「壁ドン」でメロメロ、なーんて女が、本当にいるとお思いで?

前回、ハリウッド映画に多く登場する、男に都合よく描かれただけの「オッパイちゃん」について書きました が、「別にいいのでは? 脱ぎたい人が脱いでるんだし」と思った人もいるかもしれません。まあ個別案件としてはその通りですが、困っちゃうのはこれが時に「脱ぎたくない女子」にも影響してくることです。

例えば「壁ドン」。あらゆる映画やドラマが「あんなヤツに"壁ドン"されてドキドキしちゃって、私ったらどうしちゃったの?」みたいな場面をやるので、世の男の多くは、そうかそうか、女はあれを望んでるのか!ああいう風にされたいのか!なんて思っちゃってるところがあります。でも実際は「壁ドンとかマジでキモい」という女子もいるし、1万歩譲ってみんな大好きだとしても、お前にやってほしいとは言ってない、っていうことは多分にあります。

「オッパイちゃん」映画で、女の存在や言動を「男に都合よく」理解することばかりに慣れた男は、それを無邪気に現実にも適用しがちです。「イヤだって言てるけど、本当は嬉しいくせに」「いえ、ホントにイヤなんで」「だからその"イヤ"が"OK"の意味で」「いえ、ホントにホントにイヤなんで!」「だからその"イヤ"が」という不毛なやりとりは、どこまでも交わりません。

そして「そんな女ばっかりのわけあるかい!」と、「自分」を生きようとする女は、社会から理不尽な扱いを受けることもしばしばです。

1950年代から90年代まで大活躍したアメリカの大作家、パトリシア・ハイスミスもそのひとり。彼女が1952年に書いた自伝的なレズビアンの恋愛小説『The Price of Salt』は、"売り出し中の作家に傷がつく!"と別人名義で発表されました。そして大ベストセラーとなったその小説が、今年のアカデミー賞でケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラが主演&助演女優賞でWノミネートされている『キャロル』の原作です。

男に都合の悪い女子映画『キャロル』は、オスカーを獲れるのか?

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さて。いよいよ迫ってきたアカデミー賞が、この作品をどう扱うのか気になります。というのも、アカデミー賞ってスーパーマッチョな世界なんですね。前回も引用した統計を再び見てみましょう。ちなみにこの調査(2013年)の年のアカデミー賞は85回で、これまで受賞者は毎年ほぼ1名ずつ、ノミネートは毎年部門ごとに最低4~5人ずつはいます。

  • 監督賞での女性のノミネートは――4
  • そのうち受賞したのは――1
  • 85回の全部門における女性のノミネートは――35人/175人中
  • 作品賞を受賞した女性プロデューサーは――7
  • (でもすべての作品に、男性の共同製作者がいる)
  • 脚本賞を受賞した女性ライターは――8
  • 脚色賞を受賞した女性ライターは――8
  • 賞を選ぶアカデミー会員は――77%が男性

2007~2012年のTOP500の映画リサーチによる「ニューヨーク・フィルム・アカデミー」 インフォグラフィックより抜粋

今年の男優賞・女優賞のノミネートが「白人ばっかりじゃん!」と指摘されておりましたが、実のところそれ以上に「男ばっかりじゃん!」の世界なんですね。

思えば、男×男のベッドシーンも含めた恋愛もの『ブロークバック・マウンテン』がアカデミー賞を席巻したのは2006年、『キャロル』に10年も先んじています。ようやく出てきた女×女のベッドシーンもある恋愛ものは、特にこれまでのこの手の映画になかった結末が描かれてもいて、ある意味で賞の先進性を量るリトマス試験紙となるかもしれません。

アカデミー賞が「差別的!」「ボイコットしたる!」と騒がれている昨今、「わしらは古臭くないですよ~!」とアピールするために、助演女優賞あたりを獲得するんじゃないかしら?と予想してますが、さて、どうなりますやら。

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