SNSなどでZ世代の若い世代の共感を集めている「蛙化現象(カエル化現象)」という言葉を知っていますか? 好きな人に、ある日突然冷めてしまう…。そんな経験をしたことがある人は多いはず。

好きなはずなのに急に冷めてしまうという、なかなか言葉で全てを表現するのが難しい心情だからこそ、“現象”として認識されはじめて以来、これに共感している人が多いよう。

今回は、公認心理師・臨床心理士の南舞さんに、恋愛における突然の心変わり、「蛙化現象」についてお聞きしました。急に訪れるかもしれない「冷め」にどうやって向き合うべきなのでしょうか?

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「蛙化現象」とは

最近のSNSでは、蛙化現象は「恋人に対して急に冷めてしまう」といった意味で使用されている場面も見かけます。

一方で本来の蛙化現象とは、誰かに片思いをしている状況で、相手も自分に好意をもっていることが発覚した時に、その相手に対して生理的な嫌悪感を感じることを指します。

「蛙化現象」は病気?

南先生によると、これはよく起こり得る事象に対して名前がついたのであって、疾患や病気ではないそう。また蛙化現象は、比較的女性に多くみられる現象ではあるものの、性別に関係なく男性にも起こり得る現象とのこと。

「蛙化現象」の名前の由来

南先生によると、「蛙化現象」のネーミングは、グリム童話の『かえるの王さま』という作品が由来しているとのこと。

「あくまで一説ですが、跡見学園女子大学の藤澤伸介教授が、学会でこの名前を発表したことで広まったと聞いています。由来となった物語は、王子がカエルの姿になっているとは知らずに嫌々カエルに接していた王女が、王子がカエルから元の姿に戻った途端に好意を抱き結婚する、という話です」
「蛙化現象のもつ意味とは反対のストーリーではありますが、『相手への気持ちが正反対になる』という意味では同じ事象なのかと思います」
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Elena Radkova//Getty Images

「蛙化現象」は“冷める”とは違う?

好きなはずのパートナーから気持ちが離れてしまう、という経験をしたことがある人は多いはず。南先生によると、本来の意味での蛙化現象はお互いの気持ちが通じ合う手前で起こるので、“気持ちが離れる”とは違った心理状態なのだそう。

「“冷める”や“好きじゃなくなる”というのは、恋人関係を続けていく途中でよくある気持ちの変化だと思います。一方で蛙化現象は、それよりも手前の、関係が深まる前に相手の好意を知った段階で気持ちが変わってしまうことですね」

蛙化現象の例

30代Aさんの場合

「中学生時代に蛙化現象を経験しました。小学校から仲の良かった幼なじみに対して、恋愛感情を抱き始めていたときに、相手も好意を持ってくれていることを知りました。
すると、それを知ってから相手に対して『気持ち悪い』という感情が芽生えてしまったのです。結果として、彼に対しては特に気持ちを伝えることもなく、しばらくの間は不自然に距離を置いてしまいました。
友人としてとても好きだったので、当時は自分の心変わりにショックを受けたことを覚えています。そのときは『蛙化現象』という言葉は知りませんでしたが、今思い返すとあれが蛙化現象だったんだと思います」
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Blueastro

「蛙化現象」が起こる原因

南先生によると蛙化現象は、自分のなかにある恋愛に対する理想と現実とのギャップや恋愛に対するネガティブな感情などが原因で引き起こされることが多いそう。ここからは、蛙化現象が起こる原因についてみていきましょう。

「理想と違う」と感じてしまう

たとえば恋愛漫画などでは、恋愛の“綺麗な部分”や好きな相手に対する良い部分が取り上げられることのほうが多いと思いますが、現実では期待を抱いても漫画のようにはいきません。

「恋愛に対して思い描いていた理想と、現実の恋愛は違うものだ」と感じることで、蛙化現象が起こってしまいます。

「どんなに素敵な人でも、欠点が見えるときはあると思います。そういうギャップに直面したときに、『恋愛=綺麗なもの』、『恋人になる人とは、こうあるべきもの』といった考えが強すぎると、蛙化現象に直面することになるでしょう」

恋愛に対してネガティブな感情をもっている

女性に多い原因として、“女性とはこうあるべき”という世間が作り上げた女性像が理由で、恋愛に対してネガティブな感情を抱いてしまうことと関連することも挙げられます。

「幼い頃から世間が思う“理想の女性像”を刷り込まれていると、誰かとお付き合いすることになったときに『本当に“良い恋人”になれるのだろうか』といった不安が芽生え、蛙化現象に陥ってしまうことも考えられます」

また、過去の恋愛で傷ついた経験があったりトラウマがあったりすると、相手からの好意を感じても自分が幸せになれるビジョンが浮かびづらく、恋愛に対して後ろ向きになって行動に移しにくくなってしまうことも。これが蛙化現象に繋がるパターンもあります。

心身ともに弱っている

気持ちが不安定なときは、元気なときと比べて好きな人の見え方も変わってくるそう。相手が自分よりも生き生きとしているように感じられて、「自分には無い魅力をもっている」と感じやすくなるのだとか。

「いつもとは違う心理状態で見るものって、すごく魅力的に感じることがありますよね。自分が弱っている状況だと、周りの人がいつも以上に輝いて見えてしまう可能性があります」

