相手の性別を問わずに、セクシャリティを探求することに興味・関心を持つ人を指す「バイキュリアス」。

たとえば、ヘテロセクシュアル(異性愛者)だと自認しながら、同性に対して恋愛や性的感情があるかもしれない人や、同性に興味があるものの同性との性行為経験がないためにバイキュリアスであると自認している人も。

イギリスでライターとして活動するスーザン・スコットさん(仮名)は、自身の性の流動性を探求するためにバイキュリアスクラブの会員になり、女性限定のグループセックスのイベントに参加。

その一夜の赤裸々な体験と、バイキュリアスを自認するに至った経緯、パーティ参加後の夫婦関係の変化について綴ったエッセイを<レッド・イギリス版>からお届けします。

※本記事は、<レッド・イギリス版>に掲載された体験談を翻訳したものです。日本で同様のイベントに参加することは、「公然わいせつ罪」などに抵触する行為となる可能性があります。

夫公認で参加…「バイキュリアス」なセックスパーティでの体験談
Getty Images

語り:スーザン・スコット(仮名)

前日に知らされた秘密の場所へ

ある夜のこと。豪華なペントハウスで一糸まとわぬ姿で立ち尽くした私は、不安と欲望が入り交った感情で、目の前に広がる快楽の光景に見入っていた。絡み合う四肢、恍惚のうめき声。オーガズムに達する、あらゆる体型の女性たち。彼女たちは皆、バイキュリアスな欲望に駆り立てられている。

ここは、バイキュリアスやバイセクシャルを自認している人のためのイベント「Skirt Club」。セクシュアリティ探求を推進する女性限定のネットワークで、ニューヨークやベルリン、上海など、世界各国に支部を持っている。

私が参加したのは、ロックダウン前のロンドンで開催された「Skirt Club」の名物イベントのひとつ。参加した目的は、自分の中で高まっていたバイキュリアスな気持ちを探求するため。夫のジェームズ(仮名)は、私がこのイベントに参加していることを知っていて、遠く離れた自宅で子どもたちを寝かしつけている。

ブラックのミニドレスにハイヒール、そして自分が持っているなかで一番セクシーな下着を身にまとい、前日に知らされた極秘の住所に近づくと、胸が高鳴った。

赤いリップをつけた主催者側の女性二人が笑顔で温かく迎えてくれ、私が初参加だと知ると、手首に鍵のストラップをつけてくれた。その一人が、私の耳元で囁く。

「あなたが初心者さんだって、みんなが分かるように。特別に優しくしてもらえるよ」

非日常の空間に膨らむ期待

コートをかけてから、同じように鍵の目印をつけた隣の女性に緊張しながら話しかけた。お互いに事情を打ち明けると彼女も30代後半で、状況も一致していた。

既婚で子持ち、緊張していて、ワクワクしている--。これが私が女性を好きな理由のひとつだと気づく。つまり、すぐに弱みを打ち明けてくれ、心を開いて、つながろうとするところ。

雑音と笑い声で満ちた部屋に一緒に移動すると、簡易的なバーを見つけた。甘い香りが漂う空気に、充満する期待感。チケット代80ポンド(約1万2000円)はドリンク代込みなので、気兼ねなくお酒が飲める。日常から離れ、予想以上に興奮している自分がいた。

そうこうしているうちに、大きなメインルームに案内された私たち。

室内は、最高潮に盛り上がったカクテルパーティーのような騒々しさだ。好奇心に満ちたおしゃべりは、「どこで一番強いつながりを感じられるか」を探る、女性にとって不可欠の前戯。

ステージではバーレスクダンサーが踊りを披露し、体の内からセクシーさを感じるためのポイントについて話してくれる一幕も。ダンサーは魅惑的で、彼女のパフォーマンス後、何人かの女性が服を脱ぎ出して下着一枚になると、場の雰囲気が一転。同じことをしなくてもいいと分かりつつも追随すると、ワイルドで解放された気分に。

夫とセックスとは違う快感

手を繋いだ女性たちが、ベッドルームへと消えていき、私も、初参加の新しい友人と一緒に暗い部屋へと足を踏み入れた。すると、曲線の美しいロングヘアの女性が私たちをダブルベッドに手招く。ぎこちなく応じた私たちに、キスや愛撫が降り注がれ、すぐに緊張は解けていった。

夫とのセックスとは、まったく違う。まず気づくのは、女性特有の肌のやわらかさと、自分の唇に触れる唇のやさしさ。次に、間近に漂うパフュームに、ボディクリームやシャンプーの香り。

