生活リズムの基本となる睡眠。睡眠に不安があると、日中の体調に影響を与えてしまうことも。睡眠の質を上げるためのテクニックは数多くあっても、その中には実際には逆効果なものも。

そこで本記事では、「睡眠の質と飲み物の関係」を専門家に取材。 質の良い睡眠をサポートするうえで欠かせない“水分補給の重要性”などについて、「眠りと咳のクリニック虎ノ門院長・東京医科大学睡眠学講座客員講師」の柳原万里子先生が解説してくれました。

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水分補給と快眠の関係

寝る前に飲んだものは、どのように睡眠に影響するのでしょうか。そもそも飲み物には、“水分補給”の役割と、風味や味を楽しむ“嗜好品”としての2つの役割が考えられます。

適量の水分補給が快眠に繋がる

    睡眠中は約350ml(室温により200ml~800ml)の汗をかくといわれています。このため就寝前の適度な水分補給は脱水症を防ぐためにも大切。一方で飲みすぎにも注意が必要です。

    「就寝前の適量の水分摂取は、睡眠中の上手に発汗と体温調節に役立ちます体温調節は、質の良い深い眠り(=脳や体がしっかりと休める睡眠)と関連しています」
    「一方で、過剰な水分摂取はトイレのための中途覚醒を増やす原因になります。就寝前の水分摂取は適量(350ml)以外にも、利尿効果や覚醒効果のある飲料は避けるように気を付けましょう」
    glass of water on table against wall
    Anass Bachar / EyeEm//Getty Images

    寝る前の水分補給が睡眠をサポート

    柳原先生によると、睡眠中の体の深部体温(脳や内臓などの体温)は日中よりも低いそう。この深部体温の低さは「睡眠の深さ」と密に関連していることが知られています。

    • 入眠するために、人はしっとりと汗をかく
    「眠そうな子供さんの身体が温かくしっとりと汗をかいているのに気づいたことはありませんか? これは身体が深く眠るための準備を始めているサインです」
    「触ると温かいのは皮膚の血流をよくして体表から体温を発散させているから。汗は気化熱(水分が蒸発するときに熱をうばう現象)を利用して体温を下げているので、体の表面から体温を逃して、体の深部(脳や内臓、筋肉など)の体温を下げると、脳や身体がしっかりと休める深い眠りをとりやすくなります」
    • 就寝前にはコップ1.5杯分(約350ml)の水分補給を

    睡眠中の発汗量を推定すると、就寝前の水分補給の目安はコップ1.5杯分(約350ml)。適量の水分補給は質の良い睡眠へと導いてくれます。

    「睡眠中に上手に汗をかくことができると、安定した良い睡眠をとりやすくなります。他にも、寝室が蒸し暑かったり、パジャマや寝具の通気性が悪かったりすると、上手に汗をかけず寝苦しくなります」
    「寝室の気温や湿度、通気性のよい素材の寝具などで寝室環境を整えることも快眠へつながります」

    睡眠の質を上げる飲み物

    白湯などの水以外の飲料を就寝前に飲む場合には、何を飲むかによって睡眠の質が変わってきます。

    「たとえばハーブティなどのリラックス効果のある飲料は、入眠を促し睡眠を維持しやすい副交感神経系優位の自律神経バランスへと導いてくれる効果が期待されます」
    「一方で、カフェインを含む飲料は覚醒効果と利尿効果があります。入眠を妨げるだけではなく、トイレのための中途覚醒を生じやすくなるため就寝4~6時間前からの摂取は避けるよう工夫が必要です」
    「アルコールにも利尿効果と入眠後の覚醒効果がありますので就寝2時間前には飲み終わるように気を付けましょう」

    民間療法として昔から寝つきをよくすると言われている、牛乳(ホットミルク)や蜂蜜、ハーブティーなどは、柳原先生によると、その効果を検証した研究報告はあるものの、研究の条件や検証方法が統一されていないので、誰にでも必ず効果があるとは言えないそう。

    しかし、害になるものではないので、好みに合わせて就寝前のルーティンとして取り入れてみてはいかがでしょうか。

    「面白いことに蜂蜜やハーブティーの場合には、その種類によって睡眠への良い効果があったりなかったりします。蜂蜜でいうと、日本でも比較的手に入れやすい『アカシア蜂蜜』は睡眠に良い効果が報告されています」
    「ハーブティーに関してはカフェインレスで、好きなアロマのものを選ぶとリラックス効果も期待できるでしょう」

