5月2日(現地時間)、アメリカの連邦最高裁判所の多数派意見の草稿で、人工妊娠中絶を憲法で保障された権利として認めた「ロー対ウェイド判決」を覆す内容が書かれていたことが<Politico>より報道されました。
1973年の「ロー対ウェイド判決」とは、それまでアメリカ合衆国で違法とされていた妊娠中絶を女性の権利と認め、胎児が子宮の外で生存できるようになるまでなら中絶は認められるというもの。現在は妊娠24週目頃までがその基準と考えられています。
この判決が覆ると、中絶の権利を保障する国としての法的な枠組みがなくなり、各州が独自に中絶に関する法律を定めることができるように。
また性と生殖の権利擁護団体の統計によると、全50州あるアメリカの半数以上の州で中絶を禁止または制限されるという予想もあります。これは、「ロー対ウェイド判決」の前から中絶を禁止する法律がある州や、判決が覆された場合に自動的に中絶を禁止する「トリガー法」をすでに成立させている州などがあるためです。
本記事では<セブンティーン>より、現時点での州ごとの中絶に対する方針と、判決が覆った場合の可能性をお届けします。
※2022年5月11日、原文の執筆時点での情報です。
【INDEX】
- アラバマ州
- アラスカ州
- アリゾナ州
- アーカンソー州
- カリフォルニア州
- コロラド州
- コネチカット州
- デラウェア州
- フロリダ州
- ジョージア州
- ハワイ州
- アイダホ州
- イリノイ州
- インディアナ州
- アイオワ州
- カンザス州
- ケンタッキー州
- ルイジアナ州
- メイン州
- メリーランド州
- マサチューセッツ州
- ミシガン州
- ミネソタ州
- ミシシッピ-州
- ミズーリ州
- モンタナ州
- ネブラスカ州
- ネバダ州
- ニューハンプシャー州
- ニュージャージー州
- ニューメキシコ州
- ニューヨーク州
- ノースカロライナ州
- ノースダコタ州
- オハイオ州
- オクラホマ州
- オレゴン州
- ペンシルバニア州
- ロードアイランド州
- サウスカロライナ州
- サウスダコタ州
- テネシー州
- テキサス州
- ユタ州
- バーモント州
- バージニア州
- ワシントン州
- ウエストバージニア州
- ウィスコンシン州
- ワイオミング州
アラバマ州
現在アラバマ州では数多くの制限はあるものの、妊娠20週目までなら中絶は許可されています。
ただし判決が覆った場合には、判決以前の州法および改正された州法に基づき、中絶は全面的に禁止となります。
アラスカ州
アラスカ州では中絶に在胎週数の制限はありませんが、中絶手術を行うのは資格を持つ医師でなければなりません。
「Center for Reproductive Rights」によると、判決が覆っても1997年に中絶の権利を保護するよう改正した州法があるため、おそらく合法のままだと思われます。
アリゾナ州
アリゾナ州での中絶は現時点では合法ですが、<Guttmacher Institute>によると、カウンセリングと24時間の待機義務があり、保険適用範囲にも制限があるよう。
判決が覆った場合、判決以前の州法に基づき、おそらく中絶は完全に禁止となると言われています。
アーカンソー州
現在中絶は妊娠20週目で禁止。保険適用範囲の制限があり、未成年は保護者の同意が必要で、手術を受けられるのはカウンセリング後に72時間待機してからなどの条件があります。
判決が覆った場合、判決以前の州法とトリガー法により、中絶は全面的に禁止となります。
カリフォルニア州
カリフォルニア州では、中絶は合法。妊娠24週以降でも、母体の生命や健康のために必要と判断された場合に中絶は許可されています。
判決が覆った場合も変わらずに合法のままだと言われています。
コロラド州
中絶は可能ではあるものの、いくつかの制限はあります。<Guttmacher Institute>によると、保険適用範囲の制限、公的資金が出されるのは患者に命の危険がある場合あるいはレイプや近親相姦の場合のみ。未成年の場合は保護者へ通知する義務があります。
判決が覆っても、おそらく変わらないままだと言われています。
