コンドームピルIUS…など様々な避妊方法がある今。しかしホルモンをコントロールする避妊方法は、女性が主体的になるものが多く、その副作用や金銭的な負担などが問題視されています。

今回は、2018年に臨床試験の第2段階が始まり、2023年には結論を出すことが期待されている「NES/T」の可能性についてレポート。<コスモポリタン アメリカ版>がNES/Tこの臨床試験の場に入り、参加者や専門家にインタビューしました。

NES/Tとは?

この臨床試験に資金を提供しているアメリカ国立衛生研究所の避妊薬開発プログラムを担当するダイアナ・ブライス博士は、NES/Tの仕組みについてこう解説。

  • 被験者(18歳〜50歳の男性で、18歳〜34歳の女性と1対1の関係にある)は毎朝のシャワーの後にNES/Tをワンプッシュし、肩に擦り込む。
  • カップルは他の避妊法を使わず、1年間にわたって1カ月に1度以上セックスをする。

その間、研究者は精液と血液の検査をし、NES/Tの効果を調査。このジェルは精子の形成に不可欠な黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンという物質の分泌を抑えて、精子の形成を減らすよう開発されたもの。

NES/Tという名は、避妊リングや子宮内膜症の治療のために使われている「ネストロン」という製品と同じく、プロゲスチンを使用しているのが由来だそう。

今回の臨床試験の共同研究者の1人であるワシントン大学のジョン・エイモリー教授によれば、これによってホルモンの産出はほぼゼロになるとのこと。もっとも、テストステロン(男性ホルモンのひとつ)の産出も皆無に等しくなるため、セックスに影響が出ないようにテストステロンを加えているのだとか。

コンドーム、ピル、ius…など様々な避妊方法がある今。しかしホルモンをコントロールする避妊方法は、女性が主体的になるものが多く、その副作用や金銭的な負担などが問題視されています。今回は、2018年に臨床試験の第2段階が始まり、2023年には結論を出すことが期待されている「nest」の可能性についてレポート。
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セス・キナストさん(34歳)の場合

ケイトリン・キナストさん(34歳)と夫のセスさん(34歳)は、これまでにあらゆる避妊手段を試してきたそう。今までは問題なかったものの、あるときコンドームを使用すると、ケイトリンさんの肌が炎症を起こしてしまったのだとか。

夫妻の間には子どもが1人いるものの、2人目を持つ予定はなし。何もしてあげられない無力感を感じていた彼は、精管切除など色んな方法を考えていたそう。

そんなときにソーシャルニュースサイトで見たのが、「NES/T」と呼ばれる避妊薬の臨床試験に参加するという男性の投稿。まだ実験段階ではあるものの、肩にジェルを塗ることで精子の形成を抑えられる、と書かれていたのを見たセスさんは「これだ」と思ったのだとか。

2019年、二人はシアトルにあるワシントン大学の不妊治療研究所へ。ここは、男性用避妊ジェルの臨床試験を行っている、世界15カ所の拠点の一つ。ここでの試験に参加している1年の間は、避妊のためにNES/Tだけを使い、コンドームも、ピルも使わないことがルール。

セスさんの最初のハードルは、このジェルに効果があると信じることだったそう。

「消毒用のジェルみたいで、においもそんな感じでした」
「『肌に塗るだけで本当に効果があるのか?』と疑問に思いましたね」

しかしNES/Tを使っていく中で、思いがけない効果も。これまでテストステロンの数値は正常値の中の低い方だったものの、避妊薬に含まれるテストステロンによって上昇し、性欲が増進。「自然な勃起が多くなり、高校時代に戻ったような感じ」だったのだとか。

一方で、ジェルをつける生活には多少の困難も…。体がジェルを完全に吸収するまで4時間かかるため、幼い息子が触らないように気をつけたり、家族でビーチを散歩しているときにはジェルが汗で流れたり、海水で洗い流されたりしないように、常に気にかけていなければならなかったそう。(今後、製法や使用法の微調整が行われる可能性あり)

初めはジェルを塗る習慣が身につかず、塗るのを忘れてケイトリンさんが職場まで届けに行ったことも。そのため、多くの女性がピルを飲むときのようにスマホでアラームを設定し、ケイトリンさんもしっかりとサポート。

「私はセスがきちんとやってくれると確信していました」
「でも最初は常に『ジェルつけた?』と聞いていました。それはピルを飲んでいた私が10年近くやってきたこと。私も一緒に気をつけていれば問題ありません」

