自分の人生は、自分でしか生きられないし、どう楽しんでいけるかは、毎日の選択と気持ち次第。どんな生き方だって、自分で選んできている人は、いつだって魅力的に見えるし、自然と心惹かれるもの。コスモポリタン日本版では、人生を謳歌しているさまざまな女性の生き方を紹介していきます。

アンヌ・ソフィー・ピックさん/「メゾン・ピック」シェフ

朝から深夜までの立ち仕事、飛び交う怒鳴り声、力仕事…「厨房の世界」は、過酷な試練と極度のプレッシャーの連続だと言われています。

そんな厳しい世界で、フランスで唯一“3つ星”を獲得している女性シェフが、アンヌ・ソフィー・ピックさん。フランス南部ヴァランスにある、創業1889年の家族経営のレストラン「メゾン・ピック」を引き継ぎ、パリ、ロンドン、スイス、そして今春にはシンガポールにレストランをオープンするという発展を成し遂げてきました。

男性社会で栄光を勝ち取った女性はどんな人…? そんな疑問をもとにパリ、ルーブル美術館近くにあるアンヌ・ソフィーさんのレストラン「ラ・ダム・デュ・ピック」を訪れました。

そこで現れた女性は、上品で柔らかな物腰が印象的。取材では優しい雰囲気で周囲を包み込むも、レストラン内のサービスには厳しい眼差しを向けチェックをする――。そんな女性らしさと徹底した管理で、これまでの料理の道を極めてきたことがうかがい知れます。アンヌ・ソフィーさんは、一旦どんな道のりを歩んできたのでしょう…?

【私の生き方】「職場の試練が、“自分”を確立させてくれた」
@ChefAnneSophiePic//Facebook

――学生時代は、ガストロノミー(美食術)の世界とは別の道を歩むつもりだったそうですね。

曾祖母の代から130年続く、3つ星レストランを営む家に生まれました。学生時代は「ラグジュアリー・ブランドの世界」に憧れ、ビジネススクールで経営を学んでいたんです。当時、実家のレストランの厨房に立つことは考えていませんでした。夢だった「モエ・エ・シャンドン」でのインターンシップの経験をし、アジアの国々を旅するなど、とても貴重な体験をしていました。当時はスカイプもスマホもなく、公衆電話に行って家族や友達に電話をする時代。20代前半だった私にとって、“まったくの異文化”に100%浸かる経験は、大きな“学び”を与えてくれました

日本に長期間滞在した際には、遠い国のはずなのに、不思議な精神的な繋がりを感じました。人だけでなく、食や生け花など文化との衝撃的な出合いが多々あり、それらを“理解をしたい”と強く思いました。

新しく出合った文化から積極的に気づきを得ること、そして強い感情を感じる経験が人を大きく成長させてくれると思います。そういった意味で、日本での滞在は、集中して成長できた貴重な期間でした。

――その後、実家のレストランに戻り、厨房で働く道を選ばれました。20代で海外での豊富な経験をした上で、なぜ生まれ育った環境に戻ったのですか?

【私の生き方】女性3つ星シェフ、自信を持つ秘訣は「自分のスタイル確立」
@ChefAnneSophiePic//Facebook
フランス南部ヴァランスにある「メゾン・ピック」

“食”は私のルーツ。一度、自分のルーツからできる限り遠い場所に行くことで、自分にとって一番大切なことに気付くこともあるかと思います。私は“料理”に囲まれた環境に育ちました。実際にそこから離れて過ごしたことで、どれだけ自分が“料理の世界”を愛しているかを知ったんです。

実家のレストラン「メゾン・ピック」に戻ってからは、パティスリー部門の見習いとして厨房のキャリアを始めました。実家といっても、私はシェフとして未経験なのでゼロからのスタート。その上、女性にとって厨房で働くことは、肉体的にも精神的にもかなりハードで、辛い時は、オーナー兼ミシュラン3つ星シェフだった父がいつも私を守ってくれました。

ただ、その父がその数カ月後に他界し…その後は、とても不安定な時期が続きました。そんな中でも先祖代々続くレストランを守らないといけないというプレッシャーもありました。厨房の中で成長していくために周囲のシェフに教えを求めたのですが、彼らは父の死がショックで、それどころではありませんでした。今思い返すと、私自身も当時は厨房に立てるほど精神面も強くありませんでした。

