米サンディエゴ在住のドラァグクイーンであり、ゴスペルシンガーのフレイミー・グラント(41歳)によるデビューアルバム『Bible Belt Baby』がこのほど、iTunesのクリスチャン・ミュージック・チャートで1位を獲得。この“異例”ともいえる快挙が、アメリカで話題を集めています。

同アルバムに収録されたシングルのひとつ『Good Day』は、トップソング部門でも2位にランクイン。プライベートではノンバイナリー(自身を男女の二軸だけでとらえない性)を自認し、ドラァグを通して多くの人が自分らしく生きられるよう後押しするフレイミー。

キリスト教徒でクィアな人物として初めての偉業に対し、<TODAY>のインタビューで喜びを露わにしました。

「いつか(アメリカ人クリスチャン・ポップ・シンガーである)エイミー・グラントが演奏するようなステージに立ちたいと思いながら、16歳のときから曲を書いていた自分にとってこれはとても大きな出来事です。すっごく意味があるし、本当にうれしい。心から感謝しています」
これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

7月28日時点でTikTokに投稿した動画では、そのとき4位にランクインしたことをフォロワーと祝福。「信じられない。これでクリスチャン・ミュージック・チャートにはじめて入ったドラァグクイーンになる」と動画内でコメントしました。

教会のコミュニティでは本当の自分が出せず...

インタビューでは、自身の生い立ちについても言及。ノースカロライナ州アシュビルで、キリストの伝えた福音にのみ救済の根拠があるとする思想をもつ「キリスト教福音派」のコミュニティで育ち、幼い頃は地元のクリスチャンの書店で買える音楽以外を聴くことは許されていなかったと言います。

一方のフレイミーは「(当時から)ドラァグへの憧れはいつもあった」そう。子どもの頃は“伝統的”なジェンダー観しか教えられず、教会のコミュニティでは本当の自分を受け入れる土台を育むことは難しかったと振り返ります。

大学卒業後、フレイミーは新しい教会を立ち上げるチームの一員としてサンディエゴに移住。そこで「エクソダス・インターナショナル」というゲイ向けのコンバージョン・セラピー(個人の性的指向や性自認を変えることを目的とする転向療法)に5年間参加することに。

「私はとにかく、周りのみんなに溶け込みたかった。それくらい、私が内面化した同性愛への嫌悪(ホモフォビア)は根深かったのです。しかしその経験を経て、私はついにこう思うようになりました。『できることはすべてやった。私のセクシュアリティは変わらない』と」

※現在、この組織は存在しません

信仰への思いとの葛藤も

Tiktokに投稿したある動画では、「自分は(宗教上の)罪を犯した人」として扱われてきました」と言い、それから宗教によっては同性愛などが“罪”であるとされる現状に「生まれたときはみんな平等であるはず」と言及したフレイミー。

「信仰をしたい」と思う気持ちと自身のセクシュアリティの葛藤に折り合いがつけられるようになったきっかけは、2017年に始めたポッドキャスト『Heathen』だったそう。当時、福音派のキリスト教の信仰を離れ、自身の宗教的信念を見つめ直したのだと言います。

ポッドキャストを通して同じように信仰との向き合い方を探るミュージシャンらとの対話を重ねることで、キリスト教徒のなかでもいろんな考え方があると気がついたフレイミー。今もキリスト教徒として、信仰を続けます。

「ドラァグクイーンの姿できてほしい」と呼ばれ...

フレイミーがドラァグパフォーマンスをはじめたのは、新型コロナウイルスによるパンデミックにより、家での時間が増えたことがきっかけだったそう。TikTokでも投稿した動画が多く再生されたりして、徐々にドラァグクイーンとしての知名度を高めていったと<PEOPLE>へのインタビューで明らかにしました。

やがて、当時所属していた進歩的かつ包括的で、LGBTQ+を肯定している教会の牧師からドラァグクイーンの姿で「説教(口頭で教典を説くこと)」をしてほしいと頼まれることに――。

メイクをする様子などを写した動画には、似た悩みをもつ人から、感謝の気持ちや、エンパワーされているという思いをつづったコメントが寄せられるように。<TODAY>では、動画がバズったことに対しての思いを語りました。

「『自分が理解されていると感じさせてくれる。安心できる。本当にありがとう』といったみんなのコメントを見ていると、涙が止まらなくなりました。それでわかりました。このドラァグをただ自分の“インナーチャイルド(子ども時代の負の記憶や感情)”を癒すためにやっているつもりだったけど、実際には多くの人々に届いていたんです」

次世代の子どもたちへ伝えたいこと

フレイミーのデビュー・アルバム「Bible Belt Baby」は、宗教や自身のジェンダー・アイデンティティなどと向き合う“道のり”を描いた楽曲がそろいます。

フレイミーは自分と同じようにクリスチャン・コミュニティで育った子どもたちが自身の音楽を見つけてくれることを願い、自分の存在がクリスチャンの世界にいるLGBTQ+の若者たちに安心感を与えることを願っているのだとか。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Good Day (feat. Derek Webb)
Good Day (feat. Derek Webb) thumnail
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そして近年アメリカで反LGBTQ法(性的マイノリティの権利を制限する内容を盛り込んだ法律)が問題になる中、フレイミーは音楽業界誌<ビルボード>のインタビューで、

クリスチャン・ミュージック界でクィアであることを表現することが今ほど重要だと感じる時はないと語りました。

「私がクリスチャン・ミュージックを選んだのは、それが私にとって重要なことだからです。そして私がここにいる理由は、これを聴いて育っているクィアの子どもたちがまだいることを知っているからです」
「彼らには選択肢があることを知ってほしい。私のように、無理に順応しようとしたり、追い出されたりするような経験をしてほしくないんです」

今後はあと一カ月で仕事を辞め、ノースカロライナ州に移り住み、シンガーソングライター兼ドラァグクイーンとして活動を始めるというフレイミー。同じく自身の信仰とクィアであることで悩む人に向けて、エールを送りました

「きっと人々はあなたの挑戦に対して、『できる訳ない』と言います。『教会でドラァグはできない。ドラァグそのものもできない』と。でも私は言います。『なんだってできるんだよ』と」