自分の人生は、自分でしか生きられないし、どう楽しんでいけるかは、毎日の選択と気持ち次第。どんな生き方だって、自分で選んできている人は、いつだって魅力的に見えるし、自然と心惹かれるもの。コスモポリタン日本版では、人生を謳歌しているさまざまな女性の生き方を紹介していきます。

イマン・アルデべさん

「Iman Aldebe(イマン・アルデべ)」デザイナー

ラグジュアリー・ファッション業界で、今後ムスリム市場が拡大し続けると言われています。
2016年にはドルチェ&ガッバーナがアバヤ(中東女性の伝統民族衣装)やヒジャブ(ヘッドスカーフ)のコレクションを発表、2018年にはH&Mが「モデストファッション(肌の露出を控えた装い)」のコレクションを発表しました。トムソン・ロイターが発表したレポートによると、2015年には世界のファッションにおいて、消費の11%をムスリムの消費者が占めたそう。

その反面、2001年のアメリカ同時多発テロ以降に蔓延したイスラムフォビア(イスラム嫌悪)などから、ムスリム女性のファッションが批判にとらえられることがあるのも事実。

そんな分断された社会で、ムスリム女性にとって「隠す」ためのヘッドスカーフを、「見せる」ためのファッションにしようと、ハイセンスなターバンやヒジャブを創作しているのがスウェーデン在住のデザイナー イマム・アルデムさん。現在、彼女が創作したオートクチュールのターバンやヒジャブはストックホルム、パリ、ドバイのブティックで販売されています。

「ヒジャブを『宗教』から『アート』へとイメージを変えることで、社会の中でムスリム女性への認識をポジティブに転換したい――」

そんなイマンさんも、ヨーロッパに住むイスラム教徒としてかつては偏見を受けた一人。彼女が直面したつらい経験を、「挑戦する勇気」に変えた背景に迫ります!

イスラム女性のファッションを「隠す」から「見せる」へ革命!
eero

――イマンさんは、ストックホルムでイスラム教徒の指導者の娘として生まれました。敬虔なイスラム教徒の家庭に生まれるということは、どのようなことを意味しますか。

スウェーデンで、ヨルダン出身の両親のもとに生まれました。

私が子どもだった90年代当時、スウェーデンではイスラム教徒の移民がまだ少なく、私の父が指導者を務めていたストックホルムのモスクは、多くのイスラム教徒がお祈りにくる場でした。それは、スウェーデンのメディアにとっても興味の的でよくテレビが取材に来ていました。

そのため、家族全員がロールモデルとして“イスラム教徒”を体現しないといけませんでした。母は伝統的なムスリム女性の装いをしていたのですが、一方で私はトレンドのメイクやファッションが大好き。子供の頃から、ファッションデザインのデッサンをしていました。

――ヨーロッパで暮らす「ムスリム女性」にとって、ファッションの面で大変と感じることは?

私が10代の頃は、スウェーデン人の同級生のようにファッションを思う存分楽しむことはできませんでした。当時はブリトニー・スピアーズやジェニファー・ロペスが人気で、ローライズデニムがトレンド。現在のようにおしゃれなモデストファッションも少なく、ムスリム女性が着用できる慎ましい(身体のラインを隠し、露出を控えた)トレンドの服は、妊婦用のもののみでした。

また、ムスリム女性の伝統衣装は、欧米のアクティブな女性のライフスタイルには合いません。例えば、バスや電車に遅れそうになっても、服が長すぎるので走ることができないのです。

――2001年の同時多発テロ後は、欧米社会で多くのムスリム女性が偏見や差別を受けたそうです。当時10代だったイマンさんも、辛い思いをされたそうですね…。

同時多発テロの後は、ムスリム女性にとっても大変な時期でした。地下鉄に乗っていると、カバンを持っているだけで不審人物を見るような視線を浴び、ひそひそと「あの子、爆弾を持ってるんじゃない?」と人々が私のことを避け始めたり、知らない人に強く押されたこともありました。

