかけてしまいます。これにより、本来健康な体をつくるための栄養素が体に行き渡らなくなってしまうのです。
【メリット②】禁酒による肌への効果
上坂さん曰く、禁酒で肌の状態に変化が見られる理由は、アルコールのために使われていた栄養素がきちんと肌へ届けられるようになることが大きいそう。
アルコール分解のための栄養素を肌へ
禁酒を行うことで肝臓の代謝機能が上がり、健康的な肌作りにつながります。アルコールを代謝するためには、多くのビタミン類が使われています。お酒を控えることでそのビタミン類が、きちんと肌などへ届くようになるのです。
ほかにも、免疫力を助けたり皮膚を丈夫にするミネラルの亜鉛も、アルコールの分解のために消費されてしまいやすい栄養素。お酒を飲んでいると不足しがちになりますが、禁酒をすると肌やそのほかの部位へとしっかりと使われるので肌が整うようになります。
【メリット③】禁酒により睡眠の質への効果
お酒を飲むとよく眠れると感じた経験はありませんか? アルコールは眠りに深く関係している、自律神経にも影響を与えます。どういった影響があるのか上坂さんがお話してくれました。
お酒を飲むと“一時的に”寝つきはよくなる
お酒を飲んでいるときに眠くなった経験がある人は多いと思います。睡眠の仕組みとして、自律神経の中の副交感神経が優位な状態になっているときに、人は眠りにつきます。そしてアルコールは一時的に副交感神経を優位な状態にする働きがあるため、お酒を飲んでいると眠くなることがあるのです。
でも、この状態は長くは続きません。お酒を飲んだことで、眠っている状態でも肝臓がアルコールの分解のために働いてしまいます。そのため、時間が経つと自律神経で活動的な働きをする交感神経が優位となってしまい、浅い眠りになってしまうのです。
眠りが浅くなるために、途中で目が覚めることも多いでしょう。泥酔は気絶のようなものですから、すっきりもしないんです。
【メリット④】禁酒によるメンタルヘルスへの効果
アルコールは判断能力を低下させるなど、思考にも大きく影響を与えます。それだけではなく、お酒を飲むことが常態化して生活習慣が乱れてしまっては、ヘルシーな精神状態からは遠ざかってしまうケースも。メンタルヘルスとの関連性を解説します。
スッキリと朝起きられる
悩みがあるときにお酒の力を借りて眠りにつく人もいるかもしれません。ですが、前述のとおり、アルコールは睡眠の質を下げます。禁酒をすることで内臓や脳への負担が減り、睡眠時にしっかりと疲労回復ができるため朝の体が軽く感じられるはずです。
朝、気持ちよく起きられることで体内リズムを整える第一歩を踏み出せます。体内リズムが整うと自律神経のリズムも整うため、精神的な安定も目指せます。
思考が安定する
アルコールは、神経伝達物質に関わる栄養素を消耗したり、ビタミン類の吸収の抑制もしてしまいます。アルコールを控えることで、脳に必要な栄養素も届くため、健康的な思考を保つことができるのです。
記憶力の低下が依存につながることも…
脳の神経伝達物質への影響として、アルコールは記憶力を下げる特性ももち合わせています。このことから、嫌なことがあったり、ストレスを強く感じたりすると、お酒に逃げる傾向が多く見られるのです。
アルコール依存気味の人は、ビタミンB1が不足しがちな傾向にあります。これは、アルコールを分解するためにビタミンB1が使われてしまうためです。
ビタミンB1は糖質をエネルギーに変えるときに必要な栄養素で、疲労回復や脳と神経を正常に保つ働きがあります。不足してしまうと倦怠感やイライラの原因になり、心身の健康に影響を与えます。
アルコール依存チェック