いつも通りの元気な自分に戻った途端に、それまで感じていた相手の魅力が急に無くなってしまったように感じて、蛙化現象が起こってしまうのかもしれません。

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Malte Mueller//Getty Images

恋愛に対する価値観に気づいていない

南先生は、相手との違いを認識するための要素として、「自分の価値観を知っておく」ことが大切だと言います。

自分のなかにある恋愛に対する価値観を理解していない状態のまま相手との関係が深まり始めると、その時に「思っていたのと違う!」となって初めて、自分の価値観と相手の価値観の違いに気づき、相手を拒否してしまうこともあるそう。

「思春期や青年期に他者とぶつかる経験を多くしていると、他者とのコミュニケーション方法を考えるきっかけができ、結果として自分自身について、自分の価値観について考えることにつながります」
「こうやって本当に自分と“合う人”というのがわかってくるのだと思うのですが、これができていないことで、他者との関係が深まりそうになった時にはじめて価値観のギャップに気づくことがあります」

関係が深まることに抵抗感がある

蛙化現象が起こる原因のひとつとして、深い人間関係を築くことに抵抗感や苦手意識を感じる場合もあるそう。

「いわゆるZ世代と呼ばれる人たちのお話を聞くと、『人と争うことを避けたい』という気持ちが強く、『思春期を振り返ると反抗期がなかった』という人が多いように思います」
「恋愛は、ときに関係が深まると相手とぶつかったり葛藤したりすることも多いと思います。ただ、そういった経験が少ないと、誰かと関係が深まりそうになったときに、人間関係の難しさや関係が深まることに対する抵抗感を覚え、蛙化現象に陥ってしまう可能性があります」
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Malte Mueller//Getty Images

「蛙化現象」が起こったときの対処法

蛙化現象は病気ではないので、病院で治療をすることはできません。ただ、相手のことを考えすぎてしまって身体や日常生活に影響を及ぼすようであれば、医療機関やカウンセリングに行くのも一つの手です。

「眠れない、食欲がない、仕事にいけない、など日常生活に影響が出るくらいの不調が見られるのであれば、医療機関を受診しても良いかもしれません」
「また、『これから恋人関係を築いていこうと思っていたのに…』『いつも恋愛がうまくいかないのは何でだろう』といった悩みを抱えているようであれば、公認心理師や臨床心理士とカウンセリングのなかで話してみてくださいね」

また、相手を「嫌だな」「気持ち悪い」と思った自分のことを責めないのも大切。思いつめると、自分のことも嫌になってしまう可能性があります。嫌悪感を含め、自分が感じた気持ちに対して蓋をしないようにしましょう。加えて、ノートなどにありのままの気持ちを書き綴ることも良い対処法の1つだそう。

「ノートでもスマホのメモ機能でも良いのですが、自分の気持ちを書き出してみると、頭で考えているだけでは気づけなかった自分の気持ちを知ることができます。それでも感情の行き場が見つからなくて苦しくなってしまったときは、身近な人やカウンセラーに相談してみてください」

相手に伝えるときに覚えておきたいこと

仲良くしている相手に対して蛙化現象が起きてしまうと、相手から「なぜ気持ちに変化があったのか?」と聞かれることもあるかもしれません。ここでは、蛙化現象を相手に伝えるときに覚えておきたいことをみていきましょう。

南先生は、「相手を傷つけたくないという気持ちもわかりますが、まったく傷つけないというのは難しい」と言います。

「ただ、相手に気持ちを伝える時に『これはあくまでも私が抱える問題であって、あなたのせいではない』ということを、しっかり伝えたほうが良いと思います」

また、「少し距離を置きたい」と伝えるときには、「問題を解決する時間が欲しい」ということも合わせて伝えるようにしましょう。

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Malte Mueller//Getty Images

相手が「蛙化現象」に陥ってしまったら?

誰にでも起こりうる可能性のある現象なので、自分が相手から急に拒否されてしまう場合もあります。南先生によると、もし好意を寄せている相手から蛙化現象に陥ってしまったことを伝えられても、過度に傷つく必要はないとのこと。

「相手の問題であることも多く、必ずしも拒否された側に何か原因があるというわけではないと思います。気にしないことは難しいと思いますが、必要以上に自分を責めないでください」

とはいえ、急に相手から拒否されてしまうと、悲しい気持ちが抑えられなくなるときもあると思います。そんな時は、身近な人に話を聞いてもらって気持ちの整理をしましょう。

「相手の気持ちが戻るのを待っても良いですし、待つことが辛ければお別れしても大丈夫。今後相手とどうしていくかの選択権は、相手だけではなく自分にもあります。相手の意見や気持ちだけに左右されず、自分にとって大事だと思うほうを選んでいけると良いですね」

南舞先生

南舞
南舞
公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師。多感な中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2015年に「臨床心理士」を、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。これまでには学校や企業、子育て支援など様々な場所でカウンセラーとして活動。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、ジャッジしない、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じ、ヨガの道へ。2020年より、働く女性のメンタルヘルスをサポートするためのヨガ×カウンセリングのサロンを主宰。ウェルビーイングを高めたり、もともとその人のなかに備わっている強みを引き出していくお手伝いをモットーとして日々活動中。