そんな状況で、私の周囲のムスリム女性たちはテロリストと思われないように、外に出るときは必要以上にいつもニコニコしたり、「不審人物ではない」ということを証明しないといけないため、とても疲れていました。

そしてショックを受けたのは、「雇用」への影響でした。10代後半の頃にブティックでアルバイトをしたくて面接に行くと、人手が足りていると断られました。責任者の対応に違和感があったので、試しにイスラム教徒じゃない友達に履歴書を持って同じ店に応募してもらうと、彼女は“即採用”でした。理由は私が“ヒジャブ”を被っていたから。その他のアルバイト先に面接に行っても、「ヒジャブを被っていたら、どこも雇ってくれないよ」と言われました。

このようにヒジャブを装着するだけで、判断されてしまうなんておかしい…。自分が着たい服を選ぶのは、自由のはず。他人のファッションを批評をすることは、パーソナルスペースを侵害することだと思います。それに「ムスリム=テロリスト」なんかじゃない。ムスリム女性が、社会に溶け込めない人というイメージを変え、彼女たちが自分らしく生きてほしい――。

そこで、ヒジャブの持つ宗教的なイメージを、「アート」に転換することを考えました。一見、「イスラム教徒」か分からないヒジャブをつくろう、と。

ヒジャブの巻き方は工夫次第。一度オシャレにアレンジしてヒジャブを巻いてみると、それまで冷たい視線を受けていたのとは一転、知らない人から「素敵!」と言われるようになりました。

―― イマンさんはターバンやヒジャブをつくる際、どのような思いを込めていますか。

イスラム女性のファッションを「隠す」から「見せる」へ革命!
Iman Aldebe
被ることでパワーがみなぎり、自立して、自分らしくファッションを楽しめる――。そんなヒジャブをつくりたい

これまで「隠す」ためにヒジャブを被っていた女性に、「見せる」喜びを味わってほしかった。被ることでパワーがみなぎり、自立して、自分らしくファッションを楽しめる――。そんなヒジャブをつくることで、ムスリム女性の存在をポジティブなイメージにしたかった。だから、私のつくるターバンやヒジャブは明るい色のものが多いです。

それと、デザインには様々な文化からインスピレーションを取り入れています。ターバンという私の作品の上で、人々や文化が交流してほしいからです。

――イマンさんは、スウェーデンの警察などにもヒジャブを作ったそうです。国内でどのような反応がありましたか。

イスラム女性のファッションを「隠す」から「見せる」へ革命!
Iman Aldebe

スウェーデンでは軍隊や警察などの職場で、「宗教的メッセージを伝えてはいけない」と議論されてきました。でも、ムスリム女性の雇用状況をポジティブにしたく、警察、消防士、軍隊などの制服用のヒジャブをつくりました。

結果、ポジティブとネガティブな反応に二極化しています。

イスラム教徒の女性警官が私の作ったヒジャブを着用したことで、それまで警察になるのを諦めていたムスリムの女の子たちも「私もなれる!」と応募したようです。そして何度か、「あなたのヒジャブのおかげで夢が叶った」と感謝のメールをいただきました。

一方で、保守派、そして敬虔なイスラム教徒などからは、脅しや脅迫も受けています。でも、これは誰かが変えていかないといけないこと。だから、私は挑戦し続けます。

そして実は私の顧客の80%が、イスラム教徒ではない人たち。今後も、ファッションを通して西洋社会とイスラム社会を橋渡していきたい…それが、私の「夢」です!

instagramView full post on Instagram

自分自身が「偏見」を持たれてつらい思いをしたからこそ、特技の「ファッションデザイン」で分断された社会を繋げる――。そして自分の信念を貫くことで、一歩一歩、確実に人や社会の役に立つことができる。端々に芯の強さが感じられるイマンさんの言葉からは、そんな希望が伝わってきました。

【イマムさんから学んだ「恐れないで挑戦する」秘訣】

・周囲の批判は気にせず、自分の信念を貫く

・他人や他の文化を「理解」しようと努める

・「好きなこと」や特技が、自分自身の最大の「武器」になる