11日に終了した、今年の「ノーベル賞」発表。今年は13人の受賞者が決定したなか、女性の受章者は、平和賞を受賞したジャーナリストのマリア・レッサさん1人。ノーベル賞の120年の歴史を見ても、受賞者の男女比率には大きな差があり、近年これが議論を呼んでいる。

女性の受賞者は、全体のわずか6%

昨年は4人の女性が受賞し、うち2人は史上初めて女性のみのペアが化学賞を受賞するという快挙を達成したことが大きな話題となった、ノーベル賞。

ところが、今年の女性受賞者は、平和賞を受賞したフィリピンのジャーナリストであるマリア・レッサさんのみ。STEMとも呼ばれる生理学・医学賞、物理学賞、化学賞では女性受賞者は選出されないという結果に。

10th anniversary women in the world summit
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ノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサさん。

120年もの歴史を持つノーベル賞で、これまでに女性が受賞したのは合計29回、わずか約6パーセントに留まっており、さらにSTEM(生理学・医学賞、物理学賞、化学賞)での女性受賞者は約3パーセントなのだとか。

▼昨年までの男女比率。上から平和賞、文学賞、生理学・医学賞、化学賞、経済学賞、物理学賞。物理学賞では4人の女性受賞者に対して、212人の男性受賞者が。2018年にはドナ・ストリックランド博士が女性として55年ぶりとなる物理学賞受賞を果たした。
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背景にある複合的な社会課題

以前と比べ、理系分野での女性の活躍が目覚ましいとされる一方で、認知が進まなかったり、ノーベル賞をはじめとする権威ある賞に反映されないのはなぜなのか。その背景にあるのは、これまでの社会構造や教育などの複合的な課題だという。

BBC>では、その例の一つとして、幼い頃に「女の子は理系分野には向いていない」などと刷り込まれることを挙げており、これらの偏見や思い込みを取り除くために教育改革が行われているとのこと。

それでも、理系分野で研究をしたり働いている女性には、その活躍を阻む“天井”があると言われている。たとえば、妊娠や出産によって研究時間をとりづらくなってしまったり、男性比率の高い職場に身を置くことでセクハラ被害にあったり、孤立感を味わうことも少なくないという。

それだけでなく、女性は仕事上のネットワークを作る社交場からも除外されることもしばしば。同志との出会いが少ないため、他の女性研究者たちと協力することも難しくなるんだそう。このような様々な要因が重なり、女性科学者のロールモデルが誕生し難いと言われている。

2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(写真左)と、2018年にノーベル物理学賞を受賞したドナ・ストリックランド博士(写真右)。
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2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(写真左)と、2018年にノーベル物理学賞を受賞したドナ・ストリックランド博士(写真右)。

ノーベル賞で「クオータ制は導入しない」と明言

さまざまな分野で平等性を推進するため女性や人種を一定にするクオータ制が取り入れられている一方で、ノーベル賞はこの制度を導入しないと明言。

ノーベル賞の物理学賞や化学賞などの授与をするスウェーデン王立科学アカデミーのゴラン・ハンソン所長は、その理由をこのように明かしている

「たとえばある年に女性だけが受賞したとしましょう。そうなったら、彼女たちが受賞したのは“ベスト”だからではなく、“女性だから”だと言われてしまうのではないでしょうか。それを私たちは懸念しています」

また、ノミネーションを決めるノーベル委員会に女性を増やすべきだという声が上がっていることについては、「女性の割合を増やしたいと考えています」などと話しているハンソン所長。

一方で、ノーベル賞のノミネートは過去の研究がもとになっているため「私たちは、時には何十年も前の研究を審査していることもあるんです」とし、現代の女性研究者の活躍がすべては反映されていない可能性も示唆。

2020年にノーベル化学賞を受賞した、ジェニファー・ダウドナ教授(写真左)とエマニュエル・シャルパンティエ教授(写真右)
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2020年にノーベル化学賞を受賞した、ジェニファー・ダウドナ教授(写真左)とエマニュエル・シャルパンティエ教授(写真右)

今後の課題

理系分野での女性の活躍を後押しする「Association for Women in Science」の最高責任者であるサンディ・ロバートさんは、ノーベル賞の在り方や課題について問題提起

「過去50年で、サイエンスの分野での女性やマイノリティの参加率やリーダーシップ、そして評価は上がっています。スウェーデン王立科学アカデミーには、過小評価されている科学者を平等に扱い、彼らの業績について学んでほしいと思います」

オックスフォード大学で物理化学を教えるスーザン・パーキン教授も、女性は男性に等しく科学の分野で大いに貢献していると話し、今後の課題をこう述べている

「どのような人が賞にまつわる決定をしているのか、そこに問題がないのかをまずは見るべきです。そして、選出プロセスを時代に合ったかたちでアップデートさせなければなりません。科学の発展を目指し努力しているコミュニティを大切にするために」