まだ断定はできないものの、NES/Tは1~2日ジェルをつけ忘れても、すぐに精子の数は元に戻らないよう。別の参加者のマイク・バートリーさん(33歳)は、一年間のNES/Tの臨床試験中、毎月1、2度はつけ忘れたそう。しかし、精子の数は変わらずゼロだったのだとか。

コンドーム、ピル、ius…など様々な避妊方法がある今。しかしホルモンをコントロールする避妊方法は、女性が主体的になるものが多く、その副作用や金銭的な負担などが問題視されています。今回は、2018年に臨床試験の第2段階が始まり、2023年には結論を出すことが期待されている「nest」の可能性についてレポート。
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デヴ・ベルマンさん(29歳)の場合

シアトル在住のデヴ・ベルマンさん(29歳)が、NES/Tの臨床試験に参加したのは2019年。副作用がなくローリスクなこと、そして男性側の避妊の可能性に魅力を感じ、4年目になるパートナーもとても乗り気だったそう。

「彼女は、『いいね。男性ももっと責任をとるべき』って」
「僕が問題に踏み込んで、恋人が避妊薬によってこれまでどんな経験をしてきたかを実感できるのはいいと思いました」

健康的な体つきのデヴさんは、臨床試験が始まった最初の数週間は、ホルモンによって体重が増加。ジムに行って運動することで、そのバランスは取れるようになったけれど、むしろ面食らったのは、自分自身の感情の高まりだったそう。

突然泣き出したり、普段なら何でもないことで感情的になったり、いつもより不機嫌になったり…。それでも、ピルの副作用によって感情の起伏に苦しんでいたパートナーをより理解できるようになった、と語るデヴさん。

「どういうことなのか、本当にはわからなかったんです」
「自分の問題について話すことを覚えました。もう封じ込めなくなったんです」

ただし、誰もがデヴさんのような経験をしたわけではないよう。マイクさんは、臨床試験に参加した1年間で心身ともに特別な変化はなし。肩の皮膚は多少乾燥したものの、他の人々が経験したような変化や困難はなかったのだとか。

コンドーム、ピル、ius…など様々な避妊方法がある今。しかしホルモンをコントロールする避妊方法は、女性が主体的になるものが多く、その副作用や金銭的な負担などが問題視されています。今回は、2018年に臨床試験の第2段階が始まり、2023年には結論を出すことが期待されている「nest」の可能性についてレポート。
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NES/Tの可能性

今回の臨床試験が終わると、次は第3段階に入り、数千組のカップルや製薬会社が参加することになるそう。アメリカ食品医薬品局が承認し、すべてのプロセスが完了するまでにさらに10年かかるというものの、ブライス博士によると、実際に使った人々の声が非常に役立っているとのこと。

「男性からは、『僕らはこれを続けて使いたいと思っています。いつから可能になるんですか?』といった反応をいただいています」
「女性からは、『前のやり方には戻りたくない。彼がこれを使っているときはよかった』といった声を聞いています」

臨床試験から3年以上が経った今、NES/Tを使っている最中に妊娠したカップルはゼロ。「深刻な事態は一つも起きませんでしたし、全般的に言って、あまり驚くべきことはありませんでした」と語るのは、ワシントン大学医学部教授でシアトルでの臨床試験の主任研究員を務めるステファニー・ペイジ博士。

デヴさんは、薬局で手に入るようになればまた喜んでジェルを使うと宣言。彼によると、最近の若いカップルは、避妊をめぐる問題を含め、時代遅れな恋愛・夫婦関係に向き合う傾向があるそう。

「離婚に関してもそうです。上の世代は不幸せな結婚生活を続けていますが、ミレニアル世代は不幸だったら出て行きます」
「生殖についても同じ。これまで通りじゃなくちゃいけない理由がはないはず。違う方法を試してみればいいと思います」

NES/Tの使用が終わった今、マイクさんの精子は元通りに。デヴさんも同じで、現在はコンドームと排卵日の計算によって避妊をしているのだとか。セスさんとケイトリンさんは昨年2人目を出産し、今は3人目をどうするか議論中。

避妊方法の一つとして、可能性を秘めているNES/T。今後の動きにも注目していきたいところ。

※この翻訳は、抄訳です。

Translation:mayuko akimoto

COSMOPOLITAN US