以下のような傾向がある人は、アルコールに依存しやすいタイプかもしれません。アルコールは習慣化しやすいので、まずはお酒を飲まない日をつくって、お酒から離れることを意識して。
- 毎日飲んでいる
- ストレス解消がお酒になっている
- 眠れないからとお酒を飲む
- 家でだらだらと飲む
- 深酒を止めてくれる人が身近にいない
禁酒による効果を実感できるタイミング
禁酒の効果は普段のお酒の量などによっても変わるので、個人差があると上坂さんは言います。それでも、一日でもお酒を控えることで、何かしらかの心身への影響を感じられるはずだとのこと。その変化に気づけると、もっと気楽に禁酒に取り組めるそう。
禁酒の効果は早ければ翌朝から
夜に飲酒をすることで、寝ている間に肝臓はフル稼働でアルコールを分解しています。それが禁酒をすると肝臓はゆっくり休め、他の体もケアすることができます。一晩、アルコールの分解がないだけで体への負担は軽減されます。早い人は禁酒をした翌朝から目覚めの良さ、睡眠の質の向上を味わえるはず。
1週間の禁酒による効果
この頃には肌への変化も感じられる人も。肌を整えるために必要な栄養素が、本来の目的のために使われるため、肌質の向上も期待できます。睡眠をしっかり取れるので、頭が冴えるような感覚を持つ人も。
2週間の禁酒による効果
体重の変化が出てくる人も多い時期。禁酒による代謝の改善とお酒や食事によるカロリーと糖質の減少から、体型に変化が現れる人も少なくありません。
「個人差はありますが、私が指導をした人のなかには、2、3カ月の禁酒で10㎏の減量に成功した人もいます」
禁酒を成功させる7つのコツ
ここからは、無理なく禁酒を成功させるためのアドバイスをお届け。
他の飲みものに置き換える
禁酒がどうしてもつらいという人は、導入としてノンアルコール飲料に置き換えると、お酒を控えやすいと思います。しかしノンアルコールは糖質が高いものや人工甘味料を多く使っている商品もあるので、選ぶときには注意が必要です。
「私はビールが飲みたくなったときに、無糖の炭酸水でシュワっという感覚を楽しんでいました。炭酸水が飲みにくい人は、レモン汁などを加えるとレモンサワーのような感覚で飲めるのでおすすめです」
体の変化を観察してみる
毎日お酒を飲んでいた人が、いきなり飲まなくなることは難しいと思います。ストレスにならないように、まずは週に1日から始めてみましょう。
禁酒をはじめたら、体の変化を観察してみてください。目覚めがよい、胃腸が軽く感じる、肌が健康的になるなど、自分の目標にあった変化を感じられると、自然に休肝日も増えてくるはずです。
買い置きを控える
お酒が目に入ると飲みたくなってしまうので、日常的なお酒の買い置きはNG。ダメだとわかっていてもあると飲んでしまいますし、飲み始めてしまったら判断能力が下がって飲み続けてしまうことも予想できますよね。
チートデーを作る
たまにはは飲んでもいい日をつくるのは、長い目でみたときにお酒を飲む量を控えるためには効果的です。禁酒に慣れてきたら、お付き合いで飲む日をチートデーに設定するのもアリですね。
長く禁酒を続けるとまったく飲めなくなってしまう人もいると思います。そうなりたくない人は、“ほどほど”を探ってみるのもよいのではないでしょうか。
ただ、ダイエット停滞期に「好きなものを食べていい日」として設けるチートデーのように、「今日は思いっきり飲もう!」と思うのには気をつけて。最初からチートデーありきで考えるのではなく、禁酒をある程度の期間達成してから、徐々にペースを調整するのがおすすめです。
他人の力を借りて禁酒成功へ!
