ボディイメージやメンタルヘルスに対する価値観が変化しつつある昨今、ルッキズム(外見至上主義。社会が定義した美の基準に基づいて、外見や容姿によって人を差別すること)を助長することが懸念されている「ミス・コンテスト」。

日本でも一部の大学でコンテストの在り方を変えつつある中で、欧米でも有名なコンテストが改革に乗り出している。その一つが、「Miss America(ミス・アメリカ)」。2018年には参加希望者の声を反映して水着審査をなくしたことが注目された一方で、まだ大いに改善の余地があることをミス・アメリカ機構の副会長が指摘している。

100年以上の歴史を持つミスコンの暗黒面

1921年にアトランティック・シティで“初代ミス・アメリカ”が誕生してからというもの、100年以上にわたり「若い女性たちに夢と力を与える存在」を目指して運営されてきた、「ミス・アメリカ」。1968年には、一方的な美の基準を押しつけて女性を審査し、それをビジネスとしていることに批判の声が上がり、大規模なデモが行われたことも。

初代ミス・アメリカ
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初代ミス・アメリカのマーガレット・ゴーマン(写真左)、1968年にアトランティック・シティで行われた大規模なデモの様子(写真右)。

今年に入り、同コンテストの過去の参加者や優勝者たちが“ミス・アメリカ”としての経験を語るドキュメンタリーシリーズ 『Secrets of Miss America(原題訳:ミス・アメリカの秘密)』が配信に。

予告編では、「暗黒面があり、恐るべき虐待が続いている」「もし抗うことがあれば、あなたたちを失格にすると言われた」「人生で最もつらい時間だった」「アイデンティティを失った」と参加者たちが話し、“華やか”にみえた世界の中に苦しみがあったことが明かされている。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
"Secrets of Miss America" Premieres Monday, July 10 at 10pm ET/PT on A&E
"Secrets of Miss America" Premieres Monday, July 10 at 10pm ET/PT on A&E thumnail
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極限状態まで追い込まれる出場者たち

特にメンタルヘルスへの影響については顕著で、ミス・アメリカ機構(MAO)やスポンサーとの契約に大きなプレッシャーが伴うことや、非現実的な“美”を求めるコーチなどの“アドバイス”によって過度な減量を余儀なくされていたことから、摂食障害をはじめメンタルヘルスの問題を抱えている参加者が多いとも言われている。

実際に、「14歳にも関わらず、コーチからあと5kg痩せないと勝ち残れないと言われた」、「水着審査で体を美しく見せるために24時間にわたり水分補給を絶った状態で参加した」、「減量のために、ツナとレタスだけを食べ続ける日々で悲壮感が漂っていた」などと、“美”を追求するために極限状態に追い込まれていたことを明かしている動画も公開されている。

2014 miss america competition preliminary round 3
Donald Kravitz//Getty Images
2013年の「ミス・アメリカ」水着審査にて。

2011年に17歳で優勝したテレサ・スキャンランさんは常に完璧でいなければならないというプレッシャーに押し潰されそうになり、「周囲をがっかりさせるくらいなら、この世からいなくなればいい」と思っていたことを明かしている。彼女はその後、しかるべき治療を受け、現在は精神面の健康を取り戻したという。

他にも、パートナーの家族が危篤であったにも関わらず、スポンサーとの契約があったため仕事を優先しなければならなかった人、精神的な辛さから母親同伴で活動をしたいことを団体に伝えたら「連絡を取ることすら禁止された」と話している人もいる。

「変化に失敗した」

ミス・アメリカ機構の会長クリステル・スチュワート氏は、過去の<The New York Times>によるインタビューで、「ミス・アメリカは“仕事”であることを理解されていないことが多い」との考えを述べていた。実際は給与が発生し、仕事として要求されることや職務があり、その中にはイベントへの出演や何時間ものチャリティワークが含まれるのだという。

「煌びやかで楽しそうに見えますし、実際そうなのです。でも、仕事という一面もある。長時間労働、それに移動も頻繁にあります」

実際にミス・アメリカたちは、移動が重なる過密スケジュールや想定外の役割にストレスを感じている人が多く、一方でこのようなストレス下でのサポート体制が整っていないことが明らかになっている。

ドキュメンタリー作品内でその実態について明かしたのは、ミス・アメリカ機構でマーケティングとディベロップメントの副会長を務めるブレント・アダムス氏だ。

「どのように改善できるのか、常に探っています。重要な問題ですし、共通方針を決められたらと思います。ですが、まだ何も定まっていないんです。我々は団体として、時代に合わせて変化することに失敗をしたのだと思います。今後も前向きにミス・アメリカが必要な時期に見直しを図り、進化をし続けなければ、存続は危ぶまれるでしょう」

同作品では他にも、「ミス・アメリカ」が人種差別など多くの問題を抱えていたことが告発されている。作品の反響や過去の出演者の声は、今後コンテストの在り方にどのような変化をもたらすのだろうか――。