日本では年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡している「子宮頸がん」。世界全体では減少しているのに、日本では亡くなる人も増加しているとも言われています。

けれど、いまや子宮頸がんはHPVワクチンで予防できる時代。子宮頸がんの恐ろしさや昨年から男性も接種できるようになったHPVウイルスの有効性について、横浜市立大学附属病院産婦人科 部長の宮城悦子先生に聞きました。

そもそも、HPVワクチンとは? 

「子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因で罹患します。性交渉の経験を持つ人なら男性も女性もウイルスを保有する可能性があります」と宮城先生。子宮頸がんを患うと、将来の妊娠・出産に影響が出る可能性もあるので、HPVワクチンで感染そのものをブロックすることが大事だと言われています。

日本で接種できるHPVワクチンは、2価、4価、9価の3種類。宮城先生によると、「数字は予防できる型の数になるので、一番予防性が高いのは9価です」とのこと。

しかし現在の日本では、小学校6年生~高校1年生相当の女性は2価と4価を定期接種(無料)で受けられる一方、9価は2020年7月に任意接種が始まったばかり。まだ自費接種で、病院によって差はあるものの、3回で7〜10万円位の費用が発生するよう。

HPVワクチンの効果とリスク

国家レベルで接種を推奨しており、対象女性の80%の接種が達成できているスウェーデンは、浸潤がんの発生が88%減少したという結果が出ています。

また接種を国のプログラムとして早期に取り入れた、オーストラリア、イギリス、アメリカ、北欧などではHPVウイルス感染や前がん病変(正常組織よりもがんを発生しやすい形態学的に変化した組織)の発生が有意に低下していることも報告されています。つまりHPVウイルス感染が、ワクチンを接種することでかなり高い確率で予防でき、高度の前がん病変や子宮頸がんそのものが予防できているということ!

また、HPVワクチンを接種することで、子宮頸がん以外のがんも予防できる可能性が高いとわかっているそう。宮城先生によると「まだ実証されていないのですが、HPVワクチンの接種で肛門がんや中咽頭がんの発症リスクを下げられるという報告も受けています」。

一方で、気になる接種のリスク。他の多くのワクチンと違い筋肉注射なので、痛みや発赤、腫れの頻度は高いですが、1週間ほどで通常はなくなります。

宮城先生は「慢性疼痛や運動障害、歩行障害などが発生したと報道されましたが、様々な調査よりHPVワクチンの成分そのものとの因果関係はないとされています」と話します。

日本でHPVワクチン接種が進まない理由

2020年の調査ではイギリスやオーストラリアが約80%、ブラジルやイタリアが約70%と先進国の多くは接種率が高いと言われています。一方で日本は10%未満。宮城先生によると、日本は海外と比較しても圧倒的に接種率が低いそう。

日本では2009年12月頃から接種がスタートしましたが、手足のしびれやだるさ、めまい、慢性疼痛、運動障害など様々な副作用や症状が起こるという誤った情報がメディアで報道され、2013年6月よりHPVワクチンの積極的接種の推奨を差し控えるようになりました。そのため、日本では接種率が1%まで落ち込んだ時期も。

けれど、定期接種ではなかった2007年とHPVワクチン接種率が高い2013年を比較したところ、症状の有意な増加が認められず、ワクチン接種と症状の因果関係はないとされ、世界保健機関(WHO)もHPVワクチン接種の推奨を変更しなければならないような安全性の問題は見つかっていないと発表

そこから岡山県や富山県など各自治体や厚生労働省がHPVワクチンについての最新情報を発信するようになり、現在では接種率が10%程度まで回復しました。

昨年から男性も接種できるように

「男性のHPV関連がん(咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなど)が増加していることや、子宮頸がんの原因となるHPVウイルスを根本から撲滅しようという考えから性交渉の経験前の男性にも接種を推奨するようになってきました」と宮城先生。

アメリカ、イギリス、オーストラリア、ヨーロッパでは、すでに男性も無料で定期接種できるように。中でもオーストラリアは15歳のワクチン接種率は男女ともに8割を超えるそう。

日本でも、2020年12月から男性は任意(自費)で受けられるように。宮城先生は「HPVワクチンは、子宮頸がんに対するものだけでないという考え方が国際的には広まってきていますね」と語ります。

公的な定期接種をしていない人は…?

子宮頸がんは、原因であるHPVウイルスに感染しないことによってがんにならないようにする1次予防と、がん検診によるスクリーニングでがんを早期発見・早期治療する2次予防が可能です。

定期接種を受けていない場合、自費での接種も可能ですが「性交渉を開始している年代は、2年に1度の定期的な子宮頸がん検診が重要です」と宮城先生。軽度の前がん病変の80%はがんにならず、一部は自然消滅することもあります。けれど、早期の子宮頸がんは自覚症状がほぼないので、気づかない可能性も。

「不正出血や生理痛が重い、おりものがいつもと違うなどの変化を感じたらすぐにかかりつけ医の先生に相談してほしいですね。まずは異常を感じたらなんでも相談をできる産婦人科先生を探しておくことも大切だと思います」と宮城先生。

HPVワクチンは世界的に普及している安全性の高いワクチン。きちんとした情報源がない噂やSNSなどの誤った情報を鵜呑みにせず、科学的に証明されている正確な情報を探し、自分に合う正しい選択をするようにしたいですね。

  • 日本産科婦人科学会 子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために
    公式サイト
  • YOKOHAMA HPV PROJECT
    公式サイト

宮城悦子教授(横浜市立大学附属病院産婦人科 部長)

年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡している「子宮頸がん」。世界全体では減少しているのに、日本では亡くなる人も増加しているとも言われています。いまや子宮頸がんはhpvワクチンで予防できる時代。子宮頸がんの恐ろしさやhpvウイルスの有効性について、横浜市立大学の教授であり、産婦人科医の宮城悦子先生に聞きました。
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昭和63年 横浜市立大学医学部卒業 
平成10年 神奈川県立がんセンター婦人科 医長
平成13年 横浜市立大学医学部産婦人科講師
平成19年 横浜市立大学医学部産婦人科准教授
平成20年 横浜市立大学附属病院化学療法センター長
平成26年 横浜市立大学大学院医学研究科がん総合医科学教授
平成27年 横浜市立大学附属病院産婦人科部長 現在に至る
平成29年 横浜市立大学医学部産婦人科学教室 主任教授 現在に至る

産婦人科専門医、婦人科腫瘍専門医.細胞診専門医。専門は婦人科腫瘍学。