メイクアップアーティスト/「CHICCA」ブランドクリエイター吉川康雄さん

各国のモード誌のカバー撮影、ファッション撮影をはじめ、広告やコレクション、セレブのポートレートなど、幅広く活躍している、メイクアップアーティストの吉川康雄さん。吉川さんが考える、日本人らしい美しさ、メイクアップの極意をインタビュー。

――世界から見た時の"日本人らしいの美しさ"はどんなところですか?

100点満点になりきれない、不完全なところが美しい

僕自身、日本人の顔が好きです。いわゆる美の方程式からすると、決して100点とはいえないところがありますが、その不完全なところも含めて、日本人特有の美しさを作り出していると思います。

そして、なりより、メンタリティが独特です。顔の造形だけでなく、美しさにはメンタリティ、パーソナリティが反映されます。日本人の多くは、恥ずかしさやコンプレックスを持っています。もちろん個人差はありますが、そういったメンタリティも含めて、日本人らしい美しさへと導いていると思います。

――日本は、どちらかというとかわいいが主流ですが、その"かわいい文化"についてどう思いますか?

20代はかわいいを目指しているかもしれない。でも、もう少し大人になると、自分らしい美しさを求め出すと思うよ

日本は、みんなと同じメイクやおしゃれをすることで安心している人が多い印象があるかな。見た目だけのことではなくて、かわいいを目指している人は、あえて声を高くして話してる人もいるしね。中には、かわいいという方程式に自分を押し込めて、自分を否定している人もいるように感じています。

もしかしたら、コスモポリタンの世代はかわいいを目指している人が多い世代なのかな。もう少し年齢を重ねて、成熟してくると、自分らしさを探し始めるのかもしれないね。ただ、どの世代の人にもいえるのは、すべての人に当てはまる、美の方程式も、メイクアップ法もないんですよ。「あの人の〇〇がキレイだよね」と思われなくても、「あの人、"なんか"キレイ」と思わせるのがメイクの楽しさでもあると思います。

僕がディレクションしているコスメブランド「CHICCA(キッカ)」は、実はあまりかわいく変身できるアイテムはないんです。僕の言っているかわいいとは、人間らしくない、人形っぽいかわいらしさを差していますが、人間っぽくないかわいさ、きれいさは、美しくないと感じています。だから、「CHICCA」は、とことんメイク感を作らないプロダクトを展開しています。

例えば、"ツヤとハリのある肌"が美しいと言われていますが、雑誌や広告に登場するモデルさんの肌感は、メイクの力ではなく、加工によって作られたもの。あのメイクを実現しようと思うと、人間らしさのない、人形のような肌感になってしまいます。

僕がこだわっているのは、肉眼でキレイに見えるメイク。キレイな肌を作ろうと思うと、下地、ファンデーション、コンシーラー、仕上げのパウダーと、どんどん重ねて、肌トラブルのないキレイな肌を演出しているイメージがありますが、「CHICCA」のオイルファンデーションは、素肌に直接のせて人肌を再現するような、メイクした感じのない肌に仕上げてくれます。最終目標は、トラブルのない、人間らしい素肌に見せること。

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――でも、肌トラブルがあると、どうしてもファンデーションで隠したくなります。

メイクは、肌トラブルを隠すためではなく、美しさを表現するもの

色ムラやシミ、吹き出物があると、確かに隠したくなりますよね。でも、本当の意味で、ツヤとハリのある肌というのは、元気に見えることだと考えています。ヘルシーな肌ってセクシーでもありますよね。セクシーとは、生命力があるということ。生きるエネルギーが感じられる肌は、美しいですよね。それをメイクで再現することが大切。

ファンデーションは皮脂のツヤ感を再現するアイテムです。そして、体温の感じない肌を作る役割もあります。体温を感じない肌だと、先ほどお話した生命力のある肌と矛盾してしまいますが、生命力=血色のある肌を作るのはチークの役割。肌色がよく見えるファンデーションを選ぼうとするのではなく、デコルテと同じ色を選んで、少し顔色が悪いかなぐらいでOKその上にチークを重ねて、体温がグッと上がった血色のある肌に仕上げます。

そばかすやシミなどを隠したい時は、その部分にポンポンと、スタンプを押すようにファンデーションを乗せるだけで気にならなくなりますよ。

――吉川さんが考えるメイクアップの極意とは?

いつもの自分の美しさに出会うためにメイクをする

もちろん、いつもとは違う自分に出会える楽しみもありますが、素の美しさに出会うことがメイクアップの極意だと感じています。

女性は、性別的にも、美しく生きなさい、美しくて当たり前だと思われる存在。多くの女性が、美しさを求められることの楽しさと、苦しさを持ち合わせていると思います。そんな苦しみから逃れるために、多数派の美しさを真似てみたり、コンプレックスを隠すために厚塗りをしてみたり。本来キレイになるはずのメイクアップが、自分をみじめにしてしまっていることも。だからこそ、自分の個性を見つけて、表現していくことが大切なんですよね。

CHICCA」のプロダクトは、見た目の色がそのまま発色するわけではなく、さらにいえば、似合う色、似合わない色という概念もありません。それは、同じ色のアイテムを使っても、ひとりひとり色の出方が異なり、ひとりひとりに似合う色になるように作っているからです。どれでもあなたらしい色になりますので、今まで、"似合わない色"だったのが、"お気に入りの色"になり、メイクを楽しむ幅が広がります。

そんなプロダクトを通して、本来のメイクアップの役割である、"素の美しさ、自分らしい美しさを見つける"サポートができたらうれしいです。

メイクは毎日することだからこそ、いつもとは違う自分ではなく、いつもの自分を表現してほしいと思っています。

最後に、吉川さんは、「実は、僕にもコンプレックスがあり、それがメイクアップを極める探求心、原動力になっているんですよ」と話してくれました。だからこそ、より多くの女性が自分らしい美しさと出会えるように、メイクアップアーティストとして、ブランドクリエイターとして、多様性のある美しさを届けてくれているのかもしれません。

【今すぐ真似できる吉川流のメイクアップテク】・ファンデーションはデコルテの肌色に合わせる・ファンデーションで血色をなくし、チークで血色を生む・消したい肌トラブルは"スタンプ塗り"で消す・遠くから見ると「ノーメイク?」と思われるぐらいのカラー使いを意識する