私の意識は、初めて体験する魅力的な感覚に集中した。こんなに「生きている」と感じたのはいつ以来だろう。セッションが自然に終わると、私は自分の下着を探し出して、メインルームの中で絡み合った体のジグソーパズルを通り抜けて、パーティを後にした。

翌朝、自宅に向かう電車の中、記憶があまりにも鮮明で、自分の中の燃え続ける気持ちが煽られた。あたかも急に性欲のスイッチが再び入ったかのようで、夫と会うまでにそれが切れないことを祈った。嬉しいことに、切れなかった。

バイキュリアスを自認したキッカケ

私がバイキュリアスを自認したのは、10年ほど前のこと。私は、第一子を出産した後、深刻な産後うつに陥っていた。2年ほどは抗うつ剤を大量に服用し、まるでゾンビのような気分だったし、副作用で性欲はかき消されてしまった。

そして薬をやめた時に、以前よりも女性に惹かれていることに気づいた。これまでも女性の体は美しいと思っていたけれど、自ら探求しようとまでは思っていなかった。 でも、今度の欲求は明らかに違った。まるで自分の奥深くに隠された部分が、外に出たがっているようだった。

女性に惹かれること自体は刺激的だった一方で、自分自身を混乱させたし、恥ずかしいことのようで誰にも打ち明けられなかった。特に夫には。

同じ頃、「The School of Life(充実した人生の送り方を教える団体)」で、低迷するセックスライフを蘇らせる方法に関するワークショップに参加。そこで初めて、セクシャリティの流動性や、特に出産などのライフイベントの後にはセクシュアリティが変化するのはよくあることだと知った。

打ち明けた時の夫の反応は…

そうして、自分のバイキュリアスな一面について、夫に打ち明けることを決意した私。

産後うつで弱りきった経験から、どんな会話もタブーにはならない夫婦関係が築かれていたことは、私にとってある意味ラッキーだった。とはいえ、ようやく勇気を出して彼に打ち明けたときは、やっぱり緊張した。

「もし私が、急に女性に惹かれはじめたって言ったらどう思う?」と聞くと、彼は笑顔でこう言った。

「結論を急いじゃいけないよ。まずは、自分で色々と探求してみたら?」

それでもしばらくの間、私は自分のバイキュリアスな感情を無視しようとした。仕事や、子どもたちの面倒で忙しい生活を送っていたし、自分のセクシャリティの探求の優先順位は低いと感じたのだ。

ところが夫は、私の自分探しを手伝いたいという気持ちから、自ら「Skirt Club」を見つけ出し、チケット代まで負担してくれたのだ。

Skirt Clubの意義

「Skirt Club」クラブの創設者であり、バイセクシャルで男性と結婚しているジュヌビエーブ・ルジューヌは、次のように話している。

「このコミュニティを始めたのは、自分と同じような状況にいる女性たちと繋がるため。レズビアンバーや男女合同のイベントなどにも行ってみたけれど、どちらも私が求めているものを提供してくれませんでした」
「セクシュアリティについてオープンに話せて、できれば複数のレベルでつながることができる女性と出会いたかった。男性パートナーの影響を受けることなく、自分が何に興奮するのかを自分で発見したかったんです」

「Skirt Club」は、グループセックスのイベント以外にも、カクテルバーで開かれる社交イベントの開催や、時には教育プログラムを含む少人数の飲み会も開催している。コロナ禍でのロックダウン中には、定期的にオンラインイベントも開催されていた。

参加後の変化

私は最初のイベント後にも、何度か「Skirt Club」主催の他のイベントに参加した。そして、自分のセクシュアリティを「今すぐに」定義するつもりはないということに気づいた。それどころか、いまだかつてないほど夫に惹かれている。

幸いにも、夫は私が女性とセックスしたことに嫉妬は見せず、私が興奮していることに彼も興奮しているようだった。パートナーとして、お互いが成長するために寄り添うことを彼は重要視しているから。

夫と私は、今までで一番幸せだし仲もいい。前よりも性生活も充実するようになったし、ベッドルームの中でも外でも、もっと一緒に笑うようになった。

それに、バイキュリアスなイベントのおかげで、私は自分の体に自信を取り戻すことができた。産後からずっと支配されていた「私の体は皮膚がのびきっていて不格好」だと考えから解放された。

セクシャリティは流動的であってもいいもの。だからこそ、私はまだ旅の途中にいると考えている。バイセクシャルであることをカミングアウトすることで、家族にどんな影響を与えるかは、時間をかけて考えたいと思う。

この翻訳は、抄訳です。
Translation: Kate SawaharaOffice Miyazaki Inc.
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