多様な個のあり方が尊重される世界を目指し、商品やクリエイティブ製作に取り組むプロジェクト型ブランド「REING(リング)」。

ブラレットやボクサーパンツなど、性別や体型に捉われないすべての人に向けたアンダーウェア「REING Underwear」を発売し、“女性らしさ”と結び付けられがちな「ピンク」の下着をまとう多様性に富んだモデルたちの写真は、SNSで大きな話題を集めました。

そんな「REING」代表の大谷明日香さんは、もともと広告代理店に勤めていたキャリアの持ち主で、当時経験した既存のジェンダー観が、ブランドを立ち上げるきっかけにつながったそう。

そこで今回は、「REING」というブランドに込められた想いやジェンダー観に悩んだ自身の体験“女性らしさ”と結び付けられがちな「ピンク」の下着をあえて作った理由や今後の目標を伺いました。

――大谷さんご自身が、既存のジェンダー観に悩んだ経験はありますか?

過去には職場で、仕事相手との結婚の可能性や、自分がメイクをしていないことを言及されるなど、日常にひそむ言葉に違和感を感じることは少なからずありました。

しかし、それ以上に深刻だと思ったのは、仕事をするなかで、自分も含め既存の考え方に囚われていると感じたことです。

広告を作るとなると、“属性”や“ターゲット”といった言葉が当たり前に出てきて、「女性はこう」「日本人はこう」あるいは「一般的に美しいのはこっち」と、その人が生きてきたなかで出会った大多数の意見をもとに語られることが多く、まだ出会ったことのない人たちの存在を、ないものとしてしまうこともありました。

「REING」は年齢や性別などのターゲットは設定していなくて、ブラレットも性別を問わず購入して頂いています。マーケティング的なアプローチも必要だと思いますが、年齢や性別からターゲットを絞るのではなく、デザインや価値観に共感してくれる人へ届けることを優先したいと思っています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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――「REING」誕生のきっかけとなった出来事や、ブランド名の由来を教えてください。

2017年に行った、パートナーシップのあり方を問い直す「Re.ing」というプロジェクトが前身となりました。

人生における「幸せ」が語られる際、主に男女の異性愛を中心とした恋愛や結婚がベースに語られる風潮が根強くあると感じるのですが、実際はもちろん、多様な性の在り方があります。たとえば、恋愛や結婚を必要としない人、友人同士の関係や、ペットとの人生を大切にする人もいて、最上位にある大事な関係性は人それぞれ異なると思うんです。

そこで、「様々な愛のカタチを祝福したい」という想いを込めて、既存の結婚指輪やペアリングに代わる「パートナーリング」をデザインしたのが「REING」誕生のインスピレーションとなりました。

「REING」という名前は、「再び」を意味する「RE」に、現在進行形の「ING」を付けた造語で、「今あるものを見つめ直す」「既存の価値観を見直す」というメッセージを込めたんです。

 
Re.ing

――ジェンダーニュートラルな下着を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

「ジェンダーバイアスが強くて、それがデザインに反映されていて、私たちのなかで“当たり前”になっているものって何だろう?」と、「REING」のチームでディスカッションしたのがきっかけです。色々な答えが出たなかで、特に「下着」はその傾向が強いのではないかという話になりました。

たとえば、女性用でよく見かけるレースの下着について考えてみると、それが男性向けになった途端、「男らしくない」と言われたり、それを選ぶ人に対する偏見が生まれたりすると思うんです。

それに何より、下着は一番自分の肌に近いものですよね。夜寝る前や朝起きた瞬間など、「その人がありのままに、心から心地がいい自分でいられるように」というメッセージがより伝わるのではないかと思いました。

――“女性らしさ”と結び付けられがちな「ピンク」の下着をあえて作った理由はありますか?

「ジェンダーバイアスが強いと思う色は?」というアンケートをコミュニティ内で取った際、圧倒的に多く寄せられた回答が「ピンク」でした。

女性らしさを押し付けられる感じがする」とピンクを嫌う人もいれば、「『女性らしいものが好きな男性』というラベルを貼られる」など、好きなのに身につけられないという人も。そのとき、「ピンク」は個々のストーリーに基づく、強い思いを抱えやすい色だということがわかったんです。

だからこそ、ピンクをポジティブに受け入れられるようなアンダーウェアやビジュアルを作れたら、誰かの“ピンク観”を解放できるのではないかと思って、「Limitless Pink」というコンセプトを打ち出すことに決めました。

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――下着を作るなかで大変だったことはありますか?

アンダーウェア工場のラインは“男性用”や“女性用”と、ある程度“型”が決まっているので、どんな身体の人にもフィットするようデザインを大切にしている「REING」のアンダーウェアは、一つひとつ手縫いで作ってもらう必要がありました。

特に、“男性用”や“女性用”というラベルを貼らないことで、サイズをどのように表記してカバーするかだったり、個々それぞれに異なる体型の差を照らし合わせたうえでブラレットの構造をどのようにするかだったりと、様々な課題がありました。

また、もっとわかりやすく発信した方がいいなど、「REING」の打ち出し方についても外からアドバイスをいただくことはあります。しかし、個人的には「REING」に共感してくださる人の物語や想いを脚色して、ポップに発信することにも違和感があるんです。

――今後の目標を教えてください。

「REING」の発信するコンテンツが、会話が生まれたり、何かを見つめ直したりするきっかけになったらいいなと思います。

これまでクリエイティブや広告は、受け取った人々にそのまま刷り込まれていくというイメージでした。しかし最近は、それらに対して違和感を抱く人が、SNSなどを通じて声を上げやすい環境になってきましたよね。

私たちはどちらかというと、受け取り側の意識を変えるというよりは、「作り手や発信する側の意識をアップデートする」ことを重視したいと思っています。

協業する企業やクリエイターの方々と共に、「私たちは何のメッセージを伝えたくてこの表現をするのか、その際に無意識のバイアスに囚われていないか、既存の固定概念を助長したり、差別を促したりするようなものになっていないか」ということを前提として議論しながら、知識を学び続けたり、コミュニティの声を取り入れたりして、表現やものづくりに向き合っていきたいと思っています。

そのうえで、これまで自分が普通だと思っていたことや、なんとなく流してしまっていた違和感に気づくきっかけになったら嬉しいです。


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