2023年12月13日に、一日の延長を経て閉幕したCOP28。そこでは、どんなことが合意されて地球で暮らす私たちにどんな影響を及ぼすのか、そしてその合意はどれだけ気候変動解決にコミットをする内容なのかーー合意がなされたテーマごとにMedia is Hopeの名取由佳さんが解説します。

1)化石燃料からの脱却

産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)での開催に加えて、化石燃料企業の最高経営責任者(CEO)であるスルタン・アル・ジャベル氏が議長を務めるということから、波乱の幕開けとなった今回のCOP28。開催前から、化石燃料に関する合意の行方に多くの注目が集まっていました。

開催当初の草案には、化石燃料の「段階的廃止(phase out)」という提案が盛り込まれていました。しかしこの合意がまとまらず、一度は文書から「廃止」をうたう文言が消えたことも。

気候変動によって国自体を失いかねないツバルやモルディブなどの島諸国や、EU加盟国やアメリカなどからも強い反発を受け、最終的な合意文書では「化石燃料からの

段階的脱却(transition away)」という着地に。

やや表現が弱められましたが、すべての化石燃料からの脱却に関して言及がなされたことは歴史的な合意だと言われています。開催当初、とても厳しい目を向けられていたジャベル氏にも、賞賛する声も上がりました。

日本政府が発表した会議結果の概要はこちら

a group of people holding flags
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2)再生可能エネルギーの普及

世界の気温上昇を1.5℃に抑えることは「すべての化石燃料の段階的廃止なくしては不可能である」とアントニオ・グテーレス国連事務総長は述べました。現状を鑑みると、本来は化石燃料の廃止について議論している余裕などはなく、「どうやって廃止していくか」「どれだけ早く廃止するか」を決議していくべきフェーズにあるのです。

※2015年に開催されたCOP21で採択されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度よりも十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求する」という世界共通の長期目標が掲げられました。

そして、今回のCOP28では「2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にし、エネルギー効率改善率を世界平均で2倍にする」という文言が合意文書に記されています。化石燃料からの脱却していくと同時に、再生可能エネルギーの普及も不可欠なことです。

a crowd of people outside a building
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会場の様子

1.5℃目標の実現には、2035年までに世界全体で温室効果ガスを60%削減(CO2は65%削減)することが不可欠だと言われています。そして日本が掲げる「2030年目標(2030年までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指す)」では、この1.5℃目標の達成は厳しいと見られています。

2024年中には日本を含む世界196カ国で2035年の新たな目標値が決定され、気候変動枠組条約事務局に提出することになります。そのため今回の合意をふまえて、世界での1.5℃目標の実現を目指す「2035年目標」を25年までに策定し、その達成に向けて、いかに実装していけるかが鍵となります。

3)Non-State Actor(ノンステートアクター)

世界で気候変動対策に大きな影響力をもっているのは、国家(政府)だけではありません。国家(政府・ステート)以外の組織として、企業や自治体、NGO、市民団体などが主体のノンステートアクターも、対策の方向性や方法を形づくることができます。

2017年6月にアメリカのトランプ元大統領がパリ協定離脱を表明した直後には、米企業や大学、州、都市が「We Are Still In(我々はパリ協定に留まる)」とメッセージを掲げました。「政府がパリ協定を離脱してもパリ協定に残る」と宣言したネットワーク (WASI) が誕生したことも。

これまで、環境問題といった社会課題に対するアクションはノンステートアクターが主導となって動きを加速させてきた歴史があります。

国家(政府)の主体的な取り組みに期待する一方で、この合意文書を社会の中で実現していくためにはあらゆる立場の人たちの尽力が必要であり、国家(政府)だけに頼らずともできることがあるのです。

a row of flags
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COP開催から30年

COP28には約10万人が参加し、これまでのCOPでは最多の動員を記録しました。初めての開催から30年、つまり、気候変動の脅威が認識され、科学の場だけではなく、国際政治の場で具体的な対策に関する議論がはじまってから“もう”30年。

それでも世界各国では、地球温暖化の一番の原因である化石燃料に依存する状態をいまだ続けてしまっています。これから先、数千年の地球の未来を背負う時代を生きる、今の私たちの唯一の希望は「技術的にも経済的にも解決策がはっきりしていること」。

今回のCOP28で、196カ国が化石燃料からの脱却と、再生可能エネルギーの普及に向け、歩みをともにはじめました。 COP28閉会会合で、気候変動条約事務局長のサイモン・スティル氏はこう語ります。

「ドバイで化石燃料の時代に終止符を打つことはできなかったが、今回の結果は、化石燃料時代の終わりの始まりだ」