コネチカット州
コネチカット州では、中絶は合法。妊娠24週以降でも、母体の生命や健康のために必要と判断された場合に中絶は許可されています。
判決が覆っても引き続き変わらず、合法のままの可能性が高いです。
デラウェア州
中絶は合法です。ただし公的資金は、命の危険がある場合やレイプ、近親相姦の場合のみ利用可能。また、未成年の場合は保護者に通知する義務もあります。
判決が覆っても、おそらく合法のままだと予想されます。
フロリダ州
現在フロリダ州では、妊娠24週目までの中絶は合法。しかし、<The Miami Herald>によると、今年4月に知事ロン・デサンティスが妊娠15週目以降のほとんどの中絶を禁止する法案に署名し、7月1日に適用される予定とのこと。
また、中絶には保険適用範囲の制限、州が行うカウンセリング義務、24時間の待機時間、未成年は保護者への通知と同意義務などの条件があります。
<Guttmacher Institute>によると、判決が覆った場合には、中絶を禁止する可能性が高いと予想されています。
ジョージア州
ジョージア州の中絶は妊娠20週目以降は禁止。保険適用範囲の制限もあり、未成年は保護者への通知や、カウンセリング、その後24時間の待機などの義務も。
<Guttmacher Institute>によると、判決が覆った場合には、妊娠6週目以降の中絶を禁止にする可能性があります。
ハワイ州
ハワイ州では、中絶は合法。妊娠24週以降でも、母体の生命や健康のために必要と判断された場合に中絶は許可されています。
判決が覆った場合も、変わらずに中絶は合法のままだと予想されています。
アイダホ州
現時点では中絶は可能。しかし2022年3月に、妊娠6週目以降の中絶を禁止する州法を制定。<CBS News>によると、この州法は一時的にアイダホ州の最高裁判所に停止されています。
しかし判決が覆った場合、トリガー法により中絶は禁止となります。
イリノイ州
中絶は合法。ただし、未成年の場合は保護者への通知義務があります。
判決が覆っても、おそらく合法で今の状態から変わらないでしょう。
インディアナ州
インディアナ州では、妊娠20週目以降の中絶は禁止。<Guttmacher Institute>によると、同州はここ10年間で55にも及ぶ中絶に関する制限と禁止事項を制定しているとのこと。
判決が覆った場合、おそらく全面的に禁止となる可能性が高いと言われています。
アイオワ州
アイオワ州では、妊娠20週目以降の中絶は禁止で、未成年は保護者への通知義務があり、超音波検査は必須。公的資金にも制限があります。
<ACLU>によると、2018年に妊娠6週目以降の中絶を禁止にする州法が成立したものの、2019年には違憲だという判断に。このことから、州法を改正しない限りは、判決が覆ったとしても合法であり続けると思われます。
カンザス州
カンザス州の中絶は、妊娠20週目まで。保険適用範囲や公的資金にも制限があり、保護者の同意が必要で、24時間の待機義務があります。
<NPR>によると、カンザス州の最高裁判所は2019年に中絶権利を保護することを決議したため、判決が覆っても合法のままである可能性が高いそう。
ケンタッキー州
ケンタッキー州では妊娠20週目以降は禁止。カウンセリングから手術まで24時間の待機、超音波検査、未成年は保護者の同意などが義務。保険適用範囲や公的資金にも制限があります。
<CNN>によると、ケンタッキー州はトリガー法があるため、判決が覆ると中絶は違法となる見込みです。
ルイジアナ州
現在ルイジアナ州では、中絶は妊娠20週目以降禁止。24時間の待機、未成年は保護者の同意、超音波検査は必須。保険や公的資金にも制限があります。
判決以前の中絶を禁止する州法が削除されていないままであるため、判決が覆った場合は中絶は禁止になると言われています。
メイン州
メイン州では中絶は合法。妊娠24週以降でも、母体の生命や健康のために必要と判断された場合に中絶は許可されています。
判決が覆っても、おそらく現状と変わらないと言われています。
メリーランド州
中絶は合法ですが、未成年は保護者への通知義務があります。