そこで一旦厨房を去り、接客側にまわることに。その後5年ほどウエイトレスなどを経験したのですが、あるとき父が保ち続けてきた“3つ星”を失ってしまったんです…。体中に電気が走ったような衝撃でした。

星を失った理由を厨房で確認するとわかったのですが、スタイルが確立できていなく、すべてが不安定な状態だったんです。そこで、再び厨房に戻ることを決心しました。もちろん、当時の私のままで「3つ星を取り戻せる」なんて甘い考えは持っていませんでしたよ。ただ、レストランが“悪い方向”に進むことを防ぎたかったんです。

――厨房の世界で再び学び始められたアンヌさん。男性ばかりの厨房で、試練の連続だったそうですが

波風が立たない楽な道を生きていたら、思いっきり自分の人生を生きることができなかった

父を自分の親のように慕っていたシェフたちにとって、娘でもあり当時まだ若かった私を受け入れるのは難しかったようで、度々衝突していました。

でも今思うと、これらの厳しい試練や辛い時期があったおかげで、自分の運命を見つけることができたと感じています。もし、波風が立たない楽な道を選んで生きていたら、今のように自分の人生を100%生きることができていなかったと思うんです。

――その環境下で、どのようにシェフとしての技術を磨かれたのでしょう?

先輩シェフの技術を一つ一つ着実に習得していきました。私にとって、なにより恵まれていたのが父から直接“味覚”を学べていたこと。時代とともに世の中もレシピも変化しますが、“味覚”は本質的なもの。これは、父から受け継いだ大きな財産でした。

――努力の結果、12年後に3つ星を取り戻されましたね。アンヌさんのように、自分が選んだ道を極めるにはどうすればいいと考えていらっしゃいますか?

大切なのが、“スタイル”を確立すること。私の場合は、食材の組み合わせを地道に探求し、確立していきました。でもそれは、すぐに達成できることはできません。素晴らしいアイデアは、たった数日間では思いつかず時間がかかることだし、出会う人々の影響、そして自分自身がどれだけ好奇心旺盛な状態なのかにもよります。

また、“インスピレーションのためのネットワークづくり”も大切です。新しい人との出会い、新しいアイデアなどインスピレーションを大切にしています。特に異業種の人から学ぶことで、同業者にはない独自のスタイルを極めることができる。例えば、香水の世界やワインの世界はフレーバーという点で料理と繋がっています。調香師、ソムリエなどと意見交換をすることで、物事を違った角度で見れたり、新鮮なインスピレーションを得ることができるんです。

私はトレンドを追うのは好きではありませんが、インスピレーションを追いかけるのが大好きです。

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――とても「芯の強さ」を感じるのですが、ブレない本当の自信を手に入れるためのアドバイスをお願いします。

直観を研ぎ澄まし、自分の秘めた可能性に気付くことで、“原石“を”宝石“に変えることができる


自信があるという状態は、「ありのままの自分でいられること」だと思います。それには“直観”を信じて、従うことが大切。

誰でも秘めた可能性を持っています。直観を研ぎ澄ましてそれに気づくことで、自分で原石を宝石に変えることができるんです。そして、その過程を夢がかなうまで諦めずに続けることで、自信を持つことに繋がるのだと思います。

――最後に、男性社会で働かれてきたアンヌさんだからこそ“男女平等”への思いはありますか?

全員がそうとは言いませんが、多くの女性の特性には「感情の豊さ」があります。料理の世界において、それが繊細な創作という宝にもなりますが、レストラン経営をする際はマイナス点にもなりえます。一方で男性には、男性特有の長所や短所がありますよね。

女性だけ、男性だけと偏るのでなく、「男性と女性が調和して一緒に築く」ことで、素晴らしい仕事ができるのだと思います。


昔は内気だったというアンヌ・ソフィーさん。そんな彼女が男性社会で"ミシュラン3つ星”という栄光を勝ち取った背景には、父が守ってきた家族代々のレストランを守るという強い思いがありました。

自分なりの方法を見つけ、諦めずに鍛錬し続けてきたことで、再び3つ星を得るという達成、そして自分を信じることに繋がっている――と感じられました。

【アンヌ・ソフィーさんから学んだ“自分らしく成功する”秘訣】

・一度、自分の今いる場所から離れてみる経験は大切。そうすることで、「自分らしい生き方」を歩むことに繋がることも。

・根本に夢や目標があれば、職場での辛い時期や試練は、人生にとってプラスの出来事に転換できる。