第31回ジュノン・スーパーボーイコンテストにてDDセルフプロデュース賞を受賞し、「可愛すぎるジュノンボーイ」として話題になった井手上漠さん。その吸い込まれるような美しさと、幅広い世代が共感する発信力が魅力です。

Z世代のアイコンでもあり、唯一無二の存在である井手上さんが考える「自分らしさ」や、オープンになることができた理由を聞きました。

第31回ジュノン・スーパーボーイコンテストにてddセルフプロデュース賞を受賞し、「可愛すぎるジュノンボーイ」として話題になった井手上漠さん。その吸い込まれるような美しさと、幅広い世代が共感する発信力が魅力です。唯一無二の存在である井手上さんが考える「自分らしさ」や、オープンになることができた理由を聞きました。
Koichiro Inomata

撮影はどうでしたか?

めちゃくちゃ楽しかったです。普段はモノトーンを着ることが多いのですが、お仕事で色物を着るとすごく楽しいので、最近は、カラー×カラーも普段から着てみようかなと思うようになりました。

高校生活も今年度で最後ですが、どのように過ごそうと?

3年生になって、あっという間に半年過ぎた感じです。コロナ禍での自粛期間もあったし、12月に入ると自由登校なので、残された学生生活は実質2~3ヶ月。卒業後に上京したらみんなになかなか会えなくなるので、いまは友達とずっと一緒に過ごしています。

学生のうちにしかできないことって本当にいっぱいあるんですよね。修学旅行とか、学園祭や体育祭みたいな 一致団結して頑張る行事もそうだし、小さい教室でみんなで授業するとか、たわいもない会話とか、何気に青春だったなって。

以前は「自由が欲しいから、早く大人になりたい」と思っていたんです。でも大人の世界では責任も解決も全部一人で引き受けなきゃいけない。みんなで考えてみんなで解決できる学生って、自由はなくても楽だなって。大人に「若さは無敵」と言われても聞き流してきたけれど、その意味も今はわかります。

仕事と学校の両立は、大変でしたか?

精神的に大変でしたね。学生生活では頭にくることは友達に思い切りぶちまけたり、一緒に愚痴を言い合ったりできるじゃないですか。でもお仕事の悩みを話しても友達にはちんぷんかんぷんだろうし、せっかく慰めてくれても、本当にイライラしていたら「わかんないくせに」と思っちゃいそうで。

友達に「仕事楽しんでるね」って言われると、すごく疲れていてもいつも通りの自分を演じて「楽しいよ」ってつい言ってしまうし、仕事場では「仕事モード」で明るくしていないといけないから、自分を「オフ」にすることができなくて。一時期は人と会うのが辛くて、休みの日は家から出なくなってしまっていたんです。でもちょうどその頃に、コロナ禍の自粛期間が始まって、自分のペースを取り戻すことができました。

SNS での発信については、何か考えていることはありますか?

写真がメインのInstagramでは、プライベートを中心に、大好きなファッションや日常的な場面を投稿しています。Twitterはお仕事を中心に。

インスタのストーリーでは悩み相談とかもしますね。特に私のような中性の人ってこの世界では少数派でなかなか理解されにくいし、何も言わずに悩んでいる人も多いと思うので。私も小さい頃は、周りに同じような立場で、相談に乗ってくれる人がいなかった。幸い、私の母親には理解がありましたが、中には親も反対していて、打ち明けられない子もいるんですよね。SNSを使って、そういう人の悩みを聞いてあげられたらと思って。

今までどんな相談が印象に残っていますか?

多いのは「周りの目が怖くて、自分らしくいられない」みたいな相談です。私は今はオープンにして楽しく過ごせていますが、以前は「自分も周囲と同じ」と偽ることで得られる安心を優先していたタイプだったんです。

でも人と合わせることだけしていたら得られない、自分の思うままに生きる楽しさってあるじゃないですか。確かに勇気は必要だけど、乗り越えればこんなに楽しく生きられると発信することで、そういうふうに悩む人達も何か変わるのかなって。

井手上さんにそれを教えてくれたのはお母さんだそうですね。

母はロックでカッコいい人です。「別に他人に嫌われてもかまわない」というサバサバした性格で、 私が周囲の目を気にしてる時に「生きていれば、文句をつけてくる人は必ずいる」という考えの人なんですよね。

例えば、誰がどう見てもいい子であっても、「モテようと思ってる」って悪く言う人もいますよね。結局、嫌われてしまう人って、自分の好きなように生きていたり、周囲を気にせず行動して、突き進んでいたりするだけなのかなって。私は八方美人でヘコヘコしてしまうから、そういう人って好きなんですよね。