判決が覆った場合も、中絶の権利は保護され続けると言われています。
マサチューセッツ州
妊娠24週目までなら中絶は可能ですが、16歳以下は保護者の同意が必要。
判決が覆っても、おそらく合法のままであり続けるよう。
ミシガン州
中絶は許可されていますが、州が義務付けたカウンセリング、24時間の待機期間、未成年は保護者の同意が必須で、保険適用および公的資金は限られています。
判決以前の禁止令により、覆った場合には中絶を禁止にする可能性が高いそう。
ミネソタ州
ミネソタ州で中絶は可能。ただし、州が義務付けたカウンセリング、24時間の待機および未成年は保護者への通知が必須です。
判決が覆った場合も、中絶は合法であり続ける可能性が高いです。
ミシシッピ州
現時点では妊娠20週目まで中絶は許可されています。しかし、ミシシッピ州では2018年に妊娠15週目以降の中絶を禁止する州法の合憲性を巡り、ドブス対ジャクソン・ウィメンズ・ヘルス裁判が行われており、この裁判が「ロー対ウェイド判決」自体の再考につながっています。
判決以前の禁止令とトリガー法により、判決が覆った場合、中絶は完全に禁止となります。
ミズーリ州
中絶は許可されていますが、州が義務付けたカウンセリング、72時間の待機期間、および保険の制限などがあります。
<CNN>によると、判決が覆った場合には、トリガー法に基づき中絶は禁止されます。
モンタナ州
モンタナ州では2021年に中絶を制限する州法が制定されたものの、裁判所によって一時的に差し止めされているため中絶は可能。
判決が覆った場合も、おそらく中絶の権利は保護され続けると予想されています。
ネブラスカ州
ネブラスカ州 では、妊娠20週目以降の中絶を禁止しています。州指導のカウンセリング、24時間の待機期間が義務で、保険適用にも制限があり、公的資金は命の危険がある場合、レイプまたは近親相姦の場合にのみ提供されます。未成年は保護者の同意が必須です。
<Guttmacher Institute>によると、判決が覆った場合には、中絶を禁止する可能性があるそう。
ネバダ州
ネバダ州で中絶は妊娠26週目まで行えますが、公的資金は命の危険がある場合、レイプまたは近親相姦の場合のみ。
判決が覆った後も、おそらく中絶は合法のままである可能性が高いです。
ニューハンプシャー州
中絶は妊娠24週目まで行えますが、超音波検査および未成年は保護者への通知義務があります。また、公的資金は、命の危険がある場合、レイプまたは近親相姦の場合にのみ制限されています。
判決が覆った場合、中絶は合法であり続ける可能性が高いと予想されています。
ニュージャージー州
ニュージャージー州では、中絶に対する制限や禁止令はありません。
判決が覆った後も、中絶は合法であり続ける可能性が高いです。
ニューメキシコ州
ニューメキシコ州でも、中絶に対する制限や禁止令はありません。
判決が覆った場合も、中絶は合法のままであり続けると予想されています。
ニューヨーク州
ニューヨーク州も、中絶は合法。妊娠24週以降でも、母体の生命や健康のために必要と判断された場合に中絶は許可されています。
判決が覆った場合も、変わらず合法にアクセスできる可能性が高いです。
ノースカロライナ州
ノースカロライナ州での中絶には保険適用範囲に制限があり、州が義務付けたカウンセリング、72時間の待機、超音波検査、未成年は親の同意が条件です。
判決が覆った後は、中絶は厳しく制限される可能性があります。
ノースダコタ州
ノースダコタ州では中絶が妊娠20週目以降禁止されており、州が義務付けたカウンセリング、24時間の待機、未成年は親の同意などの条件があります。公的資金も限られた場合のみ。
判決が覆った場合には、トリガー法により中絶が禁止されます。
オハイオ州
オハイオ州では、妊娠20週目以降の中絶が禁止。州によるカウンセリング、24時間の待機、未成年は親の同意、胎児の心拍テストが必須で、公的資金は命の危険がある場合、レイプまたは近親相姦の場合のみ。
判決が覆った場合には、妊娠6週目以降の中絶禁止の州案を進める見込み。
オクラホマ州
