「KEETO(木糸)」は、日本の杉を使った国産の自然糸で、次世代のサステナブルな天然繊維として、注目を集めています。

今回は、徳島県上勝町に位置し、KEETOを使った企画制作販売などを手掛ける「合同会社すぎとやま」の代表・杉山久実さんに、KEETOのもつ特徴やKEETO生産と町の関係性、そして今後の展望についてお伺いしました。

【INDEX】


「KEETO」とは?

KEETOとは、日本の杉の木を使って作られる国産自然糸です。KEETOの生産には、直径20cm前後の、材木として使用するには太さが足りなくて、燃料用チップになることが多い木が使われます。また、原料となる杉の木は全て国内で切り出された間伐材でもあります。

KEETOの生産工程は、はじめに杉の木を製紙用チップにし、そこから繊維を抽出して紙を作り、それを細くカットし撚ることで糸にしていくというもの。そこから、製紙用チップにするために県外の工場にもっていったり、紙にするための専門の工場にお願いしたりと、一つひとつの工程を、国内にあるそれぞれ違った専門の協力工場に任せてKEETOが出来上がります。

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合同会社すぎとやま
(左)木を切り出している様子(右)KEETO製造の様子

「KEETO」の特徴

抗菌性

KEETOの特徴の1つとして、高い抗菌性が挙げられます。これは、原料となる杉の木がもつ抗菌作用が糸にも表れていることが由来しています。

通常、抗菌効果のある製品は後から抗菌加工をしている場合が多く、洗濯のたびにその効果が薄れていくことも少なくないそう。ただ、KEETOの場合は、そういった製品の約6倍もの抗菌性があり、10回洗濯してもその効果が落ちづらくなっています。

乾きやすさ

KEETOを使ってつくられたバスタオルやハンドタオルなどの製品は、一般的に広く使われているものよりも軽くて乾きやすいのが特徴です。また、毛羽立ちにくく、吸湿・吸油性にも優れています。

天然繊維ならではの色

色が均一ではなく、赤っぽい糸や白っぽい糸など、一つとして全く同じ色の糸が存在しないのがKEETOの特徴。これは、原料の杉の木がもつ色に左右されたもので、自然な色合いが楽しめます。

耐久性

KEETOを使った製品の耐久性は、通常のデリケートな衣類と同じような感じです。洗濯をする際はネットに入れるだけでよくて、漂白剤は使用せず乾燥方法などに気をつけて扱えば、問題なく使い続けることができます。

また、KEETO自体は糸単体としては切れやすいものの、タオルや靴下など、製品材料として使用する際には、一般の製品と同じ耐久性をもちます。

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合同会社すぎとやま

徳島県上勝町を拠点にする強み

KEETOを国内で生産する強みは「トレーサビリティ」にあります。これは、上勝町の杉の木からはじまり、国内の様々な工場と連携してKEETOを作り上げているからこその強みだと言えます。

そして杉山さんは、古くから上勝町の人々の暮らしのなかにある「自然」「知恵」「技術」を、“現代風”に応用してものづくりをするとどうなるのか、と思い日々挑戦を続けてきました。

「『KEETOは国産の木からできている』というのは、自信をもって言えるところです。考え方としては、源流に戻って、でもやることは今の時代に合わせる、というのがすごく好きなんです」

このような“ローカルファブリック”的な考えは、杉山さんが代表を務める「すぎとやま」のものづくりの指針にも表れています。上勝町は元々小さな村が集まってできており、「工夫することが当たり前」という精神が今も残っている地域。そしてこれが、「すべてはあるもんで(あるものを使って)」という製品作りの指針となりました。

また杉山さんは、消費者が実際にKEETOに触れられる機会として「KEETO WORKSHOP(ワークショップ)」を開催しています。これまでは、若い人や感度の高い人、KEETOの生産に携わっている知り合いの方などの参加が多かったものの、最近は地元のお年寄りの方たちが参加してくれるようになり、参加者の層にも変化があったそう。

