カップルのケンカや別れの原因になることも多い「価値観の違い」。出会った当初にはギャップを感じなかったのに、時間の経過や環境の変化とともに二人の間で違いが出てくるというケースも。

今回コスモポリタンは、7万人以上のカップルのパートナーシップを支援してきた株式会社すきだよの代表取締役、あつたゆかさんにインタビュー。「パートナーシップの悩みの原因の多くは『価値観の違い』」と語るあつたさんに、「価値観の違い」を活かしパートナーシップを円滑にする対話のコツを聞きました。

お話を伺ったのは…

あつたゆかさん

 
あつたゆか
株式会社すきだよ代表取締役。家族・パートナーシップに関する社会課題を解決し、ふたりらしい生き方を支援する。夫婦・カップルの対話アプリ「ふたり会議」は7万人以上に利用されており、そのノウハウを活かしてパートナーシップの不安に寄り添うコミュニティ「ふたりの教室」も運営している。現在「家庭内の対話力・チームマネジメント」にまつわる著書を準備中。

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——これまで数多くの夫婦・カップルに寄り添ってきたあつたさんですが、「価値観の違い」についてのお悩みを聞くことはありますか?

そうですね、むしろパートナーシップの問題のほとんどが「価値観の違い」が原因で起こるものかもしれません。私がこれまで聞いてきた恋愛や結婚に関するお悩みも、突き詰めると「価値観の違い」が根底にあるケースが多いんです。

よく聞くのが、「私はこんなに愛情表現をしているのに、パートナーは全然愛情を示してくれない!私のことを好きじゃないのかも?」という声。実は愛情を伝える方法も言葉や行動、スキンシップ…など人によって様々で、自分とパートナーが同じとは限らない。これを知らないと、“愛情の大きさ”の差だと感じてしまいます。

他にも、キャリアやセックスへの考え方、結婚や出産などライフイベントに対する価値観…挙げればキリがありません。

カップルとはいえ、それぞれが違う人生を歩んできた別々の人間なので、考え方が違うのは当然のこと。だからこそ、パートナーシップを考えるうえで「価値観の違い」は必ず存在するものです。

——あつたさんは、パートナーの方との価値観の違いで悩んだことはありますか?

実は、彼とでは性格も考え方も真逆。わかり合えないと感じることも何度かありました。私はどちらかというと細かいことはあまり気にしないおおざっぱな性格で、夫は繊細で神経質な面がある人。

毎日「異文化交流」しているような気分ですが、違いを楽しみながら生活しています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

元々私自身がパートナーに「価値観が同じであること」を求めていませんでしたが、彼は「この人となら、どんな違いも話し合いながら乗り越えていけそうだな」と思えた人でした。

そもそも、自分と価値観が全く同じ人なんてこの世に一人もいませんよね。自分自身さえも、時間の経過や環境の変化によって変わっていくもの。

だから、価値観の違いをネガティブに受け止めるのではなく、「価値観は違って当たり前」という前提で相手とコミュニケーションをとることが大切だと考えています。

——価値観は違って当たり前。頭では分かっていても、「自分の考えを理解してもらいたい」「相手に変わってほしい」と考えてしまう人も多そうです。

それはきっと「違い」にフォーカスしているからではないでしょうか。長い年月を経て形成された性格や習慣を変えるのはすごく難しいですよね。

まずは「相手の背景を想像をしてみる」のがオススメです。相手がなぜその考え方や言動に至ったのか想像してみると、問題の見え方が変わってくるかもしれません。

私の話でいうと、喫煙量が多く不健康な生活をする夫が心配で、タバコを控えてほしいと説得しようとしたことがありました。でも話を聞いてみると、「長生きしたいと思っていない」と。

繊細で責任感の強い彼にとって、喫煙は数少ないストレス解消法だったんです。それを無理矢理取り上げるのではなく、彼が日々感じるストレスを少しでも減らして「毎日が楽しい」と感じてもらえるよう地道な努力を続けました。

3年が経った頃、夫が自ら禁煙をしたり、前向きに将来の話をしたりするように。「今は毎日が楽しいから、長生きしたくなってきた」という言葉を聞いて本当に嬉しかったですね。

もちろん自分が本当に嫌なことを我慢する必要はありません。価値観そのものを変えさせるのではなく、「副流煙が心配だから屋外で吸ってもらう」など表面的な行動で配慮してもらうことはできるはずです。