現在オクラホマ州では、妊娠20週目以降の中絶は禁止されており、多数の制限があります。<CNN>によると、5月3日にケビン・スティット知事は、妊娠6週目以降の中絶を禁止する法律に署名。
判決以前の制限とトリガー法により、判決が覆った後は中絶が禁止となるでしょう。
オレゴン州
オレゴン州では、中絶に対する制限や禁止はありません。
判決が覆った後も、合法のままである可能性が高いです。
ペンシルベニア州
ペンシルベニアでは、妊娠24週目までなら中絶が可能。患者はカウンセリング、24時間の待機期間義務があり、未成年者は親の同意が必要です。公的資金は、命の危険がある場合、レイプや親相姦の場合に限定されています。
判決が覆った後も、現状と変わらないと予想されています。
ロードアイランド州
ロードアイランド州では中絶は合法ですが、未成年は保護者の同意が必要です。
判決が覆っても、中絶はおそらく合法のままであり続けるでしょう。
サウスカロライナ州
現在、サウスカロライナ州では妊娠20週目以降の中絶が禁止されています。保険適用の制限があり、州が行うカウンセリングや24時間の待機期間義務、未成年は保護者の同意が必要などの条件もあります。
「Center for Reproductive Rights」によると、2021年に同州の知事が妊娠6週目以降の中絶を禁止する法律に署名。判決が覆った場合、この州法に加え、さらなる制限が制定される可能性があります。
サウスダコタ州
サウスダコタ州では妊娠20週目以降の中絶は禁止。カウンセリングとその後72時間の待機期間が義務づけられており、患者に命の危険がある場合のみ公的資金を提供しています。なお、未成年者の保護者の同意が必要です。
判決が覆った場合、トリガー法により中絶は禁止されます。
テネシー州
テネシー州で中絶を行うには、カウンセリングと超音波検査を受け、48時間待ってから処置を受ける必要があります。さらに保険適用の制限があり、未成年は親の同意が必要です。
判決が覆ると、トリガー法と州が改正した州法に基づき、中絶の権利は排除されます。
テキサス州
テキサス州は妊娠6週目以降のほとんどの中絶を禁止。さらに数ある制限に加え、中絶を実施・支援した人を訴える権利を認めています。
判決が覆された場合、判決以前の禁止令とトリガー法により中絶は禁止となります。
ユタ州
ユタ州での中絶は、患者の命の危険がある場合、患者や胎児の健康を害している場合、レイプや近親相姦の場合のみ。保険適用に制限があり、未成年は保護者の同意が必要で、カウンセリングとその後72時間の待機が義務です。
判決が覆った場合、トリガー法により中絶はほぼ完全に禁止になる見込み。
バーモント州
バーモント州では中絶に対する制限はありません。
判決が覆された場合も、現状のままである可能性が高いです。
バージニア州
バージニア州では妊娠後期まで中絶は可能。未成年は保護者の同意が必要であり、公的資金は限られています。
判決が覆った後も、現状と変わらない可能性が高いです。
ワシントン州
ワシントン州では、中絶は合法です。妊娠24週以降でも、母体の生命や健康のために必要と判断された場合に中絶は許可されています。
判決が覆った場合でも、中絶は合法のままであると予想されています。
ウエストバージニア州
現在、ウエストバージニア州では妊娠20週以降のほとんどの中絶が禁止されており、患者はカウンセリングを受け、24時間待ってから処置を受ける必要があります。未成年の場合は保護者への通知も必須です。
判決が覆った場合には、判決以前の州法と中絶の権利を保護しないと改正した州法により、中絶はおそらく禁止になります。
ウィスコンシン州
ウィスコンシン州では妊娠20週以降のほとんどの中絶が禁止されています。また中絶にはカウンセリング、24時間の待機、および未成年者に対する保護者への通知が必要です。
判決が覆った場合には、判決以前の州法に基づき、中絶が禁止になる可能性が高いです。
ワイオミング州
ワイオミング州での中絶は可能。ただし公的資金は限られており、未成年は保護者の同意が必要です。
判決が覆った場合、トリガー法により、州内での中絶へのアクセスが大幅に制限または排除される可能性があります。