「お年寄りの方が来てくれるようになったのは、すごく嬉しいことです。やっぱりそれって、元々上勝町に『織る』『染める』『縫う』っていう文化があったっていう証拠だと思うんです」
「自然と興味をもって『染めがしたい』って来てくださる方って少ないんじゃないかと思います。だから、お年寄りの方たちは『懐かしい』っていう感覚をもって参加してくれているんだと思いますね」

※トレーサビリティとは、ものの流通経路を、生産段階から消費段階まで追跡可能な状態にすることです。

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合同会社すぎとやま
KEETO WORKSHOPの様子


「KEETO」が抱える課題

前例がない挑戦

KEETOを開発するうえでぶつかった壁が「前例がない」ということ。まだ誰もやったことがないからこそ挑戦したい、と思っても、前例がないからという理由で製品の販売に協力してもらえなかったこともあるそう。

「 前例がないからといって『コットン糸と同じように…』と既存のもので例えてみたところで、全く同じではありません。とても難しい場面もありますが、成功も失敗も1つずつ積み上げていっている状態です」
「ただ、これは新しいことにチャレンジするときには当たり前にぶつかる壁ですよね。『苦労』と思うと楽しくないので『トライ』の精神を大切にして、前例が無いことを頼まれても『じゃあ、やってみます』と答えることを意識しています」

不均一の良さを伝える

杉山さんが挙げるもう1つの課題として、「不均一の良さ」を伝えることの難しさがあります。多くの大手繊維メーカーが生産効率や品質管理などの観点から商品に均一さを求めるなかで、どうやったら自然由来のKEETOの色の個体差を理解してもらえるか、杉山さんは日々考えています。

「様々な面で時代は変わってきているので、大きいメーカーが1つでも変わってくれたら、その他の多くの企業も変わってくれると思っています」

なかには「糸の色が以前と違う」という声が寄せられたことも。ただ、これが自然の良さであり、その時々で違った色合いが見られることがKEETOの魅力でもあります。そのうえ、糸の色を均一にするために漂白などの工程をふむこともないので、とても環境に良くてサステナブル。杉山さんは、こういったKEETOの魅力を、メーカーの方たちに粘り強く説明しているそう。

「KEETOを広めるためには大きいメーカーに扱ってもらう必要があります。ただ、『色を統一して欲しい』と言われても、それには応えられません。本当に一回ずつ根気強く説明していくしかないのか、良い方法を模索している段階です」
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合同会社すぎとやま

「KEETO」のこれから

現時点で、KEETOを使ったタオルや靴下などの製品には、商品性や使い勝手を上げるために自然糸以外の繊維も含まれています。一方で、KEETOや天然繊維だけを使ったデザインやクオリティの高い商品が完成しつつあります。

「100%KEETOを使った製品を実現するために必要なのは、『話すこと』だと思っています。私がKEETOについて伝えていくことで、『私なら手伝えるよ』とか『挑戦したいから素材を見せて』と声をかけてくれる人が出てくるかもしれませんよね」

また現在は糸の強度を高めるため、杉の木だけではなく麻の繊維を入れています。これも、たくさんの人にKEETOの存在を知ってもらうことで、いずれすべてが木の繊維の木糸が実現する可能性が高まります。

なかでも杉山さんが、「1番の野望」と語るのが、見た瞬間毛糸だとわかるようなウールマークのように、KEETOのロゴを見ただけで「国産の木を使った糸だ」と認識されるようになりたい、ということ。

「 たとえば、ボタンが取れたときに、直そうと思って裁縫セットを開けると、中にはコットン糸、毛糸、シルク糸があったりしますが、将来的にはその中の一つに木糸が入る、というのが私が目指す日常です。しかもそれが国産だったらなお良いですね」

たくさんの可能性を秘めた「KEETO」が、“KEETO100%”の商品として私たちの生活に溶け込む未来も、そう遠くないかもしれません。

合同会社 すぎとやま

「すべてはあるもんで(あるものを使って)」という言葉を掲げ、KEETOやKINOFをはじめとした、木を使った糸・布製品の企画制作販売を手掛ける。他にも地域の特産品を使った商品企画販売や商品コーディネートなど、その事業は多岐にわたる。

合同会社すぎとやま 公式Instagram

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