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——しっかりと話を聞いたからこそ、思いもしなかったパートナーの本音が見えて、アプローチが変わったんですね。とはいえ、日常的にお互いの価値観について深い会話をする機会はなかなかないですよね…。

日常のコミュニケーションのなかで、話し合うきっかけを掴むのは難しいですよね。そのことに注目して私が2019年にリリースしたのが「ふたり会議」です。一言で言うと「夫婦・カップルの価値観共有サービス」ですね。

「キャリア」「同棲」「お金」「住まい」など11のテーマに関して、それぞれ30問ほどの質問に「はい/いいえ/どちらでも」の選択肢からアンケートに答えられます。パートナーとLINEでお互いの回答を共有し、結果を見ながら話し合いにつなげてもらうイメージです。

質問項目は「家事代行や便利家電を使いたい?」「子どもができてもフルタイムで働きたい?」「収入はオープンにしたい?」「セックスは週1回以上したい?」など、普段あまり話題にしないけれど、すり合わせが必要なトピックに設定しています。

 

以前Twitterで「夫が育休をとると思っていたけれど、出産直前にとらないと言われた」という投稿が話題になっていたことがありました。話し合う機会がないと、お互いに「きっと相手もこう思っているだろう」と思い込んでしまいがち。それを放置しているうちに気がついたら埋められないズレが生じていた、という事態になりかねません。

二人の間に信頼関係ができているカップルなら、なるべく早い段階で「ふたり会議」を使って「話し合って解決できた」という成功体験を積んでもらえたら嬉しいですね。

——「ふたり会議」を使った結果、価値観の違いに気づいたらどう受け止めれば良いのでしょうか?

「ふたり会議」のサービスを通しても「意見が違っても大丈夫」と繰り返しお伝えしています。良い関係性を築くために必要なのは、二人が納得しながら意思決定していくプロセス。だからこそ、まずはお互いの価値観や考えをシェアすることがとても大切なんです。

また、同じ結果だとしても理由が違うケースもありますよね。たとえば、二人とも「結婚式をしたい」と回答しているけれど、一方は「ウェディングドレスが着たい」と思っているのに対して、もう一方は「お世話になった人たちに感謝を伝えたい」というのが理由であるとか。

答えに至るまでの思考プロセスは聞いてみないとわかりません。結果が同じでも違っても、話し合うことでお互いのことがより一層理解できるはずです。

実際にユーザーの方からも、「普段話さないことを話し合うきっかけになって良かった」と嬉しいご感想をいただいています。他にも「結婚したら彼が苗字を変えるつもりだと言ってくれて驚いた」「意外と彼が家事に前向きだった」など、相手の新たな一面を発見して惚れ直したという声も。

私自身、「ふたり会議」に大きな反響をいただいたことで、「価値観の違い」に悩む人がこんなに多いんだと改めて感じました。

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——あつたさんご夫婦が、「価値観の違い」に直面した際に実践していることがあれば教えてください。

感情と結びつけず、論理的に考えて解消するという方法を取り入れています。たとえば、課題を解消していくために双方が「質問責任・説明責任」を果たす。問題が起こったときには「事実」と「解釈」を分けて考える。私たち二人が勤めていた会社で浸透していた文化を、パートナーシップに応用したものです。

そもそも、職場での人間関係は論理的に考えて解消できるのに、パートナーシップの問題となると感情と結びつけてしまう人が多い気がします。

モヤモヤや違和感を感じたら、感情と切り分けて、その日のうちに納得がいくまで話し合うようにすること。それを日々実践しているのが“円満の秘訣”といえるかもしれません。

——あつたさんのnoteの中で、「パートナーと良い関係を築き続けていくのに大切なのは、『いかに良い相手を見極めるか』よりも『メンテナンス・運用スキル』」という言葉が印象的でした。違いを乗り越える「運用スキル」の一つとして「お互いを尊重した建設的な議論」を挙げられていますが、議論の方法としてポイントはありますか?

