ジェンダーとスポーツの在り方についての議論が高まっている昨今。昨年11月には、ペンシルベニア大学の水泳部に所属するトランスジェンダー女性のリア・トーマス選手が、同校の女子記録を打ち破ったことが話題を呼んだばかり。

その功績に対し、「女子選手として競うことは不公平なのではないか」という議論が高まり、一時は試合などの出場が危うくなったことも。そんな中、多くの競泳関係者がリア・トーマス選手のサポートを表明し、来月に開催される試合に参加することが決定。

入学当初は男子選手として出場

2018年に、女性であることに気づいたというリア・トーマス選手。競泳選手としてのキャリアに影響を及ぼす不安などから、しばらくはカミングアウトはせず、大学入学後の2年ほどは男子選手として試合に出場していたという。

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ところが「体に閉じ込められているような感覚」が付きまとい、自身のメンタルヘルスを考慮し、2019年には性別移行のプロセスであるホルモン治療(男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌量を抑え、女性ホルモンの一種であるエストロゲンを投与)を開始。

この頃にはチームメイトにカミングアウトをしていたものの、男子選手として競泳を続けていたというリア選手。ペンシルベニア大学の校内新聞<Penn Today>には、水泳についてこのように語ったことも。

「水泳は私の人生の大部分を占めています。5歳から泳いでいるので。ただ、トランスジェンダーをカミングアウトして水泳を続けることに不安はありました。(中略)けれど、トランスジェンダーであるということは水泳の能力には影響しないし、これからも続けられるということはやりがいのあることです」

女性選手としての参加資格を承認されるも…

ルール通りに1年以上にわたってテストステロンの分泌を抑えつづけていたリア選手は、2020年の夏頃に医学的な証明やその他の書類を揃え、全米大学体育協会に提出。これにより、公式に女子選手として参加する資格を承認されることに。

ところが、多くの記録を破ってきた彼女が、とある試合で2位の選手よりも約38秒早くゴールしたことが注目され、自身もトランスジェンダー女性を公表しているケイトリン・ジェンナーも「女子スポーツに影響を及ぼす事態で、不公平」などとコメント

また、全米大学体育協会はオリンピックと同じ条件に変更し、アメリカ合衆国水泳連盟は「過去に男性として育った身体が水泳に有利に働くか」などを3名の専門家に評価してもらうことや、試合前の36カ月間はテストステロンの数値テストをしなければならないなどというルールを直ちに盛り込んだそう。

そして、ペンシルベニア大学に所属する16名の選手がこれらの新しいルールを支持することを表明。

300人を超える仲間たちが支持を表明

一方で、チームメイト5名を含む計322名水泳選手(引退した生徒も含む)たちが、リア選手のサポートを表明。

全米大学体育協会にオープンレター(公開状)を送り、「トランスジェンダー選手やノンバイナリー選手を支持し歓迎する」ことなどを表明している。

「水泳を通して、努力をすること、自制心、そしてチームの一員になることで得る力を学びました。それは、私たちが生涯忘れることのない、かけがえのない学びであり、そのようなことを教えてくれた水泳を愛しています。このように、水泳を通して人生を変えるという経験を、ジェンダーやセクシャリティが原因で奪われるべき人はいないのです」

また、「政治的圧力に屈して、大学選手の安全や健康を脅かしてはいけない」とし、アメリカ合衆国水泳連盟の新しいガイドラインをシーズン途中に採用しないことなどを要求したほか、トランスジェンダーやノンバイナリーの選手がルール作成時に参加できるようにすることの必要性も訴えている。

さらに、水泳の世界で蔓延している性的虐待についてや、競技全体に女性水泳コーチが極端に少ない点などの問題点を挙げ、「本当の脅威はトランスジェンダー選手の存在などではない」といった意見も盛り込んでいる。

「水泳を素晴らしいものにしているのは、選手の多様性です。誰ひとりと同じ選手はいません。互いから学び、互いをインスパイアし、サポートし合うのです」

全米大学体育協会の返答は…

その数日後、全米大学体育協会は「来シーズンまで新しいガイドラインを採用しない」ことを発表。こうして、リア選手は競技に出場できることが決定した。

これまでは、トランスジェンダーを告白したことで、社会からの批判や厳しい目を避けるために、競技を休んだり完全に引退してしまうまでに追い込まれてしまう選手が多かったなか、オープンに競泳を続けているリア選手。

「リアが表舞台に出つづけていることは、多くの命を救っていると思う」と、水泳ディビジョンIで初めてオープンなトランスジェンダー男子選手となったシュイラー・バイラーも称賛の声を寄せている。