小学生の頃、そのお母さんの化粧品をこっそりと使っていたんですね。

バレたら怒られると思っていたので(笑)。でもある時、私がメイクを仕上げたタイミングで、母がいつもより早く仕事から帰ってきちゃったんですよ。「完全にバレた!」と思ったら「チークはもうちょっと薄いほうがいいんじゃない?」って言ってくれて。そのときに「あ、メイクしてもいいんだ」と思いました。私が今の仕事を選んだことも、最初は心配していましたが、今は応援してくれています。

「自分らしく生きる」って、今の時代に生きるすべての人のテーマ。でも一方で「自分らしさ」に悩む人も多いと思います。

私は「自分らしく生きる」には、まず前提と世の中が整うことが大事だと思うんです。私の場合で言えば、例えばトイレに行く時。女子トイレと男子トイレのどちらに入っても「え!?」と思われることがあるので、多目的トイレに行くことが多いのですが、そういうものがない場所もありますよね。「LGBTQ+に対する差別をなくす」と言われているけれど、同性婚もなかなか認められない。そういう部分が当たり前に整っていない世の中で「自分らしく生きる」のは、そんなに簡単なことじゃないと私は思うんです。

そもそも「自分らしさ」って「自分の思う通りに生きること」だけではないようにも思います。つまり「偽りの自分でいること」を選ぶのも、その人なりの自分らしさじゃないかなって。自分の意志で「こう見られることが自分らしい」と考えて、それが苦痛でないのなら、それも間違いじゃない。正解は人それぞれなんですよね。

制度が整っていないために、最初から「自分らしい」選択肢がないという場合もありますよね。

そういうことって、実は身近にすごくたくさんあるんですよね。私の学校では最近、制服のシステムが変わって、「男性用」「女性用」でなく「Aタイプ」「Bタイプ」として、入学時に好きな方を選べるようになったんです。そうしたら「学ラン」タイプを選ぶ女子がすごく増えたんですよ。全校生徒100人くらいの田舎の学校でそうなんだから、世の中には望まない制服を着ている人がいっぱいいるってことですよね。

私の学校も、私のような「好きに生きてる人」がいたから、「私も」と声を上げやすかっただけで、みんななかなか言い出せない。だから最初から選択制にすればいいと思うんです。そういう部分を少しずつでも変えていかないと、何十年経っても一般的にはならない。時代が遅いなあと思います。実際、私の高校でも制服に関する校則を変えるには、すごく時間がかかりましたから。

制服のシステムが変わったのは、何かきっかけがあったんですか?

学校の校則に「生徒の8割以上が承認したら校則を変えられる」という規定があり、私と友達のふたりで「変えられるなら変えたい」と話していたんです。その子は、身体は女性だけど男性になりたい子だったので。

でも先生には「自分たちの時代にはそういうのはなかったから理解できない」とか「県に話してみないと…」とぜんぜん相手にしてくれなかった。納得できず、校長先生に直談判しました。「私だって、身体も心も男性のまますんなり生きられればどんなによかったかと思う。でも自分の性別は自分で選ぶことができないんです。先生だってスカートを強制的に履かされて廊下を歩けと言われたらすごく嫌じゃないですか? そういう気持ちで、今、私達は生活しているんです」って。そこから県に話してくれて、承認を得ることができました。1年生の時から話していたので、ようやくという感じでしたね。

今後、どんなお仕事をしていきたいですか? 憧れる存在はいますか?

ずっと先の未来の夢としては、自分のプロデュースしたファッションブランドなどを持てたらいいなと思います。周りとかぶらない、自分にしかできないことをやっている人、例えばローラさんや渡辺直美さんに憧れるんですよね。特に渡辺さんは、面白いし、歌も演技もできるし、ファッションにしても自分にしかできないスタイルを持っていて、すごいなって思います。

人としては、20~30代になっても年齢関係なく、ただ幸せでいられれば、それでいいと思っています。


※撮影・取材は10月に行いました。

Photo/Koichiro Inomata Styling/Izumi Machino Makeup & Hair/ANNA.(SHIMA) Model /Baku Idegami Text/Shiho Atsumi

ドレス¥88,300(輸入関税込み・参考価格)/Macgraw(ファーフェッチ カスタマーサービス)、ピアス¥23,000/Kloset_(H3Oファッションビュロー)、シューズ¥36,000/lost in echo(HOUSE OF VIVIANO SUE)

問い合わせ先

ファーフェッチ カスタマーサービス www.farfetch.com
H3O ファッションビュロー TEL. 03-6712-6180
HOUSE OF VIVIANO SUE TEL.03-6352-6761