SDGsの達成度は?国連の報告書からひも解く「2023年の現状」
SDGsが採択されたのは2015年。目標達成の期限である2030年から逆算するすると、今年は折り返しの年に。
国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたのは2015年。目標達成の期限、2030年から逆算すると2023年はちょうど折り返し地点にあたります。国連が2023年7月に発表した「持続可能な開発目標レポート 2023」から、環境問題など主な項目を数字で解説!
【総括】SDGs全体でみて、順調に進んでいるのは約15%
国連は2023年7月、「持続可能な開発目標レポート 2023」を公表。データの評価が可能な約140の指標のうち、2023年は約48%が「大きく軌道を外れている」、約37%が「停滞または後退」というデータを発表しました。折り返し地点の現在、順調に進んでいるものは約15%しかないといいます。
その原因として新型コロナウイルス(Covid-19)の感染拡大や気候変動(Climate)、ロシアによるウクライナ侵攻(Conflict)の影響も大きく、さらに世界の食料品やエネルギーの価格高騰を招いたのが影響し、主な原因の頭文字をとって、3つのCといわれます。そして現在、脆弱(ぜいじゃく)な国やそこに住む人々が大きな痛手を受けているといいます。
この状況を受けて、国連広報センターの根本かおる所長は次のように話しています。
「非常にピンチな状況です。これから10年間の選択が、数千年の地球の未来を変えますから。日本の状況を見てみると、ここ数年で日本におけるSDGsの認知度は9割※1 にまで上がりましたが、シンクタンクによる2023年の世界におけるSDGsの達成度ランキングでは、日本は21位。2017年に11位だったところから大きく後退しています」
「今、必要なのは一人ひとりが自分ごととして捉えることだと思います。例えば環境問題であれば、うたい文句がグリーンウォッシュでないか見極めること。また、日本の過剰包装は世界から見ると特殊です。必要なもの、必要でないものを選別することも大切です」
※1 電通が2023年2月に、全国の10~70代の男女計1400人に行った「SDGsに関する生活者調査」より。
以下、「持続可能な開発目標レポート 2023」をもとに、SDGsの現状をお届け!
【総括】2023年の世界におけるSDGsの達成度ランキング、日本は21位
国連と連携する国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」が2023年6月に発表した「世界のSDGs達成度ランキング」によると、日本のSDGsの進み具合は世界21位という結果に。
日本は2017年に過去最高の11位だったものの、以降は徐々にランクを落とし、2022年の19位からさらに後退したこととなります。ちなみに1位はフィンランドで、2021年から3年連続で1位の座をキープしています。
【目標2】世界で3人に1人が中程度または深刻な食料不足の不安に直面している
パンデミック、紛争、気候変動、不平等の拡大により、飢餓と食料不足の不安に直面する人の数は2015年以来増加していて、状況はさらに悪化しています。2022年には世界人口の約9.2%が慢性的な飢餓に直面しており、これは約7億3,500万人に相当するのだとか。これも、2019年と比べて約1億 2,200万人増加と、大きく後退する結果に。
また世界人口の推定29.6%、約24億人が十分な食料を得ることができず、その数は2019年よりも約3億9,100万人増えました。エリアで見ると特に深刻なのがアフリカ。そして、アジアで広がっているそう。このままだと2030年には世界中で6億人以上が飢餓に直面すると予測され、飢餓ゼロを達成するという目標からは大きくかけ離れてしまうことになりかねません。
【目標4】このままだと2030年時点で約8,400万人の子どもや若者が基礎学力を身に着けられない
新型コロナウイルス感染症は教育に大きな影響を及ぼし、調査対象となった104カ国のうち8割の国で学習の機会が失われたことが判明しました。
2015年から 2021年の間に、世界の小学校修了率は85%から87%に、日本の中学校にあたる前期中等教育修了率は74%から77%に、日本の高校にあたる後期中等教育修了率は53%から58%にそれぞれ増加したものの、改善のペースは2000年から2015年の期間に比べて大幅に遅れ、特にサハラ以南のアフリカでは、小学生の子どものうち、予定どおりに卒業しているのは62%のみだといいます。
普遍的な中等教育修了の目標を掲げる一方で、国家目標に基づいて 2030 年までにこの目標を達成することを目指しているのは 6 カ国中 1カ国だけだとか。たとえこれらの目標が達成されたとしても、2030年までに推定8,400万人の子どもや若者が学校に通えないことになる見込みです。
【目標5】職場でのリーダーシップがジェンダー平等になるまでに、このままだと約140年かかる
世界的にみて、女性は総雇用の40%近くを占めているけれど、2021年時点で管理職に占める女性の割合は28.2%にとどまっています。管理職における女性の割合の増加は遅々として進まず、2015年からはわずか1.0%ポイントの増加となりました。この増加率から考えると、管理職におけるジェンダー平等を達成するには約140 年以上かかる計算となります。
また、管理職における女性の割合を世界で比較すると、全地域が総雇用数に占める割合を下回っているなか、サハラ以南アフリカが最も進展を見せ、2021年には38.2%に達していました。逆に、北アフリカや西アジア、中央アジア、南アジアの割合は約15%と最も低く、これらの地域における女性の就業率の低さが関連していると見られています。
【目標7】世界で約6億7,500万人が暗がりで暮らしている