飲み会へ誘わないように周囲にお願いすることも効果的。でもコミュニケーションとして飲む場合などは、断るのも辛いですよね。
そのときは「禁酒をしているから…」という言葉ではなく、「ダイエット中で」などの言葉に変える方が、相手に受け入れてもらいやすいかも。シチュエーションに合わせて断り文句を考えておくのも◎。
自分の意思では短期的な禁酒ができないなどアルコール依存気味だと感じる人は、無理をせずに、早目に専門医へ受診しましょう。
減量目的の場合は飲み合わせにも工夫を
健康かつ心地よい体型・体重を維持するために禁酒をするのなら、一定期間お酒をやめてみて。糖質やカロリーの低いお酒を選んでも、体がアルコールを分解するために多くの栄養素を使ったり、肝臓の代謝機能が下がり、脂肪を溜めやすくしてしまいます。
禁酒中に、付き合いなどでどうしても飲まなければならない場合は、カクテルや甘いお酒などは避けるようにしましょう。余分な糖質は中性脂肪として蓄えられてしまいます。
また、おつまみにも工夫して。アルコールの分解のために不足しがちなビタミン類や亜鉛などをフォローできる食材を食べることも意識をしてみて。調理方法なども気をつけて、脂質の多い揚げ物は避けるようにしましょう。
おつまみにおすすめな食材
- 豚肉
- 牛肉
- 鶏肉
- ホタテ
- かつお
- まぐろ
- さば
- 大豆製品(えだまめ、豆腐など)
- まいたけ、エリンギ
- ナッツ
- 野菜類
自分の意思ではじめよう
好きなお酒をやめるというのは、人に言われてはじめても続けることはできません。しっかりと自分の選択としてスタートしましょう。はじまりの意識によって、成功率は変わってきますよ。
適量を知り、上手に付き合う方法
お酒は人とのコミュニケーションを円滑にしたり、料理をおいしくするひとつのツールです。禁酒をすることのメリットは多いですが、それでも失いたくない楽しい効果もありますよね。そのためにも体を壊さないお酒の飲み方を身につけるのが良いのではないでしょうか。吸収速度、代謝速度は個人差が大きいので、適正量だからと安心しないようにしましょう。
厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」として、一日平均の飲酒量を純アルコール換算して20g程度と発表しています。これは飲んだお酒に含まれるアルコールの重さです。ビールだと500ml1缶、清酒は1合弱、焼酎1/2合、ワインは軽く2杯(200ml)の量にあたります。
アルコールの計算式
- お酒の量(ml) × 度数または%/100 × アルコール比重(0.8)= 純アルコール量(g)
例えば、度数が5%の500mlのビールなどを飲んだときのアルコール量は、500 × 5/100 × 0.8= 20なので、20gとなります。
体に優しいお酒の飲み方
空腹では飲まない
アルコールは性質上、水にも脂にも溶けやすく、分子量が非常に小さいので早い速度で吸収され全身へ行き渡ります。その速度を遅くするために、お酒を飲む前に食事をしてワンクッションつくりましょう。より吸収スピードを落としたい場合は、胃にとどまる時間の長い脂質の多い食事がおすすめです。
お酒はゆっくり飲む
血中アルコール濃度を急激に上げないことがポイント。ペースを落として、お水を飲みながらゆっくり飲むということも大切です。最近、缶チューハイにストローを差して飲むスタイルが流行っていますが、とても危険ですので避けた方がよいですね。
ちゃんぽんをやめる
お酒の種類が変わると目先や味も変わるので、たくさんの量を飲んでしまう傾向にあります。飲み過ぎを防ぐためにも、なるべくお酒の種類は絞るとよいでしょう。
自分の意思で制限することが大切!
禁酒といっても、一生お酒を辞める必要はありません。ただ今の認識よりも飲む量や頻度の見直しは多くの人に必要です。あなたが認識していないだけで、実は心身ともにアルコールによる影響を受けているかもしれません。
誰しもお酒での失敗は一度ぐらいあるとは思います。それが一度なら、笑い話になりますが、継続的に続いてしまう可能性があるのがお酒です。習慣化から依存へつながる可能性は、どんな人にもあります。
「お酒は素晴らしいコミュニケーションを生むものでもあります。お酒と一生いい関係を続けていくためにも、アルコールのリスクについて知ってから飲むことは大切です」と教えてくれた上坂さん。
メンタルヘルスや身体的に健康であるためにお酒は絶対に必要なものではないのかもしれませんが、お酒を楽しむ人にとっては特別な時間を彩る存在です。だからこそ、飲酒によるリスクをしっかりと認識し、自分の意思で制限をするということがお酒とともに生きていくために重要なのです。
自分の心と体に優しい飲み方を意識して、楽しいアルコールライフを!
上坂マチコさん