3つあると考えています。まずは「C案がないか探る」こと。たとえば、あなた(A)とパートナー(B)とで意見が分かれたときに「どちらかに決めなければいけない」と考えて揉めてしまうカップルは多いかもしれません。

でも、AでもBでもない、Cという「第3の選択肢」を模索する手もありますよね。

たとえば、結婚式の開催について意見が割れたとすると、「やる」「やらない」で対立するのではなく、お互いがなぜその意見になったのかをまず聞いてみる。結婚式をやりたくない理由がはっきりしているなら、そのポイントを解消して式を挙げられる方法を考えてみてはどうでしょうか。

2つ目は、「A案とB案を共存させる」考え方です。実際にあったカップルのお話ですが、「やかんとケトルどっちを使うか」で喧嘩になったそうで。「両方使うのはどうですか?」と提案したところ丸く収まりました(笑)。このように、そもそもすり合わせる必要がない内容をすり合わせようとしているパターンもありますね。

最後は「仕組みで解決」。一緒に暮らすカップルが「二人とも在宅勤務をしていると、お互いにミーティングの声がうるさくて気になる」と揉めているとします。この場合、相手のためにミーティングに出ないというわけにはいきません。だから、ミーティングのときは離れた部屋に移動するとか、防音シールを貼ってみるとか。中長期的な解決策だと、違う間取りの部屋に引っ越す、という選択肢もあるはずです。

家事・育児の分担や方針について折り合いがつかないなら、便利家電や家事代行の導入を検討してみる。お互いが何かを我慢したり譲ったりするだけではなく、思い切って仕組みから見直してみると、案外問題が解決することもありますよ。

 
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——他にも話し合いをするうえで心がけたほうが良いことはありますか?

お互いのコミュニケーションタイプの違いを理解しておくのも良いでしょう。たとえば話し合いのときに相手が黙ってしまうと、「話し合う気がない」「愛情がないからだ」と決めつけてしまってはいませんか?

こうした表面的にはすれ違いに見えることも、コミュニケーションのとり方が違うだけかもしれません。

自己表現には「非主張的」「攻撃的」「アサーティブ」の3つのタイプがあると言われています。「アサーティブ・コミュニケーション」とは、自分の主張を一方的に述べるのではなく、相手を尊重しながら適切な方法で自己表現を行うこと。相手も自分も大切にする「アサーティブ・コミュニケーション」は、パートナーシップを円滑にする対話スキルとしてぜひ頭の片隅に置いていてほしいですね。

先ほど例に出した「話し合いで黙り込む」ような人は、自分の気持ちを言葉にするのに時間がかかる「非主張的」タイプなだけかもしれません。どのタイプが悪いというわけではなく、自分や相手のタイプを客観的に把握しておくことが大切です。

また、「直接話すよりLINEなどテキストのほうが言葉にしやすい」「お酒を飲みながらのほうがリラックスして話せる」という人もいます。

「話し合い」一つとっても、人それぞれに心地よい場所・時間・手段があります。まずはお互いがスムーズに話せる環境を調整してみるのがおすすめです。

こうしたパートナー間の対等な話し合いの方法を学ぶ場がないのが今の日本の現状。結婚や夫婦関係、家庭とキャリアの両立など、自分らしいパートナーシップを学ぶ会員制コミュニティ「ふたりの教室」もぜひチェックしてみてくださいね。

 
株式会社すきだよ

——「価値観の違い」に向き合うのに努力が必要だとわかりました。

おっしゃるように、良好なパートナーシップを維持するには途方もない努力が求められます。そのためには、まずは“大切な人を大切にする”ための心の余裕を残しておく必要があると思っていて。私は「戦略的ご自愛」と呼んでいるんですが、相手のためにも「ご自愛」をするんです。

疲れていたり余裕がなかったりするとき、パートナーに向き合う余力がないのは当然のこと。「今日は疲れが溜まっていてイライラしてしまいそう」と感じたら、無理せず仕事を早めに切り上げて、お風呂にゆっくり浸かってみる。自分のコンディションを把握して、相手に事前に伝えておくのも良いですね。

自分と自分の大切な人を守るため、いつでもご機嫌でいるように心がければ、パートナーシップも仕事もうまくいくはずです。

あなたとパートナーは違う価値観をもっていて当たり前。大切なのは、価値観の違いを恐れず、お互いを知ろうと歩み寄ること。相手の背景を尊重し、言葉を尽くして最大限の努力をすること。そして、あなた自身を大切にすること。

読者のみなさんには、大切なパートナーと「わかり合う」ことを諦めないで、と伝えたいですね。

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