世界の電力アクセス率は、2015年の87%から2021年には91%に増加。さらに約8億人近くに電力が供給できるようになったといいます。ただ、このように着実な進歩があった一方で、2021年時点でも約6億7,500万人が依然として電力を利用できず、そのほとんどが後発開発途上国に居住しているのが現状です。
また、サハラ以南のアフリカにフォーカスすると、2010年以降で人口増加により電力にアクセスできない人の数は変わらず停滞し、2021年には約5億6,700万人がアクセスできないままに。現在のペースが続けば、2030 年までに約6億6,000万人が電気のない状態に陥るといいます。
【目標10】2022年に難民の数が過去最多、約3,460万人に上った
世界の難民の数はここ10年以上毎年増加しており、2022年末には約3,460万人に達し、過去最高を記録しました。これは、世界で233人に1人が、戦争や紛争、迫害、人権侵害、または公の秩序を著しく乱す出来事を理由に、母国から逃れたことに相当します。
全難民および国際的保護を必要とするそのほかの人々のうちの52%は、シリア・アラブ共和国(約650 万人)、ウクライナ(約570 万人) のわずか 3カ国の人で占めたほか、アフガニスタン人も約570万人に達しました。また、2022年末時点で難民全体の約41%が子どもで、難民の51%が女性と女児であったこともわかっています。
【目標12】1年間に1人当たり平均で約120kgの食料を無駄にしている
世界の食料の13.2%が、農場から消費者までのサプライチェーンに沿って収穫後に失われています。しかも、2016年からこの状況はほとんど変わっていないといいます。
食品ロス(可食部分のみの廃棄)で見ると、特にサハラ以南のアフリカは、世界の全食品ロスのうちの約20%と最も多くを占め、ヨーロッパと北アメリカの約9%よりもはるかに高い数字を記録しています。
また食料廃棄物(不可食部分も含む)では、2019年には約9億3,100万トン、1人当たりに換算すると約120kgという数字を記録。「2030年までに1人当たりの食料廃棄と損失を半減する」という取り組みにおいても、大きく目標から外れる結果に。
【目標13】このままだと世界の気温上昇は2035年までに1.5度を超え、2100年までに約2.5度上昇する
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の総合報告書によると、特にこの1世紀にわたる化石燃料の燃焼、持続不可能なエネルギーと土地利用、維持不可能な消費と生産パターンが、産業革命以前のレベルを1.1度上回る地球温暖化を引き起こしているといいます。
これにより、あらゆる地域で異常気象や気象現象が急増し、今や気候変動が日常的に見られるように。
国連気候変動枠組条約 (UNFCCC) の最新の国家決定貢献量 (NDC)総合報告書では、パリ協定に基づく193締約国の気候公約を合わせると、2030年までに温室効果ガス排出量のわずかな減少(2019年と比較して0.3%減) を達成することが期待されています。けれどもこれは、IPCCが要求する1.5度経路での排出削減43%には大きく及ばず、今世紀末までに世界の気温は約2.5度上昇という持続不可能な潜在的な温暖化に陥るという予測もされています。
またIPCCは、分野横断的な政策を強化しなければ、世界は2035年までに重大な転換点である1.5度の上昇を超える可能性が高いと警告しています。
【目標14】リサイクルされているプラスチックごみは約9%
世界のプラスチックごみの約79%が埋め立てやゴミの山、不法投棄を生んでいます。そして約12%が焼却されていて、リサイクルされているのはたったの9%ほどだとか。また世界中で使用されるレジ袋は毎年、最大5兆枚だといわれており、1分あたりに換算すると約1,000万枚にも上ります。これは、毎年800万トン以上のプラスチックがごみとして海に流れ込んでいる計算になり、すでにその数は銀河系の星の数よりも多く、2050年には魚の量より多くなるとの予測も。
日本では、消費者庁によると1年間に約940万トンのプラスチックごみが排出されており、そのうち容器包装・コンテナーが約426万トンを占めているそう。日本における使い捨てプラスチックの使用量は、アメリカに次いで世界2位といわれています。
【目標16】2022年末の時点で、1年で紛争関連での民間人の死者数が50%以上増加した
世界中で現在も新たな暴力紛争が発生し、平和と目標16の達成に向けた道が、世界的に阻まれています。2022 年には、主にロシアによるウクライナ侵攻が原因で、紛争関連の民間人死者数が1年間で50%以上も増加。2015年に2030アジェンダが採択されて以来初めての増加となりました。
無差別かつ不均衡な攻撃を含む重火器や爆発性弾薬の使用率は、2021年の13%から2022年には39%に増加し、紛争が過熱していることを示しています。そして死者の約90%はサハラ以南のアフリカとヨーロッパに住んでいる人が占め、特に10人中4人はウクライナに住んでいた人たちだと見られています。
また、2022年末の時点で、世界中で強制避難させられていた人の数は約1億840万人に達し、これは2021年末と比較して約1,900万人増加、10年前の2.5倍となっています。
SDGsの現状を総まとめ
危機に瀕しているSDGsも多いなか、前述のように電気にアクセスできる世界人口の割合が増え、新たに8億人近くに電気がもたらされたなど、一部の分野では前進も見られています。また、2021年までに133カ国が5歳児未満の死亡率に関するSDGsターゲットをすでに達成しており、2030年までにさらに13カ国が達成する見込みであることも示されるなど、明るい話題もあります。
一人ひとりの行動と強い政治的意思、そして利用可能なテクノロジーや資源、知識の有効活用が組み合わされることで、あらゆる人々にとってより良い未来を築くための突破口が開かれることは間違いないでしょう。