自分の人生は、自分でしか生きられないし、どう楽しんでいけるかは、毎日の選択と気持ち次第。どんな生き方だって、自分で選んできている人は、いつだって魅力的に見えるし、自然と心惹かれるもの。コスモポリタン日本版では、人生を謳歌しているさまざまな女性の生き方を紹介していきます。

英国のクラシック・現代音楽に携わる人の憧れの舞台、BBCプロムスでオリジナル曲が演奏される…そんな夢を叶えたのが、日本の若き現代作曲家、薄井史織さん(35歳)さん

舞台を這い回り、腕をかきむしり、憑かれたようにものをこする…奏でる音からは、人が心の底の深い部分に隠し持っている言いようのない苦悩や恐怖が生々しく再現されている。理論を超えた人間の感情を内包した作品、それが薄井さんの作る音楽だ。

薄井さんは、高校時代にご家族の仕事でイギリスに移住。高校時代を海外で過ごした日本人と言うと、海外暮らしに馴染んで国際的な環境で生き生きと楽しそうに過ごしたとイメージする人もいるかもしれない。が、現実には言葉や文化の壁に悩むことも多く、「日本が恋しいと感じることが多かった」のだとか。

キャリアや人生設計に不安を感じる若い世代の女性が増える中、現代音楽という珍しい分野での活動を続ける薄井さんにイギリスでの生活や創作活動について語ってもらいました。

子供の頃はどんな子でしたか?

おとなしく、口数が少ない子だった気がします。夢は客室乗務員、作家、弁護士、演劇関係でしたね。

いろいろな夢があったのですね。なぜ最終的に音楽に携わることに?

もともと、ピアノは日本にいる時から習っていました。でも、妹が小さい時からヴァイオリニストを目指していて、練習量が半端無かったし、自分はそんな量の練習はしていなかったので、音楽家にはなれないのだろうな、と思っていました。

実は中学校1年の3学期から、学校へ行かなくなったんです。いろいろな人たちの助けがあってその時の自分から、今では良い意味で脱皮できましたが。

その後イギリスの高校に入学し、初めは演劇とかアートへの興味の方が強かったのですが演劇は語学の問題、アートは先生と合わなくて、途中で止めてしまいました。そして、たまたま音楽の授業で出会った作曲の先生がとってもおもしろくて。音楽を始めから創ってみたいと思ったのがきっかけで、作曲の道へと進んで行きました。

―独特な音楽の作り方をしていますが、どうして体の音に着目したのでしょう?

小さい頃から、アトピー性皮膚炎があって。日本に一時帰国した時、電車に乗っていて体を掻いていてふと思いました。「あ、これ、音楽にできないかな?」って。

それと、知り合いの環境教育活動家として活躍する高野孝子さんがいつも会うたびに、「毎年行っているミクロネシアのヤップ島という所の音楽は、体をパーカッションのようにして使うんだよ!」と言っていて「いつか体験してみたい!」と感じたのが、ずっと頭の中にあったのだと思います。

―いろんなインスピレーションを形にしているのですね。ちなみに、作曲家として活動していらっしゃいますが、苦労もあったのでしょうか?

今でも、苦労、絶賛継続中です(笑)。以前は、締め切りに追われて作品を書くということに、とてもプレッシャーを感じていました。今の課題は、曲は舞台でも使われていますが、しっかり作曲で食べていくと言うこと! まだ、模索中ですね。

とにかく「諦めない。やり続ける。他人と比較しない」こと

―作曲活動のほかにも活動を広げるそうですね。

いまはソロで行う、即興演奏プロジェクトを始めました。

いままでは、作曲家として活動して、ほかのプロの演奏者に提供する側だったので、自分の作品(作曲、即興の両方の作品)を(CDなどを作るために)録音したり、自分で演奏したりして、もっといろんな角度から、紹介していきたいですね。自分で演奏するための音楽を創ることに、もっと集中していきたいです。オーケストラなどの委嘱作品も、もちろん書きますが、同時進行的に続けて行けたら良いな、と思っています。

これからの夢や挑戦について教えてください。

自分なりの「作曲家、音楽家、人間」像を常に問いながら、殻に閉じこもらずに、自分に挑戦して行くことですね。

例えば、世界中の国を渡り歩いて、その土地、文化の音楽に触れ合って行きたいですし、他の文化の音楽と音に対する感覚や感じ方、考え方、認識の仕方を知りたいです。あとは、ミュージックセラピー、サウンドデザイン、シアター関係の音楽造り、フィールドレコーディングなどの分野に挑戦してみることです。たくさんありすぎて話しきれませんね!

夢を叶えるコツを教えてください。

とにかく「諦めない。やり続ける。他人と比較しない」ことですね。

薄井しおりさん
Ruth Armstrong Photography

薄井史織

日本生まれ。17歳の時に英国スコットランドのエディンバラへ移住。

「個性的な耳」を持った作曲家と評され、これまでにバーミンガム音楽集団、スコットランド室内楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、BBCスコティッシュ交響楽団、ラルフ・ハインド・デュークカルテット、ファークライ弦楽オーケストラなどと活動。日本、ヨーロッパ、アメリカなどで作品が演奏されている。

器楽作品からモーションキャプチャーを利用したものまで幅広く作曲し、ここ数年は、主に「楽器としての身体」をテーマにした作品を生み出している。即興演奏家としても活動をしており、ヴォーカリスト、そしてピアニストとして演奏活動を行っている。2010年、オーケストラ作品「笑い」が武満徹作曲賞を受賞、ユネスコ・アッシュバーグ芸術奨学金制度音楽奨学生に。

2015年、BBCプロムス音楽祭にて初演。

2016年に結婚、同年Ricordi Berlinと出版の契約。スコットランド在住。

薄井史織さんのホームページ

協力:Ruth Armstrong Photography