    睡眠の質を上げるには乳酸菌もおすすめ

    最近の研究によって、腸内環境も睡眠の質に影響しているということが明らかに。そのことから、乳酸菌飲料も注目されています。

    「腸内細菌そう(腸内フローラ)と脳の関係を『脳腸相関』と呼びます。ある種の乳酸菌が腸内で増えることにより、ストレスへの抵抗力が増すことや、睡眠の質を改善する効果が期待されることが報告されています」
    「ハーブティーや蜂蜜と同様に、乳酸菌であればどの種類の乳酸菌でも睡眠に良い効果が期待されるというわけではないことに注意が必要です」
    organic probiotic kefir or yogurt with probiotics in glasses
    Viktoriya Telminova//Getty Images

    寝る前に控えた方がいい飲み物

    柳原先生は、アルコールやカフェインを含む飲料を就寝直前に摂取することは避けるようにアドバイス。

    「先にも述べましたが、カフェインやアルコールには覚醒作用や利尿作用があります。アルコールは寝つきを良くしますが、入眠後の睡眠を浅くするため、中途覚醒や熟睡感の不足を招きます」
    「酔った勢いですぐに寝られたものの、朝起きたときにすっきりしない、そんな経験がある方もいるのでは?カフェインは就寝4~6時間前までに、アルコールも就寝2時間前までに飲み終わるようにしましょう」
    • アルコールは依存性の高さにも注意

    眠れないとき、ついついお酒の力を借りて寝てしまおうとすることがあるかもしれません。睡眠薬に頼るほどではない、と考えがちですが、柳原先生は次のように加えます。

    「寝つきを良くするためにナイトキャップとしてお酒を利用する人もいますが、実はアルコールは病院で一般的に処方されている、安全性が高いとされている睡眠薬よりも依存性が高いことが知られています。常用するとアルコール依存症や肝障害、膵炎など不眠以外の疾患のリスクを招いてしまいます」
    「また飲酒により、いびきがひどくなったり、睡眠中に無呼吸を生じやすくなる人もいます。うまく寝られないからといってアルコールをとるのは逆効果。困っている場合にはぜひ気軽に睡眠外来に相談をしてください」
    • コーヒー以外のカフェインにも注意して

    カフェインはコーヒーのほか、緑茶やココアなどにも含まれます。就寝前に楽しみたいときには、デカフェなどカフェインレスのものを選ぶようにしましょう。

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    Maria Korneeva//Getty Images

    睡眠に不安を感じたらまずは睡眠外来へ

    眠りの不調が続いたら、まずは不調になった心当たりを探すこと。そして自分では睡眠への不満が解決しない場合には、気軽に睡眠専門医へ相談することが大切だと先生は話します。

    • うまく眠れない原因の追及も大切

    厚生労働省による令和元年の国民健康・栄養調査の報告によると、睡眠に不満を持っていない日本人の割合は31%。つまり3人に2人は睡眠に関して何らかの不満を持っていることになります。

    「昨今では、サプリメントや乳酸菌飲料など、睡眠への効果を謳った様々な商品を目にするようになりました。それだけ睡眠へ関心を持つ人や睡眠に悩まされている人が増えているということだと思います」
    「こうしたグッズを利用することも役立つかもしれませんが、まずは不調になった心当たり(生活環境の変化やストレス、生活習慣、内服薬など)を探すこと、原因からアプローチできないか検討してみることをお勧めします」

    また、自分ではうまく解決できない場合には気軽に「睡眠外来」へ相談することも解決に向かう大きな一歩。「睡眠外来」では睡眠や生活についてしっかりと問診し、うまく眠れない原因を探したり、対策を一緒に考えてくれます。

    「睡眠外来」は大学病院などのほか、クリニックでも開設されています。日本睡眠学会では、睡眠専門医の在籍するクリニックや病院の情報が都道府県別に公開されているので、睡眠について不安を抱えている人はチェックしてみてください。

    今回お話を伺ったのは…

    眠りと咳のクリニック虎ノ門 院長 柳原万里子先生

     
    コスモポリタン編集部
    医学博士。日本睡眠学会睡眠専門医。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医。筑波大学睡眠呼吸障害診療グループ講師、睡眠総合ケアクリニック代々木勤務を経て、2022年11月に「眠りと咳のクリニック虎ノ門」を開院。多岐にわたる睡眠障害の診療と臨床研究を行っている。東京医科大学睡眠学講座客員講師。公益財団法人神経研究所睡眠研究室客員研究員。睡眠健康推進機構学校訪問型睡眠講座・出張睡眠市民講座事業登録講師。著書に「臨床医のための疾病と自動車運転(三輪書店2018年)」「診断と治療のABC睡眠時無呼吸症候群(最新医学社2017年)」など。